「やれやれ。
暑いのは髪の毛が痛みそうですね」

(噴出す)
「……笑わないでください。
本当に気にしているんですから。
まったく、それもこれも、戦争が悪い。
こういうのは早く終わらせるに限ります」
(よしよし)
なでなでしました。
「……ありがとう」


善行忠孝は、
遠くの海の音に耳を傾けている。
「ああ、すみません。
何か?」
(悲しい……事?)
「いいえ。
ただの懐かしい事ですよ。
今は、あなた達がいる。
昔はただの腰掛です。
懐かしいとは思いますけど、
それ以上ではありませんよ。
だから悲しくはありません」
(よしよし)
なでなでしました。
「……ありがとう」



「……海は、懐かしいな。
僕は商船大学で勉強していたんですよ。
……戦争のおかげで軍人になってしまい
ましたけどね。
もうこの歳では
大学に戻れそうもないですね。
…ん?
はは、大丈夫ですよ。
戦いに上手くなってしまいましたが、
代わりにあなたと出会えましたから。
人の幸せなんて、わからないものです。
人類が滅びそうなこんな時でも、
私は幸せですからね」


「ま、この島に我々が呼ばれたのは、
結局のところ戦争ですよ。
我々は戦争が得意だ。
だからここにいる。
ただ我々は、それだけではない。」
善行は笑って見せた。
「そうでしょ?
だから考えましょう。
戦う以外の、事も」


「あのリスのような生き物は、
神々のよいですね。
あれで猫の眷属らしい。
ふむ、どこに行っても、神々はいますね。
まあ、「かみ」には本来「上」という
程度の意味しかないのでしょうけど。
上を見上げればどこにあっても息吹を感じる。
そんなものなのかもしれません。
それでも、ありがたい話ですね。
我々は一人だけではないという事は。
味方がいるのはいい事です」


善行 忠孝は猫の歌を歌っています。
「“ねこかみさまはたいせつなおきゃくさま”
“たどりついて60ねん”
“あかいふくをもらいました。”
“ありがとうねこさん ぼくのともだちよ”
“そのことばこそはねこがききたかったことば”
“ねこはいいました”
“ありがとう”
“このひのいろのふくにかけて、”
“あおぞらがおちるまで、”
“ちがさけうみがぼくをのみこむまで”
“ぼくはこのくにをまもりましょう。”」
人の姿をした猫の善行は高らかに歌いました。
「“あいはふめつのわがまえあしのつめ”
“友情は信頼という水で育つ永遠の木。”
“ほのぐらきものよ、ねたむそねむ悪のものよ”
“貴様達の天敵がきたぞ”」



善行 忠孝は火の色をした布を取り出すと、
あなたに差し出しました。
「腕に、巻いてくれませんか。」
(はい/ありがとう、ねこさん……?)
あなたが神意に打たれて神妙に
腕に火の色の布を巻くと布が燃えて
姿を消しました。
あなたがびっくりしていると善行が、笑いました。
「ありがとう。
“このひのいろのふくにかけて、”
“あおぞらがおちるまで、”
“ちがさけうみがぼくをのみこむまで”
“ぼくはこのくにをまもりましょう。”
…なんてね。
ははは。
ありがとう、大事にします」


「“あいはふめつのわがまえあしのつめ”
“友情は信頼という水で育つ永遠の木。”
“ほのぐらきものよ、ねたむそねむ悪のものよ”
“貴様達の天敵がきたぞ”
“その名前は善行 忠孝。ひとりの人の子の愛で”
“目を覚ました、どこにでもいるただの人間”」


「さてと。
この島に来た事で海軍にも恩を返した
気がします。
…人間は勝手ですね。
山の中にいる時は海を思っていました。
今は都会の喧騒に飲まれてみたいところです。
…ついて、きてくれますか?」
(はい/いいえ)
「まあ、返事はこの際どうでもいいんですけどね。
連れて行くんで、いやなら頑張って
逃げてください」


久しぶりの海ですからね。
良かったですよ。

    父島守備隊、生き残りの証言

その日、あなたは善行と二人で
戸締りをして、島を離れる事にしました。
長い坂道を降りています。
「こうやってゆっくり歩くのもいいものですね」
(年寄りくさい)
「年寄りですから。
ええ、もう四捨五入したら30ですし」
善行は、どこか嬉しそうに笑いました。
「でも、あなたもいつか通る道ですよ。
さ、行きましょう。
年寄りくさく。
あなたにとっては、
予行演習というところで」
(そーだねー)
「ええ」
善行は、あなたをなでなでしました。
「一度やってみたかったんです。
では、行きましょうか」

二人でゆっくり、船まで歩きました。

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最終更新:2009年04月04日 13:21