「あの人誰だ?」
リューの声。指の指す方向は二人の男。
「……仲間じゃないね」
ライナスのやや低い声。血が騒いでくる。ナイフを構えた。そして男たちに
「あんたらどちら様?」
念のため聞いた。返ってくるはずもないと思い、期待は少ない。
「お前らの敵だよ……そして女性の味方さ」
一人はショートの黒髪、もう一人はロングの黒髪。ナルシスト風な口調なのは、短い方だ。
その台詞とともにライナスはにっこりと笑った。手に力が入る。
「ってことはさっきの女の子の仲間かぁ」
そして次の瞬間、ライナスが動いた。高く袋を投げる。
それを、リューが操る。しかし男たちはそれを見るや、一気に逃げ出した。路地裏に、だ。
「また鬼ごっこ?」
ライナスが疲れた声を出して追いかけだした。リューもである。
しかし、たった三分弱。見失ってしまう二人がいた。地団駄を踏むライナス。
「もぉ~だから嫌なんだよっ!」
と、リューの姿がないことに気がつく。ライナスは少し焦った。すると
「罠だってわかんなかったか?」
後ろから声がした。ライナスはさらに焦って振り向く――ところだった。
腹部、胸部の激痛と、血と、そして絶たれると分かる自分。それらが見事に混合していた。
ふと、霞んだ目で右手を見ると、リューだった。見事に自分と同じ目にあっている。とても見ていられる状況ではない。
「うぅぁ……!」
兄弟の名前も叫べないのかと、ライナスは悔やんだ。涙が溢れる。
そして、次の一撃が飛んだ。
狭いとはいえないほどの大きな個室。そこにいる赤髪の男と銀髪の男。二人は“もう一人”に会うつもりでいた。そしてそれがすぐといっていいほど、叶った。これを望んだのは銀髪のマルクル。
「どうも、お久しぶり」
マルクルの第一声である。目の前の茶髪で背の低い男、彼もまた
「待っていたよ」
やや高い声で歓迎。“金持ちのお坊ちゃま”の声だ。気高い。
マルクルは表情を一変させた。そして、静かに
「裏切り者――」
「冗談はよせよ」
しかし、男はそれを一瞬にしてかき消した。そしてこう言う。
「僕にとっては、“彼女ら”は仲間……いや、家族のようなものだ。マルクル、君も僕らと来ないか?彼女は神だ。僕たちを救ってくれるぞ?」
それに、マルクルは「反吐が出る」と一蹴。ブリッジは何も言わずに立っているだけだった。
そしてマルクルは、男に目を向けなおした。
「何であいつらに協力したんだ?アクト?」
「……その名は捨てたよ。今の僕は『レヴィオム』」
それを言うと、レヴィオムは武器を持った。銀色で大きい斧、それにとってマルクルは悪い思い出がある。『呪霊』だ。
「僕は誰も信用するなといわれ、没落した家に一人で暮していた。そこを一歩出れば、意味も無く蹴られたり、殴りかかられたり…知らない奴らと暴力沙汰だよ。あの村は狂ってる。だから僕は誰にも頼らずに一人で村を過ごしたんだよ……“あの日”が来るまではな」
ブリッジには理解は出来なかった。マルクルは悲しい顔をする。
「『最果て』か……」
「それを言うな!僕はそれを捨てたんだ!あの村も、地位も、家族も――」
マルクルに向かって放つ言葉には、悲しさは無かった。むしろ、喜びの声。そしてレヴィオムは片手で大きな斧をヒョイとさっきより高く持ち上げた。
「故郷が……奴らのせいで無くなったんだぞ!?」
その声にマルクルは、訴えかけた。レヴィオムは
「僕には“彼女ら”がいればそれでいいんだ……『神木』も託されたしね」
戦う寸前だというのに柔らかい声だった。相当“彼女ら”に会ってよかったのだろう。今の奴にとって家族は本当に“彼女ら”なのだ。
マルクルはいつにない形相でレヴィオムを睨みつけた。
「信者が……お前も村の奴らと変わりないよ」
それを聞くと、レヴィオムもマルクルを睨みつける。
「心外だ!あいつらとなんかと一緒にするな!」
そして二人に斧を向けた。マルクルが構える。ブリッジも同様。
「目を覚まさせてやる…」
その台詞と同時に、一気にマルクルは近づいた。そして、低く跳んで重い斧を思い切り踏んだ。斧が床にめり込み、そこだけぐしゃりと抉れる。
そして、一発だけ目一杯力を込めて拳で殴りつけた。レヴィオムは吹き飛び、浮く体をすぐさま整える。
その時、レヴィオムは何かを悟ったようににやりと笑った。そして、マルクルの元に一気に走り出す。マルクルはそれを見ると、後ろへ跳ぶ。奴の笑顔が不安でならない。
斧から足が離れた、それが分かるとレヴィオムはすぐに斧を手に取った。そしてそのままマルクルの方向へと向かう。狙いは当然ながらマルクルであった。
間合いに入った瞬間、斧は重い一撃を繰り出す。それをマルクルはサッと半身になりかわした。またもや地面を抉る斧。それは空気までも震撼させて、マルクルに圧力をかける。
ブリッジはそれを見ていただけだった。さっきみたいな協力戦は嫌なのか、気まぐれなのかはさっぱりだったが、ただ遠い目で見るのみ。
マルクルは圧力を感じながらも、床に刺さっている斧を見ると、右脚で思い切りレヴィオムの顔面を蹴りつけた。しかしそれは呆気なく片腕に掴まれていた。
マルクルはそれでも動揺はしない。今度は掴まれていない左脚でレヴィオムの首に跳び蹴りを繰り出す。
さすがにこれは対処しきれなかったのだろう、レヴィオムは脚に運ばれて床に顔を叩きつけられた。同時に掴んでいた脚も離してしまった。
マルクルは、間合いから離れる。
「俺に勝てるのか?」
レヴィオムは立ち上がり、斧を構えた。その顔は、まだ笑っていた。
マルクルはいつも以上に目を細くした。そして、一気に間合いを詰める。レヴィオムの側面そこにまた拳を叩きつけた。
しかしレヴィオムが吹き飛ぶ中、マルクルの肩から血が流れていた。見事に斬れているその傷口、いつ仕掛けたか分からない攻撃の結果。レヴィオムは吹き飛んでいる最中も、斧を手に持っていた。
マルクルは膝をつく。
「……何しやがった?」
「『刻印』も知らないの?」
レヴィオムは斧を軽快に振り回しては、マルクルに近づいてくる。そしてついにマルクルの目の前に。
「おーいそこのお仲間さん。こいつ死ぬよ?」
ブリッジは無表情で見ていた。が、動かない。ただジッと見ているだけ。レヴィオムは不振そうに見て
「なんだ?非情な仲間を持ったものだな」
斧を一気に振り上げた。台詞に似合わない勢い、余裕はほとんど無い。
しかし、マルクルは飛び込み前転でうまくかわした。唯一脚だけが浅く斬れる。
レヴィオムも「どうせこんな感じか」と、あまり驚きはしなかった。そして、抉れる床から斧を取る。
そして、何故か斧を捨てた。
「片腕が無いお前は武器なしでも充分だよ」
マルクルは何も言わないで深呼吸をした。そして、それを見逃さずにレヴィオムが蹴りかかる。マルクルは冷静に右腕でガードした。しかし、それが仇になって、もう片方の脚で見事に蹴り飛ばされてしまった。
「う……!」
あばらを砕いたようだった、とてつもなく痛い。そんな痛みをよそに、マルクルは立ち上がる。
「死角が出るよなそりゃ……」
分かっていることを言われ、「くだらない…」とレヴィオムは距離を詰めた。
そして、どこに隠し持っていたのか不明だが、一本のとても太い針を取り出した。そのまま刺すつもりなのは目に見えている。先端には毒が塗ってあるかもしれない。そこまで読める。
マルクルは咄嗟に額に手を当てた。そして左腕を構えるようにして、体を動かす。
そして、念じた。
「ちょっと…どこに行くんですか!?」
エリウスはミーナの背中に乗っていた。
「はいはーい急患でーす」
棒読みで台詞を放ち、ミーナーはエリウスを運ぶ。
「任務はどうするんです!?」
「あの二人に任せときゃだいじょーぶ」
ミーナは、エリウスのほうを見て笑った。それを見たエリウスも少し納得したような表情だった。
「……よろしくお願いします」
最終更新:2006年09月24日 17:05