「何でこうなるの…?」
三人の内の一人がこぼす。ここは街。
「これで正解じゃねえか、早いし」
「そういう問題じゃないよ!馬鹿」
「でもこれは誰のせいだ?」
やや低い声とともに、小柄な子供が息を詰まらせる。それをこらえながら
「う……俺だけど…。でもブリッジ、お前も悪いよ。何で時間を見なかったのさ」
「パソコンの画面の右下に時間が表示されてるからだ」
「あんまり見ないよ!連帯責任だからね」
勝手に決めてしまった。どうやら三人は飛行船に乗り遅れたようだ。
ブリッジはそんな台詞を無視して、周りを見渡す。ミニッツの声の大きさか、通り過ぎる人たちがこちらを見るのがやや気になるが、それ以外は何とも無いし、侵入者だとも思われていない。まあ一応自分を含めてこの三人は、別の勢力の上位階級に属する人間達なのだが。
しかしここは街だ。そんなに疑おうという用心深い奴はいないし、何と言ってものどか。でもいつしかマルクル共に同じような街の占拠をしたが、何かが違う。この街は占拠下では無いことはわかっている、街の造り、家に造りもそんなに違くわないのだが……
――空の色と空気だ。
ここは戦地ではない。火薬の匂い、銃弾、血生臭い死体――これらが基準ではないのだ。
戦争慣れし過ぎたのか、ブリッジにとって街には汚れたイメージしかない。自分が生まれ育った貿易国は治安が悪いのでのどかとは言えないし、ディルキー勢力圏には“街と言う街”はほとんど無いと言っても良いだろう。
「総幹部長?」
ふと、エリウスがぽつんと呟いた。それに、ハッとブリッジは我に帰ると同時に、自然と腰にある刀に手が触れる。
「大丈夫?」
ミニッツもやや真剣そうにブリッジを見た。ブリッジは「悪い」と言って歩き出す。ここまで真剣に戦闘以外のことを考えたのは初めてなので、やや慣れないところもあるようだ。考える自分に違和感を覚えるブリッジであったが、歩いていくうちにいつしかそれは消えていた。
「あれがフィンクの基地」
しばらくして、ミニッツが指を遠くの大きな建物指した。
「まず検問所があるんだけど、そこは強行突破。敵兵は刃向かえば殺して、刃向かわなければ捕虜にしてしばらくうちで働いてもらう、で解放ね。基地内でもそうして」
「何でそこまで気遣う必要がある」
「う~ん最近人手が足りないから。あ、あとリーダー格はみんな再起不能にして、生きているとその後の軍の復活が怖いからね。ちなみに元々の目的は『神木』の奪還だからね?」
ミニッツの説明が終わると同時に、三人は歩き出す。ミニッツはふと二人を見た。
ブリッジはいつものように何を考えているのか分からない表情で、しかめ面だ。また、なんとなくミニッツよりも髪が長いように見えるが、それはミニッツが髪を後ろに細く結っているだけで、実際はミニッツの方が長い。
エリウスは長くて黒い髪を結っていた。やはり戦闘では邪魔なのだろうか?その髪は。そして何より気になったのは、うち(ディルキー)の制服を着ていない。これは以前から気になっていた。いつも薄手のローブで体を包み、暑そうだが本人はそんなに暑そうではない。ローブの中に制服を着ているのかもしれない。ローブ自体の役割は武器を隠すためであろう。
「ここですね」
そんなことを考えていると、検問所が目に入った。さほど大きくない、人が二人住めそうなぐらいのスペースだ。そこで三人は当然、検問所を素通りしようとする。
「止まれ」
そして当然のように警備員が三人の足を止めた。中肉中背の男で青く胸の水の紋章が目立つ制服、腰にはホルスターを吊っていてその中に銃器が収まっている。あまり使われた形跡は無い。
やや上目遣いで三人を見渡す。すると警備員は「何のようだ?」と聞く前に、突然顔色を変えてドタバタと後ろの壁に向かって走り出した。どうやらブリッジの刀が目に入ったらしい。
力強く押される警報機のボタン。警報機がジリリリリ!とやかましい音を奏でる。そして警備員は慣れない手つきで銃を構えた。パンッと一発、弾丸が飛ぶ。だが、煙と乾いた音が出たその銃口の先は、間抜けなことに検問所のガラスだった。ガラスは割れないで、弾が落ちるのみ。
あまりの結果に拍子抜ける四人。このガラスは防弾ガラスである。
それよりもこの警備員の銃の腕。ハッキリ言ってお世辞にもうまいとは言えない。銃は三人より遥か左に向けられていた。
「……そろそろ殺していいか?」
鳴り響く警報機を気にしたのかブリッジが凶悪な台詞をこぼした。ミニッツは呆れながら頷く。そして検問所の戸を開けると、男を見た。そしてその男は抜刀と同時に首が飛んだ。検問所内が赤く染まる。
「……悪役みたい」
「ここでは充分俺たちは悪役だ」
落ち込むミニッツをブリッジは励ますように言った。エリウスもやや退き気味。
「じゃあ…向かいましょうか」
重い空気の中、三人は基地内部へと足を運んでいった。
※
「ふーん。で、三匹鼠が侵入したと」
「はい、そうです」
「勢力は?」
「デリス・ディルキーです。三人は上級階級の者かと」
「なるほどなるほど……、銃器を所持した野郎はいるか?」
「いえ、今のところはいませんが……」
「リーダーはいないとねぇ…。じゃあ俺より下の階級の奴らを全員投入……ってあれ?上級の奴って二人ぐらい死んでるよね?」
「はい、幹部長は前に軍事キャンプを、他の勢力に占領されたときに、二人死んでいます。現在、幹部長は二人です」
「あ~あの時もディルキーだったな……。おーし、マルクル…銃を持ってて片腕がない奴が来たら言ってくれ。で、ボスも含めて俺以外の奴ら全員出撃ってことで」
「わかりました」
兵士は男に敬礼すると、背を向けて歩いていった。しばらくして、兵士が視界から消えると男は上を向いて
「神のご加護があらん事を」
そう呟いた。
※
「『張雷・巡(ちょうらい・じゅん)』」
硬いコンクリートに光が走る。そしてその光が兵士たちを駆け上がり、兵士たちは火花を散らして倒れていった。一瞬にして何百という兵士が感電して火花を散らして倒れていく。
「きりがないよぉ…」
そしてミニッツは蟻のように出てくる兵士を見て嘆いた。同時に地面に着地した。周りには何百という焦げた死体と、絶大な数の兵士が銃器を構えている。
「泣き言は終わってから言え」
ブリッジも着地。そして『月読刃(つくよみのやいば)』を構え、
「『霧生の舞(きりゅうのまい)』」
ブリッジの前方、直線状にいた兵士を“気”でなぎ払った。葉のように兵士たちが吹き飛ぶ。しかしその線にそって兵士は埋め尽くされた。
「きりがないな……」
ため息をつきながらブリッジも、そう呟いた
最終更新:2006年08月18日 14:07