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「……よろしくね!」
ギュッと手を握った。そこには「デリス・ディルキー」と書かれた看板が、とても不器用に刺さっている。
周辺は殺風景で、何も無い。遠くを見れば海があり森があり――山もある。銀髪の青年は、赤髪の青年をキラキラした目で見た。

――何なんだよこいつは…?

あまりの馴れ馴れしさに虫唾が走った。
赤髪の青年は握った手をバッと振り解いて、少し銀髪の青年を睨んだ。
「…俺はまだ入るとは決めてない」
銀髪の青年はキョトンと顔を一変。そしてしばらく考えると、ニヤッと笑みをつくった。ほんの少し不気味である。
「よし!じゃあこうしよう。勝負して俺が勝ったら入る。負けたらそっちの勝ってってことでね」
赤髪の少年は納得した表情で、腰にある鞘に手が触れた。彼の中では、勝負方法は“決闘”と自動的に決まっている。銀髪の青年もそれを悟ったかのように、構える。
赤髪の青年は、ジャケットにかかっているナイフと、腰のベルトに留めてあるホルスターをチラッと見ると、刀を抜刀しつつ斬りかかった。横に、縦に、斜めに――。ウォーミングアップなのか、それはとても大雑把である。
銀髪の青年は、ヒョイっとそれを下がりながら回避。そして余裕の顔をつくる。
「俺、別に武器は使わないからね?」
次の攻撃に移ろうとする相手に意外な一言。
赤髪の青年は悪態をつかれ、勢いが一気に無くなる。
「お前……なめてんのか?」
自分へのハンデだと思い、少し眉間にしわが寄る。
「いやいや…違うって!だってさ、俺が死んでもあんたは困らないでしょ?あんたが死んだら俺はとても困るからさ………一応ゴメンね」
必死に手を振ったり、一礼したり、とても忙しい奴だ。赤髪の青年は呆れる一方。
これでも“決闘”だ、と感じるのはだいぶ遠く、遥か彼方の未来だな。是非未来を見てみたいものである。自分がそう感じた瞬間から、“制約”を守らねばいけないのだから――

――ゴッ

刹那な時間。意識が一瞬薄れた。震源は後頭部、だ。
ふらっとしたところに、銀髪の青年が支えた。赤髪の青年は、それをこれ異常ないぐらい悔しそうに睨んだ。銀髪の青年は、にやにやしている。
「……てめぇ不意打ちかよ…卑怯だ……な」
「そんなこと言うんだったら、俺が謝っているうちに、本気で近づいて袈裟斬りで倒しちゃえば良かったじゃん。卑怯に対応できるのも“実力”だよ。今度戦う時は本気で来てね?」
その台詞の後、ケラケラと悪魔のごとく笑う銀髪の青年を見るだけで腹が立ったが、自分の恩師を思うと、一理も二理もある。
全く持って不条理な奴だが、卑怯な奴だが、うるさい奴だが――何だかいつもの山賊とかと違った。
「――じゃあこれからもよろしくね!」
手を握り、立たせて、また手をギュッと握りなおした。赤髪の青年はため息を軽く吐いた。それに構わずに、「寝てないで手伝って」と言う遠くで銀髪の姿。アホ面だ。
少し笑いながら、赤髪の青年は立ち上がる。

微量な温もり、彼にとって初めての経験であった。

※

基地は相変わらずの散らかりよう。また、なんとも言えない静まりよう。
ゴチャゴチャしていると落ち着かなくなるエリウスにとって、矛盾した状態。なんとも言えない、というのは疲れもあり、気分的にも良くはないからだ。
これは誰のせい?誰が汚したの?さっき綺麗にしたばっかりなのに――
と、思うばかり。さっきというのは五、六時間前。一般人の思考では、さっきというのは三時間未満のことを指す。軍人と常人の違いがこれだ。
仕方なく、くたびれた体を動かして書類を積み上げて、千枚という数の書類を区分分け。ファイルが百二十枚という数だ。
この書類は全てミニッツのもの。これを見た彼はきっと驚くだろう。
なんとなくミニッツの世話はエリウスがしている。エリウスは姉のような存在なのだ。
器用なのか、これらの作業と追加。彼女が三十分足らずにこなしてパンパンと埃を掃い、早足で私室へと戻っていった。

「……?ブリッジがいない」
いち早くマルクルが気づいた頃、ミニッツは着替えていた。ここは浴場の前。
大きくもなく、人が最大で二十人(シャワーの数は十六)入れるショボイ浴場だ。
「リンデスへ行ったらしいよぉ」
素っ裸でミニッツがタオルを取った。

――そんなに悩んでたのか?

マルクルは上半身裸で、考え込む。
彼は何で悩んでいる?何を及ぼしている?
夜が更けていく、そして――

※

「……お前は何故戦う?」
赤髪の青年が銀髪の青年を見る。
周りには死体の山、切傷やら銃傷やらあった。血はまだ固まっていない。
「……言わなくちゃだめ?」
「仲間だからな。秘密は無しだ」
軽く言ったその言葉には、時に恐ろしい理由になる。銀髪の青年は目の色を変えた。
「……仕方ないなぁ…ある人を追ってるの」
ため息混じり。赤髪の青年は刀を鞘にしまいながら、もう一人を睨んだ。
「殺しで……追いつくのか?他にあるだろ?」
「……『全てを支配しろ。そうすればまた会える』」
銀髪の青年はもう一方の質問には答えなかった。ますます赤髪の青年は目が遠くを見るようになり、切なくなった。
「……質問に答えろ」
銀髪の青年は、また深いため息。まあこれで喋るのだから重要ではない、機密ではないはずだという解釈。
「“復讐”」
「“復讐”?なんのだ?」
また表情の一変。赤髪の青年は、やや気圧される。雰囲気が違うとわかった。
「村の。奴らに殺されたから」
奴ら、とは軍の人間全員を指すのであろう。
「“復讐”したら?」
銀髪の青年は、少し考えた。さっき言ったのに、だ。
「……彼にあって、師匠を元に戻す」
意味が深すぎる。赤髪の青年にとって、これ以上は禁断だと分かった。「そうか」と口を閉ざした。
銀髪青年はしばらく座ってた。そしてしばらく閉じた、口を開く。
赤髪の青年への言葉だった。

「ブリッジ……お前も何かある。大きいものが」

※

風呂上りの二人、湯気が立っていて、相当浸かっていた様に見える。
すると、ブリッジだ。マルクルの前に立っていた。マルクルはタオルを首に巻いていて、顔が緩い。
「お、帰ってきた」
ミニッツがそれに反応した。ドロドロな服のブリッジ。あまり寄りたくない。
すると、ブリッジは急に刀の刃をマルクルに向けた。
それにマルクルはキョトンとする。
「何のつもり?」
ブリッジはしばらく何も言わずにいた。時間が経つ。
雰囲気の違いだ。何かが違う。するとブリッジの口が開いた。
「俺と、戦え」
最終更新:2006年10月14日 22:45