「ふむ、折角軍人辞めて、せいせいして
いたのですが、また軍服を着る事に
なろうとは…、まったく。
Aに呼ばれて来てみれば…」
(Aってなに?)
「さあ? ただ我々芝村を導いている者と
言われています。
ロクでもない爺さんのようですが、
軍事顧問を名乗っています。
…はて、俺に何をさせたいのか…」
(食べ物?)
「つまらんギャグを言ってると殺されますよ」


「この島は、夜空が綺麗だ」
英吏は目を細めている。
そして、ふと笑うとお話を始めた。
「天には時の光を編んだ大河があり、
物事を二つに割っています。
即ち、不思議と理(ことわり)に。
古来、大河のそれぞれの岸を、
不思議の側と理の側と呼び別けて
いたそうです。
猫も人も、理の側の岸辺に住み、
不思議の側には猫も人もいない事に
なっています。
猫や人の姿をすれど、実はそうではない
という事になっている生き物…、
これを妖精と言うそうです。
そして妖精の中で、もっとも有名な者を
英雄妖精と言います。
英雄妖精は妖精の中でも特別で、時折
不思議の側から大河を渡り、理のほとりを
荒らす悪しき妖精と戦う事で知られています。
芝村の古い古い伝説に従えば、英雄妖精は
元は理の側の生き物だったという話です。
つまり、人間や猫ですな。
だから不思議の側に行ったその後も、
理の側を懐かしみ、それを守るのだと
言います。
俺は時々思うんです。
貴方は、不思議の側へ渡った人間
なのではないかと。
…ふふ、もっともこれは俺の願望です。
俺も時々は戦争に嫌気をさして、願う事も
あります」


「本当の英雄妖精は、現実には傷もつけない
そうです。
貴方はその点、失格だな。
まあ、俺にとっては、
ただの妖精で十分ですが」
(それ褒め言葉?/それ愛の言葉?)
「もちろんそのつもりですが、何か?」


「この島で行われている事は、
黒い月の観察です。
どうしてもそれを、Aは成功させたいらしい。
あんなものを見て、
だからどうだと言うんでしょうね。
あそこは今、何も無いハズなのに…」


「…どうでもいいが、貴方は暢気ですな」
あなたが何かを言う前に英吏はさえぎった。
「いや、褒めています。
愛の言葉と言っていい。
俺は自分に無いモノに憧れる。
バカな所とか最高です。
もっと頑張って下さい」


「人でありながら限度を越えた者は
英雄妖精となり、理のほとりを荒らす
悪しき妖精と戦うと言います。
今、悪しき妖精…、幻獣はいます。
だったら…、だったら俺は思うのです。
それと戦う妖精は現れてもおかしくは無いと」


「…考え事の合間の暇つぶしとしては、
貴方の顔はちょうどいい」
(どーせバカです/顔を伸ばしてみる)
英吏は子供のように笑った。
「その意気です。
どんどんバカになって下さい」


英吏は考えている。
「英雄妖精を呼び、俺を呼び、月を観測し、
そして何をするつもりだ、A…?
それとも、…そうなのか?」
(なんだ?/早く言え)
「逆、かも知れません。
黒い月を観測して何かを得るのではなく、
そのふりをして、敵を集めているのかも。
これだけ揃えばよほどの理由があると
誰もが思う。
敵もそう思う事でしょう。
それを利用する、ではないでしょうか。
熊本城攻防戦と同じ事ですよ」
(敵を集めて何を/本土で戦えばいいのに)
「わかりません。
もう少し考えてみます」


「わかりました」
(何をすればいい/何が?)
「いや、今までの考え方では駄目だと…、
ごふっ!」
悪の芝村は大地に沈みました。
「勝手に沈めないで下さい。
…まあいい、これだけ骨を折るんだから、
わかっているでしょうね、ククククク…」


「わかりました」
(何をすればいい/嘘ー)
「Aは何らかの理由で、貴方と幻獣を
戦わせたがっています。
それも恐らくは、特定の幻獣と。
…目の赤い人間が部隊にいるかもしれません。
それを探してみてください。
多分、この島の人間で、そして女です。
そうでなければ成立しない。
Aは女のためなら動く。
この島の女だから、ここで戦いを始める。
余りにも馬鹿馬鹿しい話ですが、
恐らくこれが真実です。
たとえ、この螺旋では上手く行かなくても、
いつかは…」


芝村 英吏は遠くを見ている。
(好きだと言ってみる/誰を思っているの?)
「貴方は本当にバカだな」


普通に愛の確認をしただけですが?

       父島守備隊、生き残りの証言

その日、あなたは英吏と二人で戸締りをして、
島を離れる事にしました。
長い坂道を降りています。
芝村 英吏は、島の動物達を歌で集めて
歩き出しました。
「………」
(あの……/どう、思う?)
「……何か?」
(バカが好きって本当?)
「…ええ、本当に。
貴方がそうだから好きなのか、それとも
そうだったから貴方が好きなのか、
今となってはわかりませんが」
あなたは喜んで抱きついた後、
一緒に船まで歩きました。
(英吏の気持ちは……)
「貴方が好きですが…。
わざわざ確認するほどのものでもないかと」
あなたは何度確認してもいいんだい、と言って
抱きついた後、一緒に船まで歩きました。

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最終更新:2012年05月13日 06:51