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「……俺の勝ちだな」
焔魔(えんま)はふと笑った。それを憎たらしく見る長髪の男。彼は手かせと足かせで拘束されていた。
ここは拷問場のような部屋。湿潤で、ジメジメしている。殺風景。
「終わりだよ。お前も、後にこの世界も」
長髪の男はそれを聞いてにやりと薄く笑った。焔魔の顔がやや変わる。
「甘い……“俺はまだ、俺じゃない”」
そう言うと、口笛を吹いた。すると男の黒い長髪が光りだす。青白く、だ。
それがわかると、焔魔は反射的に後ろへと下がった。男から聴こえてくる旋律。
男はある程度、口笛でその旋律を奏でた。そして、
「半分――いや、三分の二だ。俺は自分を消す。これで帝釈天(カルラ)は俺の魂なんて目にもくれない。残念だったな……俺はまだ“不老不死”ではないんだよ。自分の命ぐらい自分で管理できる」
そう言うと男は、吹奏を続けた。すると焔魔は男の喉を掴んだ。
「やめろ」
男は吹き続ける。目を閉じ、この環境に微動だしない。綺麗な旋律だった。
焔魔は喉を掴む手に力を入れた。男の吹奏のリズムがややずれる。
「わかってるんだよ。それは、『移し身の旋律』だろ?」
男は止めない。かすれながらも、吹き続けた。焔魔はもっと力を入れる。喉が裂けるぐらい。
音が徐々に止んでいく。途切れ途切れの吹奏。
焔魔はついに、左手を男の心臓に突きつけた。そして、
「火天(アグニ)、来い」
どこからともなく来た火天は、先程水泊(すいはく)が持っていた刀を男の腹部に突きつける。
「やめろ、いい加減に――」
しかし男は吹き続けた。喉がかれようと、裂けようと。

――俺は死なない。いや、死ねない…今は“不老不死”でいるしかない。

男の長い髪は、段々と元の色に戻りつつあった。
焔魔はそれを見た瞬間だ。動いた。
左胸から血が、吹いた。それと同時に、火天も刀で男を斬ったようである。刀に取り込まれていく“光”、それと紅く染まった焔魔の左手。
口笛は止み、男の胸には細い穴が開いていた。そこからは紅く染まり、多量の血が流れている。
男は、動かない。下には血だまり。
焔魔はそれを見ると、一回壁を拳で砕き割った。轟音と、拳の痛みが残る。
「水泊を呼べ……こいつ…リオンを探す」

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「お前のせい……と言うしかないじゃろうな…」
オロードはブリッジを見て、ため息。これはかなりの回数続けられている。
「俺…じゃないだろう?火天じゃないのか!?」
オロードは首を横に振った。
「焔魔、そしてそやつと組んでいたのはお前だ。意識が無くともな」
ブリッジは、何も言わない。これ以上言っても、返ってくるのは悪い知らせだから。
オロードは一息つく。
ブリッジは自分に嫌悪感を抱いた。深い暗いそして湿った空間、下手をすれば二人とも死んでいたから。罪の意識。死ぬ覚悟はある、しかし何も知らないで死ぬってことは今の自分にとっては許されない。
ブリッジの目が変わった。
「俺は……どうすればいい?」
「知らん」
オロードのきつい目付き。ブリッジはそんな目を見て、一つ分かることがあった。
「焔魔はどこにいる?」
「聞いてどうする?」
「殺す」
オロードはそんなブリッジを見て、「無理だ」と一言言った。
「彼はわしより強い」
さらに続ける。
「――この話をしたってことはな、お前の命も残り少ない。この話で、火天を意識しだしただろう?次だ、時が過ぎるか、お前が死ぬか……火天は『呪霊(じゅりょう)』のようにお前と心身を入れ替えてくるじゃろう」
ブリッジはオロードを睨みつけた。
「ロード爺、そいつらの集団は何なんだ?あんたもその内の一人か?何で奴らを知ってるんだよ?」
オロードは何も答えなかった。ただ静かに時が過ぎていく。ブリッジはため息。
「――だんまりか……焔魔に聞けば……」
「諦めの悪い……奴は『ライシエンス』にいる」
ブリッジはそれを聞くと立ち上がった。清々しい空気ではなく、わだかまりが残る結果だった。
「また来る」
オロードは、また深くため息をつく。
雨は、止みそうにない。

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喉もとを掴み、焼け焦げたマルクルに刃を突きつけた。
「死ね」
それだけが小さく響く。すると、色の無いマルクルの目が一変した。
刹那な時間、ブリッジを一瞬にして吹飛ばした。何も、いや何をしたのか分からないぐらい速い。
マルクルの目は完全に“あの状態”呪霊が乗り移った時の紅い、血のような眼球だった。
ブリッジは立ち上がり、刀を持ち変える。つまり構えを変えた。
「お前は……ブリッジ、何でだよ!」
マルクルは左手の腕をブリッジに指した。彼の紅い目から、涙が零れる。
「ブリッジも、誰かに乗っ取られているの!?」
マルクルは必死に叫んだ。
「“仲間だから秘密は無し”じゃないのかよぉ!」
ブリッジはそれに微動だにしなかった。眉も変えず。
「……言ってどうなる?」
声と同時だ。ブリッジはマルクルに急接近した。そして神速で斬りつけた。
超反応、マルクルはそれをかわす。しかし、ダメだった。ブリッジの刃は二本。
もう一本の業火の刀が深く、マルクルを切り裂いた。
マルクルは吹き飛ぶ。途中、地に体が滑り、見事に砂埃が舞った。
「期待外れだな……マルクル」
マルクルは倒れたままだった。
そのまま殺そうとするブリッジだったが、興味が反れる。また、自分には時間がない。一瞬にして自分の炎を消す。
そしてブリッジはマルクルに近づいて、転がっている体を片手で拾い上げた。
「何で“音”を使わない?」
マルクルは、焦げ付く体を動かさないで、微量な意識で聞くだけ。ブリッジは続けた。
「お前も人の事言えないな……“本気で戦え”?自分に言い聞かせろ――俺は約束どおり好きにさせてもらう……」
一瞬クラッと来る。
『刻印』の使いすぎだろうか?ブリッジはマルクルを無視して、よろける体を引っ張り、東へと歩いていった。

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最終更新:2006年10月29日 11:03