680 @Wiki内検索 / 「サングラス2」で検索した結果
-
サングラス2
88title/no.51 サングラス2 「俺に触るな、かばうな、近づくなって言ってたの誰だよ、おい」 伊達のひざの上、栗原はやわらかい寝息で、細い指がズボンの裾を弄っている。 わしわしっとその髪をかき回すと余計にすり寄ってくる。 このままおっぽり出して帰ってやろうかと思ってももう遅い。 宴もたけなわ、一升瓶が転がり、理性を放り出した連中が裸で走り回っている。 何で自分だけ、こんな隅っこで一人冷静に観察してるんだ。 「俺だって、あっちの住人よ?栗原ちゃん?」 騒ぎに後ろ髪ひかれながらも置いてあった上着を手に取った。 広げて栗原の体にかけると、ますますアレらと同じ生き物には見えなくなってきた。 栗原の白い横顔は濃い紺色に映える。 口元は微妙に笑みの形をしていて困る。 「やだわ、栗原ちゃんてば罪作り」 一人おねえ言葉でおちゃらけてみた。... -
サングラス
88title/no.51 サングラス 目が覚めたら、コタツの上に栗のサングラスがのっているのが見えた。 滅多に回ってこない大晦日から新年からに掛けての休みも、気が付いてみれば年末の仕事納めだの、大掃除だの、あっという間に過ぎ去って。 気付けば、毎度定番の『紅白』なんぞを見る気も無く眺めつつ、好きなものだけを作って『おせち』紛いのモノを肴にどちらもが買い込んで来た酒を酌み交わした。 百八つの煩悩を昇華させる為の『除夜の鐘』も聞いたのか、聞きそびれたのか・・・。 起き上がってみれば、コタツの上は惨憺たる状態で、自分もさっさと寝てしまったが、栗の方もそう差も無く寝てしまった事は明らかだった。 それでも、サングラスをキッチリ除けて寝ている辺り、習性って言うのは面白い。 そう思って寝ている筈の本人の姿を探して見れば、自分の背中側。 寒さ避けの為か、温もりに曳かれたのか... -
88題(構築中)
...051:サングラス・サングラス2 052:逃避? 053:飛行機雲? 054:[フライトスーツ? 055:爪 056:汗 057:森林浴? 058:雪合戦? 059:自転車? 060:赤ちゃん? 061:納豆? 062:巣篭もり? 063:野生の矢? 064:のりしろ? 065:無条件降伏? 066:Gift? 067:領空侵犯? 068:はらから(同胞)? 069:WEY OF ESCAPE(脱出経路)? 070:自分勝手 071:怪談? 072:青? 073:栗 074:別れ? 075:空白 076:cry? 077:米? 078:反射熱? 079:瞳を閉じて 080:幼き日? 081:熱? 082:春夏秋冬? 083:たぬきうどん? 084:群雲? 085:卒業? 086:果物? 087... -
BBS-BBS/3
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!! -- あきら 2005-11-21 06 06 21 88題サンクスです。 折角なので、もそっと見やすいように改造しますです。 宜しくです。なんたって、改行は効くが段落変えの一マス開けは全部無視された・・・。こういう物に慣れてないと言えばそれまでだけど、お後宜しく~~。後、シンさんちのも勝手に集めちゃイカンか(苦笑)。昔のBBSにあったのを集めてたので、これ以上は謎なんだな。 -- かずえ (2005-11-21 08 29 56) upしようと思ったんですが、ダブってる場合どうしよう?タイトルに2って入れて横に並べて良い? -- hig (2005-11-21 21 28 58) upされてた分に日付追加しました。かずえさんupありがとう。だぶってるの、2として置きます。もっと見易い方法あったら、ページ名変... -
BBS-BBS/2
88題(汗)。 -- かずえ 2005-11-20 23 54 54 NO.30 kaorucoのUP日付 NO.37 楠さんのUP日付 NO.56 ゆうのUP日付 NO.51サングラスって・・・私以外で無かったっけ・・・悔しい・・・置いてない自分が不甲斐ない。 これがうちの在庫限界って事で後は宜しくお願いします。 名前 コメント -
そこにあった運命
そこにあった運命 「なぁ、一緒に住んでくれないか?」 と、そんなセリフで誘ったのは俺の方だった・・・。 出会いのきっかけはなんてことない。 奴は、あちこちの飛行隊で持て余されて、とうとうこの陸の孤島と揶揄される百里基地に転属してきたナビゲーターだった。 そして、俺は「ナビ潰し」と仇名されていて、気に食わない、能力もないくせに俺にあれこれ指図してくるばかりのナビゲーター共が気に食わなくて、何人も病院送りにしてきた問題児だった。 一緒に組ませれば、どっちかでも大人しくなるだろう、なんていう司令のちょっとした思い付きで俺は奴と組まされて、戦闘機を駆る事になったんだ。 それにしても無茶苦茶な奴で、いきなり目隠しで三沢まで操縦させられたりして、無茶苦茶な所が妙に馬があって、結局俺は奴とコンビを組む事に落ち着いた。 けれど・・・、 変わった奴だとしか最... -
タンデム
88title/no.32 タンデム 栗原が単車を買った。 彼が単車買った、と普通に言うものだから、神田はてっきり50ccバイクだと思っていたら、何だか自分の体重の五倍くらいありそうなバイクが栗原の傍らに鎮座ましましていた。しかもシートの形状を見る限り二人乗りだ。 「……単車じゃないじゃん!」 「広辞苑じゃオートバイ・スクーター等、発動機付き二輪車の事は全部単車って言ってるぞ」 「ナナハンじゃん!」 「いいじゃないか、これ前から狙っていたんだし。普通の軽自動車乗るよりいいかもしんないぜ?」 「誰と乗るんだよ?」 そう言った時いつもはポーカーフェイスの栗原が、サングラス越しでもよく分かる程動揺したような顔をした。 「前まで、最初は清美を乗せようって思ってた。けど、結婚しちまったしさ、それに、もう時代はイーグルだしさ……」 そう言って何だか口ごもっている様子... -
Love the Island...
Love the Island... 「神さ~ん、百里降りれないってよ。どうするよ?」 眼下に見えるのは巨大な台風の目だ。しかも首都圏を中心に三陸沖、日本海側まですっぽり覆い隠してしまう程の巨大な台風。台風の中を飛ぶ事はなんとかできるにしても、滑走路付近の風速が50ノットを超えていては、着陸はとても不可能だ。 「あん?オルタネートはどこよ?」 「最初のフライトプランのは全滅よ。三沢、松島、小松全部ダメ。成田ももちろん。」 アラートで上がったはいいものの、ペアで上がった320号機を先に帰してエスコートを引き受けたのがますかった。いつものウラジオストック発のベトナム行き定期便だ。調子に乗って帰る燃料ギリギリ、東シナ海付近まで送っていったのも災いした。 「神さんが調子に乗るから。」 「んな事言ってないで、オルタネート探してくれよ、栗。このままじゃ墜落しちまう・・・。... -
衝動 -The Winter Moment-
衝動 -The Winter Moment- 「あーあ、また潰れてるよコイツ。」 「しょうがない、ピッチが早かったからね、随分。」 やれやれ、といった感じで伊達と栗原は神田をはさんでそんな会話をしていた。そこは札幌市内の深夜までやっているバーのカウンター席で、神田を挟んで左に伊達、右に栗原が座っていた。 栗原は苦笑しながら、外套をとってカウンターに突っ伏している神田の肩にそれを着せ掛けた。それから、自分のグラスを手にすると、伊達の左隣の空いている席へと移動する。 スツールに腰かけると、ほとんど空になっていたグラスの残りを飲み干して、2杯目をオーダーする。 「お、めずらしく飲むねぇ。どしたの?栗ちゃん。」 と、伊達がからかうのに、 「俺だってたまには酔いたい。伊達が居るなら平気かなって思って。」 と栗原が牽制する。 「バカ言うなよ、俺が一番あぶねぇぜ... -
Lock on, Fire!
Lock on, Fire! 「へっくしゅ!」 大きなくしゃみが狭い部屋に響き渡る。 「どうした?栗、風邪でもひいたか?」 季節の変わり目の秋口、1DKの古いアパートは室温調節がなかなか上手くいかない。朝晩は随分と冷え込むようになったけれでも、コタツやストーブにはまだまだ早すぎる。百里の冬は寒いのだ。 「いや、たいした事はないでしょ。明日にゃ治ってるよ。」 「そだな~、明日はフライトだかんな。」 神田と栗原が同居を始めてからそろそろ1ヶ月が過ぎようとしていた。 引越しが終わったばかりの雑然とした感じがようやくなくなり、必要最低限の家財道具があるだけのシンプルな構成の部屋になっている。「どうせ、帰って寝るだけ」の部屋だからと二人して何も持ち込まなかったからだ。 「神田、そっち片付けておけよ。そろそろ客が来るぞ。」 さっきまで神田が寝転んでいたあたりに... -
問わず語り
88title/no.16 問わず語り 「いちいちうるさいんだよ!大体よお、お前は俺の何だっつーんだよ!」 きっかけは何だったのか、もう思い出せない。 ふとした相手の言い草に気が立って、言い返した台詞は 自分でも言うつもりの無かった言葉。 普段なら笑って許せるのに、その時だけは 許せなかったのは、お互い気持ちに余裕が無いからだろうか? 激しい感情の発露の後、神田は髪をくしゃくしゃと掻き毟って言った。 「栗よお、・・・俺が重荷になってるってんなら、もうほっといてくれよ」 「重荷だなんて言ってない。少しは自立して欲しいだけだ」 「自立しろだと?じゃあ、もう俺にはかまうなよ。元々一人で やれてたんだからよ」 「・・・何も其処までしろって言ってるんじゃない。出来る範囲で良いからって・・」 「その見下すような言い方は止めろよ」 神田... -
運命の予感
運命の予感 「てめっ、この野郎優しくしてりゃいい気になりやがってっ。」 「・・・分不相応な期待はするもんじゃないって事だな。そっちこそいい気になるんじゃないよ。」 「なんだと・・・。」 と、誰も居ない筈のブリーフィングルームからそんな声が聞こえてきて、それから激しく何か重量のあるものが床に叩きつけられる音がした。 「ってぇな・・・。上等じゃねぇか・・・。」 それは多分、人間の身体が叩きつけられた音で、でもそれからすぐに、何かアルミのパイプの様なものが、いくつも音を立てて散乱する音が聞こえた。どうやら、パイプ椅子がいくつも倒れたらしい。 「ちっくしょうっ。」 と、そんな声がしたかと思うと・・・、 ブリーフィングルームの扉が開いて、1期上のパイロットが左腕を押さえながらそこから出てくる。顔をしかめているのを見るとどうやらそこに怪我でもしているらしい、顔もど... -
体温
88title/no.39 体温 ぼんやりと明けている空を感じながら、目を開けるのが嫌でまぶしさを避けるようにして布団の影に潜り込む。 モソモソと頭を埋めるとじんわりとした温みを感じてその温さに身体を摺り寄せていった。 「ぷっ。」 ぷ? 頭の上で発せられた自分ではない声を知覚して、その擦り寄って行った場所が小刻みに揺れている事を自覚してやっとその場所がいつもの自分の寝床でないことに気付いた神田だった。 「おはよう、神田二尉。」 「・・・え?へ・・・?」 バカの様な声が口から出たまま、しばし呆然とその状態のまま神田は固まっていた。 目の前にはパジャマの胸、肘を付いて頭を支えた形でサングラスを外した栗原が俺の顔を見たまま笑っていた。 瞬時に忘れていたハズの夕べの記憶が一気に戻って来て青くなる。 確か1件目は着任祝いだからと嫌がる栗原を無理矢理連れ出し、メシ喰いな... -
DISTANCE~百里~
DISTANCE~百里~ 「あー、やっと終わった~。」 あちこちでそんな声が聞こえる課業後の1700、ラッパの吹奏音が終わるや否や、バタバタと帰り支度を始める隊員達の姿が見える。 「栗原2尉、まだ帰んないですか?」 そんな中、数冊の書類の束を抱えてブリーフィング用のテーブルの席に着いた栗原に、隊員から声がかかった。 「あぁ、神田が居ない間にデスクワークを片付けちまおうと思ってさ。」 言いながら、ページを開き、せっせとそこに文字を埋めて報告書を作りあげていく。まるで頭の中にその完成形が出来上がっているかのように、それはスラスラと進んでいく。 「まーた、神田さんの分まで書いてるんですか。甘やかすの良くないですよ。」 とそう言うのは水沢だった。 「神田が居ないんだからしょうがないだろ。」 甘やかして、の部分に反応して、栗原はちょっとムっとしたように水沢の... -
Secret Base
Secret Base 「今日は風がきついな。」 それは二人して基地の外周をジョギングしていた時の事だった。 丁度ランウェイのエンド付近を通り過ぎる場所で、周囲はだだっぴろく開けていて、その強い風を遮るものは何もなかった。 その先には大きな窪地があって、それを避けるように外周道は大きく基地の外柵の方向へ曲がっていく。 「うわっ…と、やべ。」 それまで栗原の体一つ分くらい前を走っていた神田が、そう言って大きく外周道を反れて窪地の方向へと下っていった。 見ればその先に白い細長いものが風に煽られて、地面から浮いたり転がったりしながら神田の2~3メートル先を舞っていた。 どうやら神田が首から掛けていたタオルが風に煽られて、吹き飛ばされたらしい。 仕方がないので、栗原も足を止めて神田がそれを無事に捕獲して戻ってくるのを待つ事にした。 神田はなかなか戻って来な... -
キミの居る場所
キミの居る場所 「何でお前、こんな所に居るんだ?」 と、寝室に足を踏み入れた瞬間に、伊達は驚いてそう言った。 そこは空港に程近い成田市内のマンションの一室で、フライト前にゆっくり出来るようにと、生活に余裕が出てきた頃に購入した物件だ。 だからそこに予想外の人物が寝そべって本なんて読んでいたとしたら、驚くのも無理はない。カーテンは開けられたままだったが、夕刻を過ぎた部屋はもうとっくに薄暗くて、ベッドサイドの明かりだけが、その人物の手元と俯いた横顔を照らしているだけだったが、伊達にはその相手が誰かがすぐにわかった。 「何だ、帰ってきたのか。・・・じゃあ、出て行こうかな。」 物憂げな顔を上げたその相手は、その視線上に伊達の顔を捉えるなり、そう答える。 「いいさ、ゆっくりしてろよ。いつから居たんだ?お前。」 そして、伊達からそう尋ねられて、その相手・・・ベッドの上... -
告白のジジョウ(事情・自浄・二乗)
88title/no.23 告白の二乗 この場所を見つけた事は偶然だった。 春の春とは思えない程の暑さに怯みつつ、照り返しも厳しい昼下がり書類を届けに行った帰りに飛び込んだ日陰。 どこからやってくる風かなのか、頬を撫でられて人心地付く。 そのまま誘われるように歩いていると、ぽっかりと空いた空間に出た。 それが貯水タンクの影になる場所だと気付いたのは、ずいぶん経ってから。 そしてそこが秘密の告白スポットだと知ったのは、更に数週経ってから・・・。 めっきりその場所を自分の昼下がりの特等席と、勝手に決めてからだった。 やって来る人影に慌てて、タンクと併設されている建物に付いている足掛かりを登ってその屋根に張り付いていたら・・・更に人影がやってきて動けなくなり。 「付き合って欲しい。」 そう下にいる人物が喋った時には何を聞いたのか分からなくて、しばらく考えた程... -
冬物語
冬物語 「なんか気分乗らねぇなぁ・・・。」 「そうですね。この面子ですからね。」 「しょうがないだろう。こうやってのんびり羽を伸ばせるだけでもありがたいと思えよ。」 神田のボヤキに西川が迎合して、それに栗原が異論を唱える。そんな様子をキョロキョロしながら水沢が見ていて、けれど意外に利口な彼は生半可には口を挟まずに成り行きを見守っている。 「何に不満があるってんだ。スキーだってしたし、温泉だって入っただろ?それで酒と上手い料理があって、その上何が不満なんだ。」 そう言って栗原は、めずらしくも飲みモードで、手にしていたグラスから冷酒を口に運ぶ。いつものメンバーという気安さと、例え神田が酔いつぶれても運ぶ必要がない状況が彼をそうさせていた。 4人が居るのは山間の温泉旅館で、温泉そのものはそれほどウリにはしていないのか簡素なものだったが、料理が上手く、日本酒も地酒のい... -
勝手にしやがれ
勝手にしやがれ 「いやー、なんか半年ぶりだっていうのにキツイ気がして。」 「いやいや、まだお前なんかいいほうだよ。整備主任なんか見ろよ、去年より確実に3センチは腹が前に出てんな。」 「それより、俺なんか黄ばみがひどくってさー。」 「あー、そりゃひでぇや。今年あたり被服更新してもらえよ。」 「補給係の奴なまけてやがってさー。」 と、朝礼前の飛行隊では隊員が集まって口々にそんな会話がかわされていた。今日は6月1日、全国一斉に衣替えの日である。 朝イチのフライトにあたっている隊員がやむおえず飛行服や整備服でいるのを覗けば、服装点検があるため隊員はほとんど夏制服で朝礼場に並んでいた。 当然、西川と水沢の姿もそこにある。 二人は飛行服姿だ。けれども出勤時は当然夏制服で、お互いに体型が崩れていっているのを嘆きあっている。 「飛行服に着替えてほっとしましたよ、僕... -
One Night Celebration
One Night Celebration 「あれっ、栗原さん早退ですか?めずらしい。」 「そうそう、じゃあ水沢、後よろしくな。」 朝イチのフライトを終えて、その後のブリーフィングを終えた栗原はそのままロッカー室に消えて、そしてすっかり帰り支度をしてそこから出てくる。 それを見咎めて西川と水沢の320号コンビが声をかけてくる。 「あれ、神田さんは一緒じゃないんですか?」 「神さんにはたまってる報告書を仕上げて貰わないといけないからね。」 「神田2尉がおとなしく書き物なんてしてると思えませんけど。」 「いや、大丈夫だろ今日は。時間がなくなるから、とにかく俺は帰る。そうだ、西川、水沢、神田には報告書全部仕上げるまで帰ってくるなって言ってあるんだ、ちゃんと見張っててくれ。」 と、言うなり廊下を走って出口に向かう栗原だった。余程急いでいるらしい。 その背中... -
DRASTIC BETTER HALF
DRASTIC BETTER HALF 「暑いなぁ。」 「暑いですねー。」 夏の盛りも近づいたある日の事、飛行隊のロッカー室では訓練を終えて、シャワーを使い終えたパイロット達が口々にそんな会話を交わしている。 皆一様にダラダラとした格好をしている。シャワーの後でも当然課業中なのだから、本来なら制服に着替えるか、洗い換えの飛行服を着ているべきなのだが、誰も空調設備のないロッカー室の中、そんな格好をしているものは居ない。 Tシャツ姿だったり、果ては上半身裸のままで下は短パン姿といった格好の隊員までいる始末だ。 そこへ、 「よ、西川、水沢、お疲れ。ちくしょう、暑いなー。」 とシャワー室から出てきた神田がそう声をかける。 普段どちらかと言うとキッチリしている方の西川、水沢コンビだったが、さすがに暑さに耐え切れないのか、飛行服の上半分を脱いで腰でしばった状態で、... -
モーニング・ムーン
モーニング・ムーン それは、夏の始まり頃の事だった。千歳の夏は始まりが遅く、そして終わるのは早い。人々はほんの少しの夏気分を味わおうと躍起になる。 それはここ、千歳の航空隊でも同じことで、夏になればやれ花火大会だ、やれ水泳訓練だ、と精一杯の行事をこなす。 そんな花火大会の日のことだった。 基地をあげての花火大会で、そこには基地司令以下名だたるVIPが顔をそろえ、そして基地隊員は勤務に支障をきたす人員を除いて全員参加が達せられていた。 「いつまでもブウブウ言ってんじゃないの。」 と伊達は隣に居た栗原の頭を軽く小突いた。 グラウンドでバーベキュー、しかも大した花火でもない、そんな飲み会に出なきゃならないくらいなら、部屋で寝てた方がマシと言い張っていた栗原だった。 それを今回は隊長から厳しく咎められて、伊達には「必ず連れて来い」との厳命が下っていて、なだめすかし... -
愛のカタチ
愛のカタチ その日、栗原と伊達の二人は都内の一等地にあるそこそこお洒落なダイニングで夕食をとっていた。 二人ともスーツ姿で、特に何の変哲もない服装だったのだが、長身で体格の良い伊達と、どこからどう見ても見栄えの点では申し分のない栗原との組み合わせなので、それなりに人目を引く。 「お前なぁ、いい加減に俺にタカルのはやめろよ。」 二人の前には小洒落た料理が並べられていて、グラスには高級そうなワインが注がれていた。 「なんで?いいじゃん、別に。たまには美味しいもの食べないとね。」 言いながら、栗原は非常に穏やかな表情をしている。 「旦那はどうしたんだよ、旦那は。」 電話があったのは今日の昼の事だ。突然に今晩ヒマ?と栗原から誘いをかけてきたものだから、伊達は二つ返事でその誘いに乗った。ほとんどの場合、伊達の方から声をかけることが多くて、そして栗原が誘いに乗ったとし... -
二律背反
88title/no.20 二律背反 汗ばんだ肌が乾いていく感触と、体の奥の鈍い痛みとが、彼をして 浅い眠りから醒めさせた。 思いがけず長い時間を浪費してしまった事に舌打ちをして、彼は身を起こした。 既に部屋に差し込む影は長くなっていて、夕刻近い事は時計を見ずとも明らかだった。 床に散らばる服の中から適当にシャツを引っ張り出し、肩に羽織ながら 隣でだらしない顔をして眠っている男の髪を引っ張った。 「神さん、神さん、もう起きないと」 「ん・・・・・?ああ・・・後、10分・・」 「10分じゃないよ、まったく。今日中に各務原に戻らないといけないんでしょ、 いい加減に起きてください」 「お前、送ってくれよ・・・明日は非番だろ・・・・?頼むよ・・・栗ィ・・」 「俺はタクシーじゃないぞ、自力で帰れ。それともまた始末書を書くか?」 答えは無かった。 ... -
睫毛の先
88title/no.30 睫毛の先 ビューラーで根元から毛先へカールさせる。 繊維入りの下地をつける。 マスカラを「だま」にならないようつける。 マスカラ液が乾く前にコームで梳き、もう一度重ねづけする。 乾いた上からさらに透明マスカラをつけると、クマにならない。 阿呆みたいに口をポカンと開けたまま、神田が俺を見ていた。 俺の手順を魔法か何かでも見るみたいに。 「栗、キレー」 言葉までガキに戻ってやがる。俺は笑って、赤い口紅を引いた。 あ、クソ。ちょっと歪んだ。ティッシュで拭き取ってもう一回。 金髪のカツラを付けて、ブラシで整えて、 「どうだ?美人だろ」 振り返ってあだっぽく笑みを作ってやると、神田の顔がだらしなく垂れ下がる。 「うん。栗すんげー綺麗!!」 そうか、そうか。素直な返事だ。うんうん。俺は色白だから金髪も不自然じゃないし。 俺以... -
LAST FLIGHT
LAST FLIGHT 「とうとうこれで最後だな。」 おそらくは飛行服に袖を通すのもGスーツに体をしめつけられるのも、そして、戦闘機の操縦桿を握るのも今日が最後になる。 明日が彼の定年退官の日。 そして今日はその彼が人生最後のフライトを行う日なのだ。 「隊長、準備が整いました。ハンガーの方に移動願います。」 そう言って、まだ若いパイロットが彼を向かえに来る。 「あぁ、すぐ行く。」 (30年か・・・。長いようで短かったな。) パイロットとして一人前になってからの年月を彼は振り返る。何度も死線を潜り抜け、時に褒められ、時には上官からこっぴどく怒られ。 いつからか編隊長として部下を従えて飛ぶようになり、一時は戦闘航空団を離れて、テストパイロットとして何種類もの航空機に搭乗したりもした。操縦課程や機種転換課程の指導教官もやった。 そして、再び思い出深い... -
CROSSROAD
CROSSROAD いつだって、出会いが突然なら別れだって突然訪れるものなのだろう。 別れは、決して悲しくはなく、けれど切ない一瞬に違いなかった。 少なくとも、彼らにとっては。 ただ一人だけ、互いに命を預けることのできる相手だからこそ、そして誰よりも愛しいと感じた相手だからこそ。 別れは新しい旅立ちなのだと、誰が言った言葉だっただろうか・・・。 それは百里基地で日米共同訓練が行われている最中の出来事だった。 USAF対JASDFで模擬戦を行われていて、神田栗原コンビの駆るファントムが一番機、西川水沢の機が二番機として参戦し、そして見事に勝利を収めていて、その相手のUSAF機もまたファントムだった。 その日は司令も上機嫌で、その夜になって行われた日米の親睦会でも神田栗原の飛行センスと戦闘行動の素晴らしさを米軍のパイロット達は褒め称えてくれていた。... -
イニシアティブの居場所2
イニシアティブの居場所 2 それはある日の夕刻の事。 「あー、やっと家に帰れたぜーっ。」 二人の住んでいるアパートのドアが勢い良く開けられて、そして揃って帰宅した神田、栗原がその敷居を跨いだ。 先に玄関から部屋に上がった神田は、よほど疲れているのか、そのまま畳みの上にへたり込んで動かなくなってしまう。 「神さん、靴くらい揃えてから部屋に入れって、いつもいってるでしょうが。」 と、神田の行儀の悪さをいつも見咎める栗原も、今日は相当疲れているのか、それ以上小言を言うのも煩わしいとばかり、自ら神田の分も靴をそろえて、投げ出されている制帽を拾い上げて玄関の所定の場所に置いてから、神田に続いて部屋に上がった。 「おや、相当お疲れのようで。何か飲む?」 「ビ・・・ビール・・・。」 「はいはい、一昨日のうちに冷蔵庫に入れておいて良かったね。」 その前日の朝は訓... -
SECRET WING(春日あきら様)
SECRET WING 「ファントム無頼」を題材にしたショートショートの羅列です。 ほぼ女性向けの内容となります。 あと、あらゆる描写及び表現はフィクションです。念のため。 丁度書いていたのは2004年末から2007年初頭にかけて。楽しかったなぁ。 賛否両論あるかとは思いますが、神×栗←伊達 な嗜好の方には楽しんでもらえるかと思います。色々倫理上ダメそうなのは省いた(念のため)。 自衛隊マニアには楽しめませんよ(念のため)。 二世問題 Lock on, Fire! Winter Comes Around...? Because I Love You...... I d Start a Fire Love the Island... THE RECON FRIGHT They Say All s fair in love and war. T... -
夏の日
夏の日 それは、心地よい初夏の日差しの中でのこと。 「てめぇ、何サボってやがる。」 場所は飛行隊横のグラウンド。やたらに広いこの基地には芝生の敷き詰められた原っぱがたくさんある。 けれど、そこは草が伸び放題に野放しにされていて良いわけでは当然なくて、当然ながら隊員たちの手によって定期的にキレイに刈り込まれているのが通常であった。 飛行隊総出での草刈の日。当然ながら普段は華麗に戦闘機を駆るパイロット達も例外ではなくて、キレイに雑草を刈る日なのである。 そんな中に、神田と栗原の姿もあった。 しゃがみこんで何やらゴソゴソとしていた神田が視線を上に向けると、そこには草刈鎌を片手に、何やら物騒な雰囲気の栗原が居た。 「げっ、なっ、なんだよぅ。何もサボってねぇぞ。」 「嘘ついてんじゃねぇよ、手が止まってるぞ、手が。」 右手に鎌を持つ栗原の背中には大きな麻の袋が... -
LAT43°N
LAT43°N ある日の事だ。 飛行後のブリーフィングを終えてダラダラしていた神田は、なんとなくその部屋の様子がおかしい事に気がついた。 視線を感じるのだ。 だが、それを感じているのはどうやら神田だけではないらしく、相棒である栗原も時折それが気になるのか、同僚との会話の合間に視線を宙に漂わせている。 だが、その視線が向けられるのは神田よりも栗原に対してのほうが圧倒的に多いようで、神田が栗原の動きを注意深く観察していると、その視線の主を簡単に発見することができた。 知らない顔だ、と神田は思った。 おそらく今期の操縦過程が終わって配属になったばかりの新人だろう。それが事あるごとに栗原の一挙手一投足を観察しているのだから気味が悪い。 (栗のやろう、また新人からかって恨み持たれたんじゃねーだろうな。) と神田は一人そんな事を考えたが、更に視線の主を観察している... -
大掃除
大掃除 「なぁ、神田。この雑誌捨ててもいいのか?」 と、奥の和室の畳をせっせと拭いている神田の所へ、栗原が数冊の週刊誌を持ってやって来た。週刊誌と言ってもまんが雑誌や週間文春とかではなくて、水着グラビア+官能小説+ヌード写真がセットになった、いかにも独身男性が好んで買いそうな雑誌だ。 栗原はそれを神田の目の前にどさっと下ろす。 「あー、探してたんだよ、これ。どこにあったのさ?」 「・・・便所の棚の上。こんなモンそんなトコに置くな、そもそも。」 「いやー、すんげぇ前から探してたの、俺コレ。」 雑誌の日付を見るともう随分前になっていて、栗原がここに住み始める前の日付だ。つまり、そのくらいからマトモに掃除なんてしてなかったって事になる。 「まぁ、いいか。神田、畳拭き終わったんなら、休憩するぞ。」 そう言って栗原は、お茶をいれに台所へと向かった。 そして、... -
They Say "All's fair in love and war."
They say ”All’s fair in love and war.” 「なぁ、栗ぃ~。」 「なぁってば~。」 「くーりーはーらーさーん!」 と栗原の周りでじゃれついているのは神田だ。もうとっぷりと日も暮れて、夕食も終わって、風呂にも入り終わって、そしてゴールデンタイムのテレビがすべて終了した頃。 さっきまで大人しく横になってテレビを見ていた神田は、ニュース番組になるなり興味を失ったらしく、そして退屈し始めたようだ。もちろん、ただ退屈しているだけでない事はそのじゃれ具合から明らかである。 だが栗原はと言えば。 「今日はダメだ。」 と、まったく相手にしようとしない。 「栗・・・冷たい・・・。」 「うるさい、する事がないんなら、はやく寝ちまえ!」 結果、神田は一人でトボトボと布団を敷いた部屋へと向かったのだった。 そして、夜が... -
DISTANCE~千歳~2
DISTANCE~千歳2~ 「くそっ、お前に言われなくたって、んな事たぁわかってんだよっ。」 ガチャンっ、と公衆電話の受話器をたたきつけて神田はそう言った。 そこは千歳基地の幹部外来のある隊舎の一階に設置された公衆電話だった。 もう日もも変わろうかという深夜、常夜灯の光の下、その受話器の音と神田の声だけが廊下に響いていた。 結局、その日の神田は昼の栗原からの電話の後、すっかりまた眠り込んでしまって、目覚めたのは日もとっくに暮れかけた頃だった。 基地の食堂の喫食時間はとうに過ぎていたので、けれど外に飲みに行こうとして、神田はそれを諦めた。 寒いのだ。 北海道の冬は寒い。夜はましてだ。 飛行服はさすがに目立つだろう、と神田は制服に着替えていた。その制服も、替えの下着や洗面具なんかの日用品もとりあえず栗原が用意してくれていて、何の不自由もなかった... -
I'd Start a Fire
I’d Start A Fire もぞもぞ、と栗原の背中の方で何かが動いている。最近は隣の布団で寝ている筈の相棒に、背を向けるようにして寝る癖がついている。 (おーい、神田、どうでもいいが布団をまくったままにするな、寒いだろうが。) 寝たフリをしたままだと、ずっとこのままにされそうだと考えて、栗原はそのまま神田がいるであろう方向へと寝返りをうった。 「さっきから何がしたいんだ、お前は?」 暗がりにぼんやりとだが、そう言われて神田はバツの悪そうな顔をしている。 「いや・・・その。」 「俺のフトンに入りたいのかそうじゃないのか、さっさと決めてくれ。俺は寒いんだ。」 「え、いいの?」 栗原の言葉に神田の顔が輝く。 「人が寝ようとしてるのにゴソゴソされちゃ迷惑なんだよ。ただし、俺に指一本触れるんじゃないよ?」 「栗~。」 栗原の最後の方の言葉を聴い... -
10 Years
10 YEARS 「くっ、栗ぃ~っ、白手貸してくれっ。」 と朝っぱらから栗原に泣きついているのは言うに及ばない神田だった。 白手とは言うまでもなく、白い手袋の事である。自衛官が通常礼装をする時に欠かせないものだ。 ここはいつもの飛行隊のロッカールーム。いつもなら着いてすぐに飛行服に着替える筈が、神田はさっきからロッカーの中をかき回して何かを探していたのだった。 そしてとうとう探し物がそこにはないと判断して、栗原に助けを求めた次第である。 だが、突然白手を貸せと言われても理由がわからない。 「・・・なんで?」 「だーかーらー、今日は司令のトコ行って賞詞もらわんといかんのだ。」 「・・・6級賞詞か?」 「あほぅ、俺は何も悪いこたしとらん。」 6級賞詞は賞罰の「罰」のことだ。賞も罰も貰うときの服装が同じ事から皮肉った造語である。 「じゃあ何かほめ... -
IF YOU WISH
IF YOU WISH 「失礼します。VIPの年次飛行に関する合議を頂きに参りました。」 と、飛行隊長の部屋に入ってきたのは、普段飛行隊では見かけない司令部の人間だった。手にはA4の用紙数枚が閉じられたバインダーを持っている。 その一枚目の紙には信じられないくらいの四角形が書かれていて、一番下から順に10個程のハンコが連なっていた。 飛行隊長の所にたどり着いたのがようやく昼過ぎだったから、彼はまだまだこれから半日かけてハンコを貰いに回る旅が続くに違いなかった。 こんな時、飛行隊長である神田2佐はいつも思うのだ。大変だな、と。 そしてなるべく穏便にハンコだけ押して、次の場所へコマを進めてやりたいと思っている。 だから、いつもならどんなスタンプラリーが来ても快くハンコだけ押して、内容に対しては突っ込みをいれたりはしないようにしているのだ。 だが、今回は少し違っ... -
桜の花の咲く頃に・・・2
桜の花の咲く頃に・・・2 「いやー、毎年この時期になると思い出すんだよな。」 「はぁ、何をですか?」 百里基地のゲートを抜けて基地の中へとすすむ並木道、そこを歩きながら会話しているのは伊達と高田だった。空は快晴、道から見えるグラウンドは桜の花が満開だ。 そこを歩いているのは二人だけではなくて、多くの家族連れが同じようにゲートから連れ立って歩いてきている。 その日は年に一回、花見の為と称して基地が一般に開放される日で、ついでに飛行隊もそこで宴会をしていたりしていて、丁度仕事が休みだった伊達と高田もそこに招かれていた。 「そりゃ、あれだべよ。美しい恋の物語って奴よ。」 「あぁ、それもう100回くらい聞きました。聞き飽きました。ねぇ、三星ちゃん。」 とそう言って高田が、伊達に肩車されているその愛娘に笑いかける。 そう言われた三星は、わかっているのかいないのか... -
二世問題
二世問題 「な、栗。大丈夫だ、お前に不可能はない筈だ!」 「馬鹿言ってんじゃねぇ!あっちいけこのボケがっ!!」 根拠のない説得をしつつジリジリと迫ってくる相棒から、栗原は必死で逃げ回っている。 二人が居る場所は、課業終了から幾分時間の過ぎた誰もいないブリーフィングルーム。部屋の中央にある10人は座れるくらいの大きな会議机の周りで、二人はくるくると右に左に追いかけあいっこをしている。 そもそもの始まりは夕日がラッパがなる直前のこの部屋での飛行隊のメンバーとの他愛のない会話から・・・・。 「男が生まれたら、将来は戦闘機乗りだな。」 「あ~、その頃にはイーグルだな。」 「いや、更に最新鋭のものごっついのが配備されてるかもしれねーぞ。」 来月に新妻が臨月を迎える隊員を囲んで、みんな好き勝手にものを言っていた。 話題に火をつけたのは神田2尉の心な... -
自分勝手
88title/no.70 自分勝手 「好きだ」 「は?」 神田が栗原の顔をうかがうように小さく言った。 意味もわからずぼけた声が出ると、神田が嬉しそうに言い放った。 「俺は栗原が好きだ」 それはもうハレルヤーってな満面のすっきりした笑顔で言った。 ここはどこだ、第○格納庫前だ。その上、ランニングしている、 いかついジャージ男が目の前を走る公の場だ。神田言った言葉はここにそぐわない。 「神田、寝言か?」 「ちゃんと起きてるし、俺は…」 「そういうことは普通体育館裏とかで言うことだろっ」 なんてこったコンピュータを狂わせられている体育館裏じゃない、放課後で教室だ(違 「忘れないうちに言うべきだろ」 「そんなこと忘れるかっアホっ」 「じゃ、覚えててくれ、じゃっ」 さわやかに言って赤い顔で逃げ出した神田の服の裾を思いっきり引っ張った。 どこか千切れる音が... -
POWER BALANCE
POWER BALANCE 近頃じゃ、毎日のフライトが憂鬱だ。 訓練が嫌いなわけじゃない。操縦にもちったぁ自信はある。けど、ここの所は不調でもないのに後席からのダメ出しをくらうのだ。 けど、それは俺にはどうしようもない機体の性能上の問題だったり、どう考えても人間の身体にとっては無茶なオーダーの連続で、飛行後のブリーフィングのまたその後で、いつだって言い争いになるし、そして今みたいな取っ組み合いの喧嘩だって、もう何度目の事になるだろう。 ブリーフィングルームもその前の廊下も、喧嘩をするには目立ちすぎる。俺がそう思って先に立って格納庫の隅へと歩いていくと、相手も後ろから無言で付いてくる。 俺が振り返った途端に、向こうは何も言わずに掴みかかろうとしてきたので、俺は思わずその頬を拳で殴り返して牽制する。 もちろん小僧相手に本気で殴る蹴るなんてしやしねぇが、相手は結構本気ら... -
今も昔も・・・
今も昔も・・・ 「あー、ちくしょうっ切りやがった。」 ツーツーと無機的な非通信音を出す受話器を憮然とした様子で伊達は見つめていた。 そこは紅空の待機パイロット用の控え室で、時間は夜の10時を少し回った所だ。 待機は明朝の6時までで、その時間なれば代わりのクルーがそこに入る。 伊達がそこに居るということは、当然相棒の副操縦士もそこに居る訳で、 「・・・機長、いい加減にしないと本気で嫌われますよ?」 伊達の電話の相手が女房子供でない事は、高田もとっくに気がついていた。 「ヒマなんだよ。」 不服そうな表情を浮かべながら、伊達は高田が座っているテレビの前のソファの端に腰掛けた。 「だからって、他人の時間を犠牲にさせるいいものかと・・・。」 「高田ちゃんも遊んでくんねぇし。」 伊達がヒマを持て余しているのには高田にも原因がある。つい今の今まで延長にな... -
Fragile Eternal
Fragile Eternal 「神さん、8時だぜ。」 「あ?…あぁ。」 「どしたい、ぼーっとして。待機終了だ、お疲れさん。」 睡眠不足なのか疲れからなのか呆けている神田の肩を、栗原はそう言いながら軽くたたいた。 と、その時二人の居る部屋の扉が開いて、Gスーツに救装品をつけてヘルメットを小脇に抱えた一団が入ってくる。 そこはアラートハンガーで、丁度アラート待機の上下番のタイミングだった。 そう、二人はアラート明けなのだ。 それも、本日二回目のアラート待機だった。 この所日本国の領空には彼我不明機の往来が激しかった。日本が同盟国と共に推し進めている新防衛大綱に基づく防衛施策が気に入らないのだろう。 それに抗議するかのように連日連夜、領空侵犯スレスレの航行機が出現する。 そのほとんどは冷やかし、というよりも国家間での揺さぶり行為の一つな... -
4
Cross over the Line 4 「何、頼み事って。」 伊達がそんな表情をしながら切り出すということは、非常に頼みにくくて、そして頼まれたくない事なのだろうと予想しながら栗原は聞き返した。 そこへ、伊達が後ろ手に持っていた物を栗原の膝の上に投げつける。 何だろう、と栗原がそれを手に取るよりも早く、 「コックピットに立て篭ってる奴に、エサ届けてやってくれねぇか?・・・・・・それ着てさ。」 と、そう伊達から話が切り出される。 手にしたものを確かめて、栗原の顔からは表情が消えていく。 「・・・なんだ、コレは・・・。伊達、てめぇ何考えてやがんだ。」 栗原の声は、押し殺されてはいたものの、十分に怒りの波動を漂わせていた。それもその筈で、伊達が投げて遣したものは、紅空の女性クルー、つまりスチュワーデス用の制服だったからだ。 栗原の怒りは他所に、神田は... -
Pinup Girlのアヤマチ
Pinup Girlのアヤマチ 「行かないと言ったら行かない!何度言わせるんだ、」 それはある日曜の事だった。昼メシを街に出て食べよう、と主張する神田に、栗原は断固として反対の構えだ。 「えー、いいじゃんかよぅ。たまには外食くらいしたって。給料も出た事だしさー。」 「行きたきゃ一人で行けばいいだろ。」 「栗と行きたいんだよぅ。」 「…神田、俺が外に出たくねぇ理由を忘れたとは言わさねぇぞ?」 「あ。あはははは…。」 「笑ってごまかすんじゃねぇっ!!」 そう、この日栗原には街に出かけられない大変な事情があったのだった。 それは半年程前の出来事だった。 「お、なんでぇ、盗撮航空隊じゃねぇか。」 昼食から戻ってきた神田は、ショップの中に不審な人物が居る事に気が付いた。 と言っても、内輪の人間には違いないのだが、神田の所属する飛行隊... -
優しい気持ち
優しい気持ち 「栗~、ビールとって。」 「はいはい。」 春先とは言えまだ肌寒くて仕舞えないでいるコタツでだらしなく寝転んだまま、神田は風呂から上がりたての栗原にそう声をかけた。 ほわっとした湯気をたて、洗い髪をタオルで拭きながら、栗原は冷蔵庫をあけて二人分の缶ビールを手に取る。 「おらよ。」 そう言って手渡すと、神田は起き上がりもせずにそれを手に取った。 そしてそのプルトップをあけて一口口にしてからそれを手近におくと、反対側にもぐりこんだ栗原に、 「チャンネル変えていいか?」 と、言うだけ言って承諾も得ないままにリモコンを手にする。 「オープン戦見るんじゃなかったのかい?」 「だって、どっちも知らねぇチームでつまんねぇんだもんよ。」 「まぁ、なんだっていいけど。リモコン壊すなよ。」 「あーあ、テレビもつまんねぇな。」 一通り見て回っ... -
FIRST CONTACT
FIRST CONTACT 相棒と喧嘩した。 相棒といっても、ついこないだフライトコースを出てきたばかりの新人で、俺と一緒にこの千歳基地でファントムに乗っている奴だ。 初めて会った時から生意気というか横柄な奴で、事あるごとに誰彼構わず突っかかっていくような奴だった。 それでいてフライト中は酷く冷静だ。 頭もいいし、操縦センスも悪くない。 けど、性格が災いしてか、色んな奴が持て余した挙句、俺みたいな奴が教育係を仰せつかったというわけだ。 喧嘩の理由は何だったっけ。 確か俺の反応速度が鈍いとかヌカしやがったから俺がカチンときたんだった。 どうやら俺の後ろのナビゲーターはパイロットが自分の計算通りの速度で動かないと機嫌が悪くないらしい。 俺の旋回タイミングが遅れたせいで、敵を撃墜するまでの時間が奴の計算よりもコンマ何秒か狂ったのが気に入らなかったんだと。... -
空の王様
空の王様 「成績が良くないな・・・。」 「あ?何が?」 ぼそっと栗原がそう言うのに、神田は出されたお茶をすすりながらそう聞き返す。 ここは某基地の基地司令室。その隅っこの革張りのソファの上で神田は勝手知ったるとばかりにくつろいでいる。 「戦競だ、戦競。お前ちゃんと訓練させてんのか?」 めずらしく栗原の機嫌がよろしくない。 来週に本番を控えた航空団対抗の戦技競技会に向けた予行演習での結果が芳しくないのだ。飛行隊を2つにわけた紅白戦でそれぞれ撃墜に要する時間とそれに至るまでの機動飛行の腕前を競うのだが、司令である栗原のもとに届けられた資料を見る限り、とてもトップに立てるとは思えないのだ。 「なんだよー、栗。お前そんな事言うのに俺を呼んだのかよ。」 「ったり前だ!俺が茶飲み友達を探すのに、わざわざお前を呼ぶとでも思ってるのか?」 「いつもはそうじゃん・・... -
桜花思惟
桜花思惟 「神さん、起きて。」 神田の髪と顔にかかった桜の花びらをそっと払いのけて、俺は軽くその頬を叩いた。 閉じられていた瞼がわずかに動いて、そしてゆっくりと開けられる。 「もうみんな帰ったよ?」 「ん・・・?あれ?」 昼過ぎから始まった花見の宴は終盤を迎えていて、もう残っているのは片付けに駆りだされている隊員だけだ。神田があまりにも気持ち良さそうに俺の膝の上で寝ていたので、日暮れまでこのままにしておいてやろうかとも思ったが、とうとうブルシートの片付けがはじまって、それは出来なくなった。 神田はまだ酔いから醒めてはいないみたいで、なかなか起き上がろうとはしなかった。 「今日は酔いつぶれる程は飲まない、とか言ってたクセにさ。ほら、シート片付けるんだから、膝からのきなさいって。」 「んー、もうちょっとここがいいな。」 「バカ、片付けの邪魔になるだろ。... -
運命の糸車
運命の糸車 「お、無事復活してきたな。」 結局週末一杯を寝て過ごして、ようやく調子が戻って職場に顔を出した俺を見つけて最初にそう言ってきたのは栗原だった。 「あぁ、お蔭さんでな。助かったぜ。」 せっかくの週末を半分程俺の為に潰してくれた栗原だ。一応の礼は言っておく。 すると、 「別にお前の為にしたわけじゃねぇよ。もう来週は戦競だしな。風邪治ったんなら、気合入れていくぞ!」 俺から礼を言われた事に照れたのか、それをごまかすようにそう言った栗原だったが、俺はまだその時栗原の様子がいつもと違うことに気づいていなかった。 それに気づいたのはその日のフライトが終わった後のことで。 訓練後のデブリーフィングをしながら、次第に栗原の顔が青ざめていくのに気づいた俺は、それでもちょっと疲れがたまっているくらいだろうと安易に考えて、 「ん?どった?調子悪そうだな、栗。... - @wiki全体から「サングラス2」で調べる