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「終わりだ」
ブリッジが刀を振りかざした。ミニッツはその場で動かない。
すると、ミニッツがトンッと押された。体が宙を浮く。
「え……」
「自ら命を絶とうとしているのはお前も同じじゃないか。人の事言えないな」
男は、微かに笑みをつくった。

――だから…殺しは嫌なんだ…

男は胸を袈裟に斬られた。鮮血が吹き、一瞬にして男は動かなくなった。ブリッジは素早く鞘に刀身を収める。
ミニッツは、それを見ていた。
「なんで……!」
「ガキ、次行くぞ」
ブリッジがミニッツを見る。
「何で殺したんだよ!!」
声を荒げ、ミニッツはブリッジを睨んだ。
「捕虜にはしない、と言っていただろ」
「だけど……!」
「万が一捕虜にして、基地内で暴れられたらどうする?死者が出るだろうが」
「でも……」
「お前が思うほど、軍は甘くない。あいつだってそうだ。情けをかけられることを嫌がっていた」
ミニッツが死体を見る。血は止まっていた。
「でも……命を…投げ出したんだよ?」
「敵に助けられるぐらいなら、死を選んだほうが楽ってことだ。聞き返すが、お前は何で事情を知らされる前に殺さなかった?」
「……あんな優しい人、殺せるわけない…よ」
ブリッジはため息をこぼした。
「来るなら来い」
ブリッジは去っていった。その背にはミニッツ。ミニッツは座り込んだ。
「ごめん…先行ってて」
ミニッツはそのまま、深呼吸をした。重い息が出てくる。
「ごめんね」
そして、かすれた声で呟いた。

「大丈夫?」
エリウスの耳に入ってくる声。女性のようだ。
エリウスは霞んだ視界の中、狭い範囲で声の主を探す。
「あなたは……?」
そして、見つかってもないのに当てずっぽうで聞く。
「極秘機関の者だよ」
エリウスは顔が少し赤くなった。聞いた方向と逆の方から聞こえてくる声。
「『放浪』……?」
振り向きざまに聞く質問に、その通り、と返ってくる。声の主をよく見ると、ショートヘアーの女性だった。
『放浪』は世界を周り、情報収集、探索をしていくディルキーの特殊機関。前まで行方が分からなくなり、連絡まで途絶えていた。彼女が言うに、ディルキーから時計回りに進んで、アルティスタ、ライシエンス、フィンクと周る筈だったが、ライシエンスの警備が厳重すぎて、陸路から海路に変えた。そして、中心の島を経由して今のフィンクにいるのだ。無線は壊してしまったらしい。
「向こうにはいない」
男性の声、女性は「そう」と安堵の息。
「あなた…名前は?」
「エリウスです」
エリウスは状況を簡単に説明した。女性も、自分たちのことを話した。
「……ミーナさんたちは何でここに?」
女性――ミーナは「そんなことより、何でそんなにボロボロなの?」と言いそうになったが、あえて控えた。
「ここを通らないと、領線(国境と同じ)を越えられないの――ところでミニッツの坊やたちはどうしたの?」
エリウスはキョロキョロ見回して
「分散しました」
「あなたが一人!?」
ミーナは驚いた。
「こんな可愛い女の子を独りにするなんて…しかもボロボロじゃない!」
「一応作戦ですから…ね」と赤面しながらエリウスはミーナをなだめた。
ミーナは遠目で細い街道を見た。そして
「さて、どうしましょうね?」
のん気に口を開いた。
エリウスはミーナを見て、
「任務…続行しなくちゃ」
「無理するなって」
「でも…これで失敗したら…」
真剣に言った。ミーナはそんなエリウスを見て少し微笑んだ。
「しゃーない、手伝うよエリウス」

風が建物にぶつかり、叫ぶようにして音を奏でる。そんな集合住宅みたいな基地の外部。本拠地よりかなりといっていいだろう、遠い。ブリッジは刀を片手に本拠地に歩いて行く。
敵兵と言えるものはほとんど無い、ミニッツと共にほとんど倒したからだろう。しかし微妙といえる達成感。疲労はほんの少し。
『刻印』を見て、ブリッジはまた前を見る。苦い顔、安心の顔、暗い顔……どれもない。
感情表現、戦場という舞台でブリッジは特にこれらを使わなかった。一つの約束だからだ。
風の吹き方が変わった。
「誰だ」
「あ…ばれちゃったか…」
聞いたことがある声だ。ブリッジは上に跳ぶ。一人、男が見えた。片腕がない
「おまっ……来るなって言っただろうが!」
この戦場でブリッジは初めて表情をつくった。それは驚き。
裏路地からひょっこりと出てきたのは案の定、マルクル。なんと彼が本拠地に一番近かったのだ。
銀色の髪、しかし少し違うのが額だった。『紋章』が刻まれている。
「大丈夫だって。そこまで脆くはないって」
ブリッジは額をチラッと見て、視線を基準の位置に。
「“これ”がそんなに気になるの?」
それを耳に入れるとブリッジは基準位置を通り過ぎて下を向いた。
「癖だよね、それ――あ、この『紋章』は……『刻印』の代わり」
「代わり?」
マルクルは右手を額に当てた。
すると、みるみるうちに無かった左腕が元に戻った……というより“影”が腕の形状をして張り付いているだけのようだった。同時に額の『紋章』も消える。
「慣れてないけど、格闘戦はいける」
それを見て、無関心にブリッジは「無理はするな」と一言伝えた。そして歩いて行く。それだけを聞いたマルクルはつまらなそうに、腕を元に戻した。そしてふとハッとした。
「二人は?」
ブリッジは振り返らずに
「エリウスはバラけて、ミニッツは離脱」
「離脱……というと?」
「さあな」
マルクルは、「そう」と言って流した。そして拠点を眺めた。
階段状に左右から高くなっていく構造で、最後中心部で、くっきりと棒のようなタワーが建っていた。ディルキーとは大違いの豪華なつくりだ。ディルキーなんて、上から下へと基地が続く、いわゆる地下基地。しかも陸にぼっこりと入り口が出ているのがチャームポイントといっても過言は無いであろう。実際立てたのはミニッツと、ブリッジと、マルクルなのだが。彼らは自覚もあるが、デザインのセンスは欠片も無い。
マルクルはガラス張りのタワーに、やや劣等感を覚えて思い切って破壊したくなり、「増援はまだか?」と思わんばかりに、きょろきょろと灰色の空を眺めた。ブリッジはそれを不振そうに見る。
「……攻め込むぞ」
いい加減時間が惜しいのか、ブリッジは痺れを切らしていた。そしてマルクルの肩を叩いた。
「うっ……わかった」
マルクルはビシッと姿勢整えた。どっちが格上なのかすら分からない。
マルクルから足が出て、二人は歩く。
歩き出す瞬間、ブリッジはふとマルクルの顔を見た。

ぼんやりとした顔。そこには、嘆きと憎悪が微かに渦を巻いていた。
最終更新:2006年09月21日 17:07