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そこは広い草原だった。
草原――というより、植物が七割、砂地が三割のまた中途半端な土地で、地形も平地とはいえない。これらは全てが無くなった後のように殺風景。草がぼうぼうと生えて、残った隙間に砂が入る。動物、花はなく、木と雑草と砂や土だけだった。お世辞にも全てを見て「きれい」とは言えない。
そこには二人の人がいた。一人は銀髪で、もう一人はやや背が高い黒と茶色の髪をなびかせている。
「……作業は終わったか?」
背の高い男は、銀髪の青年に聞いた。銀髪の青年は
「“力”を得ることに成功。大変だったよ……」
背の高い男は、目にかかりそうな髪をはらいながら、首を傾げる。
「大変?その割には早かったな?」
「そんなにかかったの?師匠は」
師匠と呼ばれた男はますます首を傾げる。ついには銀髪の青年もだ。
師匠は眉間にしわを寄せた。
「お前なぁ…『刻印』の原理は分かってるよな?」
「え……?そんなのあったの?」
それを聞くやら、ため息混じりに師匠は自分の長い髪をクシャリと掴んだ。ついでに「お前、取り扱い説明書読まないタイプだな……」と、青年に付け足した。青年はムッとする。師匠は呆れた顔でその面を見た。
「……で、能力は?」
「言わないとだめ?」
「義務だよ」
青年は、少しビクッとした。師匠の目を見ての反応である。目なのか言動なのかよくは分からないが、彼は確実に“この言葉”に弱いのだ。青年は目を逸らして「わかったよ…」とこぼした。そして『刻印』を師匠に見せてはギュッと力を入れる。
「……なるほど、だからか」
師匠は、青年が出した“影”を見ては頷いた。青年は詳細を尋ねた。
「お前『紋章』も知ってるよな?」
「うん、それで?」
師匠はボリボリと頭を掻いて
「わかってねーな、おい……まあいいや説明すると、『刻印』ってのは分子から想像して、自分にあった能力を生み出す。で、『紋章』は物体を直接生み出す。これらは、限度があるってことはわかるな?」
青年は頷いた。すると師匠は、そんな青年を見て
「じゃあ、“血液増加”は『刻印』で行えるか否か」
しばらくの沈黙。青年はブスッと顔を一変して
「簡単――出来ないに決まってるでしょ、血中の成分の比率まで求めないといけないし、コンディション、食生活によってそれらは変わるでしょ?」
師匠はそれを聞いて少し驚いた。青年の無愛想になりつつある顔は、現在進行型。そして師匠は、ふとそんな青年を見て笑った。
「お前の割には上出来」
それを聞いて青年は、少し照れているがやはりムッとしている。そして
「……紋章の方について詳しく聞かせてよ」
それに師匠は顔を一変させた。そして、口を開く。
「いいか?『刻印』が付いている時は『紋章』は宿すな」
真剣な顔つきに、青年の顔も変わる。青年はそれについて詳しく聞こうとした。
「師匠……あんたはどうなのさ?両方持ち合わせているでしょ」
「……まだ分からないか?“俺みたくなるな”ってことだよ」
青年はまた「なぜ?」と聞くが、答えてはもらえなかった。師匠は青年の頭をポンッと叩いて、
「さて、本題に入るか」
軽快にそう言った。しかしその“本題”の部分について、青年は全く何も理解していない。
「分からないよな?本題ってのは、お前のことだよ」
それを聞いて、青年は顔つきが真剣になる。
「まず、お前にとり付いている『呪霊』からだ。これに関しては全く持って俺はバックアップできない、残念ながらそういうのを祓える術者を探すしかないようだ――次にお前の血族について……」
師匠は話を止めた。青年の目がやや変わり、とてつもない殺気が込められていた。
「続けないのか?」
青年はその瞳を維持しつつ、師匠に問いかける。師匠は仕方がないので続けた。
「お前の血族は、『音離(おとのはなれ)』と呼ばれるらしい。何だかよく分からないが、危険な種族で“あの日”真っ先に軍に狙われた種族だ。お前もその血を引いていて、“特殊な何か”がある――っと、どうした?」
と、師匠は掴みかかられていた。青年の息が荒い。
「そんなもののために……!」
「落ち着け。あと、調子に乗るな」
師匠は掴んでいる青年の手を持って、そのまま膝でみぞおちに一発。あまりの痛みに手が離れて青年はうずくまった。師匠は続ける。
「つまり、今後一人になる時は気をつけろってことだ。前みたく狙われる。――それと…」
風がふと止んだ。いつもの“村”のようだ。青年は自我を失いそうなぐらいな怒りと、そして憎悪。青年にとって、故郷もそれを潰したものたちも、全てが敵なのだ。そして今の自分とも戦わなければならない。
「――神なんて信用するな」この兄の言葉だけが、青年にとっては信じられる最大の言葉。そして自分の兄は…殺された。“あいつら”によって――
※
レヴィオムはにやりと笑って、マルクルを見下した。しかし、自分が想像した絵とは大きく違っていた。
それは“誰も見たことのない”腕。それにマルクルも驚いた。
「な……!?これはなんだ!?」
レヴィオムはサッと後ろに跳んだ。それらを見たブリッジも少し表情が変わる。
マルクルはその腕を見た。前より明らかに違う、さっきより大きく、紫色で黒い模様がかかっている。そして何より見覚えのない“角”が二本……いや三本生えていた。
「――『紋章』も知らないのか?」
動揺を隠しながら、マルクルも台詞を返す。そして、刺さった針を抜いて捨てた。
そして、何かを思い出したようなすっきりとした顔をつくった。そのままブリッジのほうを見て
「ブリッジ、ここから五十……いや出来れば五百以上離れろ」
そう言った。ブリッジはそれを聞いて、訳が分からなかったが彼の目を見て判断。素直にそのまま基地を降りていった。マルクルはそれを見て、
「あと、四十秒だ」
表情を一変させた。それを見るやレヴィオムは近場にある斧を取り上げる。が、その時すでに彼は首根っこを掴まれていた。汗が異常に流れる。
「アクト……手加減はいらないよね?」
レヴィオムは掴んでいる手を両手で握る。徐々に締めが強くなっていった。
「……お前…くそっ!…何が…特殊な種族だ……即急に潰れてしまえ……」
マルクルは、顔を下に向ける。
「お前の斧、『呪霊』、過去……やっと自分の立場が分かったような気がする。即急に潰れろ?お前ら『第四ヴァルシュ』風情に言われたくないよ…この…不可触民が……!」
マルクルはもう一方の右手をレヴィオムの前で大きく開いた。それを見た瞬間、“赤い何か”が広がっていった。それは、基地全てを覆いつくす。そしてそのまま、顔が青いレヴィオムに呟いた。
「恐れないでね?これは死ではない……“虚無への誘い”だよ」
すると、鉄琴で叩いたような一つ、音が鳴り響いた。それと同時にミシッと何かが潰れる感覚と何かが割れて行く感覚。目が見えなくなって、耳までも聞こえなくなる。唯一わかる鼓動も小さく小さく……そして無くなっていった。
マルクルは脈が無くなったと分かると、そっと、床にレヴィオムを寝かせた。そして、崩壊する基地を見てすぐさま外へと飛び出した。
「これって範囲なんだよね…どうせ一部やっても徐々に崩れると思ったから、全部壊しちゃったけど…誤算……」
なんて独り言をため息混じりに零して、急いで外へと飛び出していった。
途中で目がヒリヒリして、少し痛みが混じる。マルクルは目を拭った。そして、光のある外へ。
そこには崩れ行く基地が背後にあった。それをマルクルは悲しそうに見つめた。
――「即急に潰れろ」……確かにそうだよな…
涙が溢れそうになる。
嫌いな村だったが、好きな人は沢山いた。
親切な人、毎日野菜をくれた人、よく遊んでいた友達、学校の先生……家族。
自分はそれらの仇を討つために、今ここにいる。そして何より、今さっき、“村の住民”を殺した。それが“虚無への誘い”と偽って。それがこの世の中正論なのだとしても、それを行った自分がわからない。何で軍を立ち上げて、今こうして戦っているのだろうか?
自分は……何をしたい?
最終更新:2006年09月30日 13:36