アットウィキロゴ
崩壊する地。それはとても深く狭いものだった。
「終わりだよ……何もかも」
風に流れる声。悲しく聞こえる。
崩壊する地を見ても、ブリッジは先ほどの様に、驚きはしなかった。無表情。腕のみに力が加わる。
刀を持ってない腕に炎が、渦巻いた。それは徐々に大きくなる。
「……出し惜しみは、無しだ」
渦巻いた大きい炎が、刃の形状に変化していく。騎士剣と言われるほどに大きく、増さる炎。男は振り返った。少しの熱と、灯る炎。
ブリッジは上に跳んだ。男もそれに反応して、後ろに跳ぶ。
ブリッジは左手を胸の前に、右手を首の後ろにして螺旋状に腕を構えた。そして、それを一気にほどいた。
『霧生の舞』に似ている。紅蓮の螺旋状の“気”が男に襲いかかる。
それを見て、男は肩を下げて力を抜いた何もしなかった。呆然と立ち尽くすだけ。
「俺の役目も終わり」
紅蓮の炎に包まれる寸前、微かに聞こえる声。
その声すら包まれていった――

「死んだ?」
「いいや、まださ」
エリウスはうつ伏せになっていた。
背中の至る箇所から流血しているようで、厚手のローブが赤く染まっている。
「殺そうか」
凍るような声。エリウスは必死に立ち上がろうとした。
二人は刃物を取り出した。冷え切った刃が鈍く光る。
エリウスは、膝立ちから一気に姿勢を整えた。背中が凄く痛む。そして、エリウスは残りの力を振り絞って走り出した。血が流れ出す。
「あ!また逃げる気だよ!!」
リューの方が叫んだ。ライナスが慌てて追いかける。
「逃がさないよぅ」
路地裏を突っ切り、なるべく細い道を選ぶ。エリウスはそうして、二人同時に攻撃を受けないようにしていた。そして、広い道に出る度に鉄の塊――仕込み刀を落としていた。時にでたらめにぶん投げたりする。こうして、少しでも時間を稼いでいく。
しかし、あまり効果は無く、追いつかれる傾向になるのは目に見えていた。
「いつになったら追いつくのかな?」
ライナスの声。子供っぽいこの声から分かる殺気。刺さるようなプレッシャー。
そんな声を聞いた瞬間、エリウスの視界がぼやけた。それと同時に急な体が冷える。
「う……」
全身の力が抜けた。膝が折れる。
エリウスは、倒れた。

「よく生きてたな」
声の元はブリッジ。相手は男だった。壁に寄りかかり、男は大火傷を負っていた。
「……無駄にタフなんでね。でもお前の――」
「何で俺たちを殺さない?」
男は、少し驚いた。
「言ったろ?メイディスとミニッツは死んではいけない」
「俺はどうなる」
男は黙る。そして、少しミニッツを見てこう呟いた。
「ミニッツを……よろしく頼む」
「訳が分からない」
「……お前らの居場所がミニッツの居場所であれば、それで幸せならば俺はそれでいい」
「きれいごとだな」
「そうメイディスに託された」
「彼女もまた、偽善者だな」
それを聞くと、男は俯いたまま、何も言わなくなった。そして、ポケットから指輪を取り出して、ミニッツのいる方へ投げた。ミニッツにコツンと当たる。ミニッツは少し動いた。
「…生き…てる」
目を覚ましたようだった。
「これ…なに?」
うつ伏せになりつつも、指輪を拾い上げる。すると
「なんで…これが?」
ミニッツは男を見た。男は頷く。
「お前……ふざけんな!」
一気に近づいて男を一発殴りつけた。同時に、後ろのレンガが崩れる。殴った瞬間、男の顔には大きなあざ。
「無理は…するな」
殴った時、ミニッツは咳き込んだ。
「ごほっ!げほっ……うるさい…こんな物いらない!」
「責任を…逃避するな」
ミニッツは男に掴み掛かった。男は動揺しない。
「じゃあ…なんで、俺を…殺さなかったんだよ……」
「殺したくない。それだけだ」
「なんで…」
ミニッツは崩れ、膝をついた。男の襟元の手は離さない。
「『早く居場所を探しなさい』」
下を向いているミニッツが顔を上げる。
「メイディスが言った言葉だ。死に際にな」
「お母さん…」
ミニッツは手を離した。
男はそんなミニッツを見る。そして
「早く殺せ」
そう言った。その声は冷え切ってはなかった。
「……戦意を失った人は殺せないよ」
「いいから早く殺せ」
「無理だって…捕虜に――」
すると、ブリッジが刃を向けた。刃の温度が伝わる。
「ブリッジ……」
「今から質問することに一分以内に答えろ。そうすれば捕虜にしてやる。『神木』の場所、幹部以上の情報、兵士の数それぞれだ」
男は下唇をギュッと噛んだ。体は動かない。そして視界をミニッツだけにした。
「その指輪、ちゃんと持っとけよ」
「……うん」
「『この世界から消えるより、人の記憶から消える方がなにより怖い』からだよ。お前は母親を忘れてはいけない。それが“償い”だ」
「あと四十秒」
ブリッジの冷たい声。ミニッツは男を見て
「あんたも死んじゃだめだよ」
「甘いな……考えが」
「だから……早く質問に答えて!」
「すまないな……いや俺に情けをかけないで欲しい。戦場では敗者は死ぬ…お前も分かっているだろう?」
「わからないよ!なんで……命より規則なの…?」
「あと十五秒」
男はミニッツの肩を震える手で掴んだ。
「なるほどな…お前の仲間の言ったことがようやく分かった…。残念ながら戦場、いやこの世界の道理なんだよ…敗者は死ぬ。情けは、かけてはだめだ」
「前言撤回してよ!」
「仕方ないんだよ…これは神の定め」
すると、
「終わりだ」
ブリッジが刀を構えていた。冷たい刃が赤く炎を灯す。
「ガキ、離れろ」
「やだよ!」
ブリッジはミニッツを見て
「お前も斬るぞ?」
しかしミニッツは動じない。ただ男を庇っていた。
「やめてよ……ブリッジ…」
ミニッツのそんな声を無視してブリッジは刀を握りなおした。炎も燃え盛り、刀を包む。
そして、ミニッツに向かって刀を振りかざした。
最終更新:2006年09月19日 10:04