溶接や、鍛冶、機械の音――
カンカン、チリチリ喧しい音を奏で、金属の演奏会と言えるほどの音。また、火花を散らして切れる鉄を見ると、綺麗だとか、危ないとか、そうしつこく言ってくる白髪で、腰の低いのオロード。
彼は、機械の一つの動作を見る度に、説明、補説、感嘆など言ってくる。自慢の工場なのだろう、しかし彼の声が一番うるさいと、そう思う一行であった。
しばらくすると、奥の“主任部屋”と書かれた板がかかっている扉。そこをオロードが「どうぞ」と開けた。皆、そこへズカズカ入っていく。
土足のままでいいと言われ、入ったその先は質素な住みかだった。
床はコンクリートで固められ、人、十人ギリギリ入るぐらいの広さ。そこにはパイプ椅子が複数、真ん中のテーブルを囲うように円形に個設置してあり、七人座れる。またその奥には木でできた階段があった。
「階段には上るなよ」
オロードが睨みながら、何故かマルクルにそう告げた。
皆早速パイプ椅子に座り、待つ。
そしてあとからオロードが四人を見渡せる位置の椅子に座り、懐から葉巻を取り出して一服。そして嫌な匂いの煙がモクモク出る中
「あんたら…何が望みじゃ?」
そう、聞いてきた。急な質問に、皆少し息が詰まった。
オロードはマルクルをジッと見て――というより睨んで答えを待つ。
「とりあえず自己紹介が先決じゃないのか?」
質問の答えは言わず、マルクルが逆に質問した。
「知らん、まずはお前さんが、わしの質問に答える。それが先じゃ」
頑固な爺さんだ。マルクルはチラッとエリウスを見て、目をオロードに戻す。
「『神木』って知っているか?」
そして、率直に答えた。オロードの目の色は変わらない。
「“知っていたら?”」
そう言って少しにやけてまた聞いてくるオロードだが、その面(つら)はどこかしらブリッジの面影があった。そして、マルクルはその質問に少し悩んだ。
「ロード爺、俺たちは急いでいる。ハッキリしてくれ」
すると、にやけてマルクルを試すオロードを止めるように、ブリッジが一言。
「少々遊びが過ぎたか?」
その一言に、突然意地悪にパッとオロードは表情を変えた。そして優しそうな表情で
「『神木』なら知っとるわい」
そう言った。それにみんないっせいに表情が変わる。ミニッツはブスッとよそを向いているが。
「できれば教えてくれ」
マルクルはそう頼んだ。すると
「お前さん、隠し事は好きかい?」
頼みに応じる気はないのか、『神木』に関係ない質問をまたオロードが聞く。いい加減にして欲しい。
「別に……」
そう言って、マルクルの視線がオロードから外れ下に目を向けた瞬間、視界に光が通った。
気づくととても細い一本の針が、左肩を貫いて、赤いがやや黒っぽい血が流れる。噴出しはしなかったようだ。
「お前……!」
それを見てエリウスが立ち上がる。怒りのオーラが滲み出ている。
「お前さん……左肩が腐ってきてるぞ」
チラッとエリウスを睨んで、座らせた後にオロードが皆に聞こえるように呟いた。意外な展開に、エリウスはマルクルを見るだけだ。ミニッツはチラッとマルクルを視界に入れて、不機嫌そうにまた振り返る。
「仲間に隠し事はダメじゃよ?あと、早く切断せんとお前さん、死んでしまうわい」
そしてオロードはにこやかに、ポカンと肩からダラダラ血が流れているマルクルにそう告げた。そして
「『神木』は他の勢力も持っているぞい。創生者の奴らが裏で操ってるらしいのぅ」
それだけを告げて何事も無かったかのように、ゆったり部屋を勝手に出ていった。
「なんなんだ……あの爺さん?」
「ブリッジと俺のお師匠様」
それを聞いてマルクルは驚いた。肩から流れている血は全く持って気にしていない。
ミニッツはしかめ面で、オロードが歩いていった狭い道の奥をジッと見ていた。そして
「腕、切らないとね」
そう、ため息を付きながらすんなりマルクルに言った。
※
「切断を!?」
ディルキー本部で一人の医者が大きな声を出した。これと同時に周りの医師がいっせいに振り向く。
「あれ…?そんなに驚くことか?」
当たり前でしょう、そう言わんばかりにコクコクと頷く。
「ん、じゃあ明日までに準備お願いね」
あ然となっている医師を気遣うけはいも無く、苦笑しながら医師達に背を向けた。
「切断手続きはとりました?」
「ああ、問題ない……と思う」
「と思う」と言ったときに、エリウスは作戦室を飛び出そうとしたが、「待った待った」とマルクルが慌てて止めた。ミニッツが「うるさいよぉ」と言うように「うー」と唸ってマルクルとエリウスを睨む。
ブリッジは、そんな睨まれているマルクルの左腕をちらちら見ていた。腕切断の件で、彼はどう戦うのだろう?とか、戦力としては?とか。そして何より、万が一自分と戦うことがあればハンデが生まれる、それが恐かった。
「お前……いつも通り戦えるのか?」
マルクルを見て恐る恐るそう呟いた。空気が震えないぐらい小さい声で――
そして、日は落ちていった。
※
朝早い時、手術は行われた。立会人はブリッジが一人。マルクルは手術の時間を医師達に言って、さらに口止めまでしていた。時間は他の仲間に伝えていない。
ブリッジにとって待つ時間は、刹那で、気の遠くなる矛盾したものだった。
グッと拳に力を入れて待つ。不安の方が押し勝っているが、ほんの少しの恐怖もあった。
昨日は眠れなかった。まあここ最近はすることがないので、丁度良い疲労感である。
「お前は不安がある時、一段と神経質になるからのぉ」
昔、そういう風にオロードに言われたものだ。ミニッツ曰く“よぼよぼの死にぞこない”だが、病気は罹ったことがなく、毒は効かない。人の域をことごとく超越して、『刻印』を使ってでも倒せないだろう。オロードは見えないぐらい速く動けて、『刻印』が無くとも針一本あれば基地一つ潰せそうだ。
マルクルにもこんな恩師がいたのだろうか――
三時間はたった午前八時。医療室にマルクルは運ばれていた。起きているのはエリウスと、ブリッジ。ミニッツはパソコンのデータ管理に疲れ果て、私室で倒れている。
切断されたマルクルの腕には、針らしきものが二本刺さって、見たく太い糸で固定されていた。これは『刻印』の力らしい。“癒す力”、麻酔の効果もあり、癒す力もある、とても使い勝手の良い能力だ。だが、誰がこの『刻印』を持っているのかは誰もわかっていない。不思議なことだ。
すると、マルクルが目を覚ました。
「よく寝た」
第一声。二人の気が抜ける。
「痛く…ないですか?大丈夫ですか?」
エリウスが必死に質問した。マルクルは「問題ないよ」と笑顔を作る。
するとブリッジが『銀の雹』を取り出して
「ほらよ」
「あ……サンキュ」
マルクルに手渡した。しかし『銀の雹』を見ながら浮かない顔をしていた。
「造り……直さなきゃな…」
そして、小さくそう呟く。『銀の雹』は両手を使わないとまともに撃てない、大口径の銃。
マルクルは『銀の雹』を下に向けてグリップを握りながら、ハンマーを上げ下げした。カチンカチンと金属音が小さく、切なく音を立てる。目が少し潤った。
「無理は……するなよ」
すると、ブリッジが息を詰まらせながらやっと一言、マルクルに告げた。そして背を向けて足早に医療室をあとにした。
「……エリウス頼みがあるんだけど」
「何でしょう?」
エリウスはマルクルの言う用件に耳を傾ける。そして急に医療室を飛び出していき走って作戦室へ向かっていった。
そんなエリウスを見た、マルクルはマガジンを取り、片手でフレームを分解して脇にある木製の台に乗っける。
そして作業をした右手をそっと、左肩に置いてあげた。
最終更新:2006年08月03日 12:25