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異世界アケビ転生

夕暮れ時の交差点を渡っていた小鳥遊春人(たかなし はると・20歳)は、赤信号を無視して突っ込んできた暴走トラックから小さな女の子を突き飛ばし、代わりに撥ねられた。
「……あれ、僕、死んだのかな」
端正な顔立ちを少し悲しげに曇らせ、ハルトは辺りを見回した。そこは一面の白い世界。目の前には、白髪の老人──この世界の神様が、申し訳なさそうに手を合わせて立っていた。
「小鳥遊春人よ。お主の命がここで尽きるとは、完全にこちらの計算違いじゃった。お主のような心優しい美形青年を死なせてしまい、本当にすまない。お詫びと言ってはなんじゃが、剣と魔法の異世界へ転生させてやろう。さらに、強力なチートスキルを一つ授ける。望みはあるか?」
ハルトは少し考えた。彼は生前、田舎の祖父母が送ってくれる秋の味覚『アケビ』が大好きだった。
「神様、僕、アケビが大好きなんです。異世界でもアケビを食べたい。できれば、アケビを食べることで強くなれるような……そんなスキルが良いです」
神様は目を丸くした。
「アケビ……あの紫色の山野の果実か? ニッチな要望じゃが、面白い。お主の望み通り、固有スキル【木通開果(アケビ・エボリューション)】を授けよう。アケビを食せば食すほど、お主の身体能力、魔力、耐性は無限に倍加する。さらに、アケビの部位ごとに異なる特権能力(チート)が解放されるぞ。では、いってらっしゃい!」
眩い光と共に、ハルトの意識は吸い込まれていった。

目を覚ますと、ハルトは深い森の中に倒れていた。
衣服は異世界風の麻の服に変わっているが、生前と変わらぬサラサラの黒髪と、誰もが見惚れるほどの美形な顔立ちは健在だった。
「ここが異世界か。……ん?」
ハルトがふと見上げると、なんと頭上のつるに、これでもかと大量の紫色の実が実っていた。地球のアケビよりも一回り大きく、妖しくも美しい光を放っている。
「これが異世界のあけび……! さっそくスキルを試してみよう」
ハルトはつるから実をもぎ、パカッと割れた紫色の皮から、とろりとした白い果肉を口に運んだ。
「──っ! 美味しい! 地球のアケビより何倍も甘くて濃厚だ!」
【ピコーン! 固有スキル『木通開果』が発動しました。アケビ(果肉)を摂取。魔力・身体能力が50倍に上昇。特権能力『種弾マシンガン(シード・ガトリング)』を習得しました】
頭の中に無機質なアナウンスが響く。ハルトが驚いて果肉を噛まずに飲み込み、口に残った大量の黒い種をペッと吐き出すと、その種は音速を超える弾丸と化して前方の巨岩を粉々に打ち砕いた。
「すごい……! じゃあ、皮はどうだろう?」
ハルトは近くに落ちていた枯れ木で即席の焚き火を起こし、アケビの紫色の果皮をちぎって即席で素焼きにした。パクリと口に含む。独特のほろ苦さと旨味が広がる。
【ピコーン! アケビ(果皮)を摂取。物理・魔法耐性が100倍に上昇。特権能力『紫気天蓋(パープル・シールド)』を習得しました。これによりあらゆる即死・精神攻撃を無効化します】
「これ、食べ続ければどこまでも強くなれるんじゃ……」
ハルトは確信した。彼はそれから数日間、森に群生するアケビ(五葉アケビ、ミツバアケビ、ゴヨウアケビなどあらゆる品種)を貪り食った。
朝食に果肉、昼食に皮の味噌炒め(風)、夕食につるの新芽(お浸し風)。
数百、数千のアケビを平らげたハルトのステータスは、すでに世界の理を遥かに超越した「未知の領域」へと達していた。

数ヶ月後。世界は突如として現れた「大魔王バーン」と、彼が率いる「六大軍団」の恐怖に陥れられていた。
人間の国々は次々と滅ぼされ、最後の砦となった王都の結界も、今まさに破られようとしていた。
王都の広場。天を衝くような巨体や、禍々しいオーラを放つ六大軍団長たちが、怯える人間たちを見下ろしていた。
「ハハハ! 人間どもめ、ここまでだ!」
獣王クロコダインが真空の斧を振り上げる。
「我が氷炎魔団の力で、すべてを凍らせ、焼き尽くしてくれよう」
氷炎将軍フレイザードが不敵に笑う。
不死騎団長ヒュンケル、魔影軍団長ミストバーン、妖魔学士ザボエラ、竜騎将バラン。最強の布陣が揃っていた。
そしてその後方、浮遊する玉座に鎮座するのは、圧倒的な絶望のオーラを纏った大魔王バーンその人であった。
「フッ……知恵なき羽虫どもめ。余の前にひれ伏すがい」
絶体絶命のその時。
「そこまでだ、魔王軍」
凛とした、しかしどこか優しく涼やかな声が響き渡った。
人間たちと魔王軍の視線が一斉に一人の青年に集まる。そこに立っていたのは、カゴいっぱいに紫色の果実を抱えた、超絶美形の青年──ハルトだった。
「なんだ、あの小綺麗な男は? 命が惜しくないのか!」
クロコダインが怒鳴る。
ハルトはため息をつき、カゴからアケビを取り出してパカッと割った。そして、上品に白い果肉を口に含む。
「な、何を食べているのだあいつは!?」
フレイザードが困惑する。
ハルトはバナナに似た優しい甘みを堪能すると、美しく微笑み、口に残った種を、六大軍団長に向けて「ペッ」と吐き出した。
『特権能力:神魔絶滅種弾(アポカリプス・シード)』
瞬間、ハルトの口から放たれた数粒の黒い種が、光の速度を超えて炸裂した。
ドガァァァァァン!!!
「ぎゃあああああ!?」
「ば、馬鹿な……ただの種がぁぁ!」
一瞬だった。クロコダイン、フレイザード、ヒュンケル、ミストバーン、ザボエラ、そして最強のバランに至るまで、六大軍団長は防御する間もなく、種の一撃によって跡形もなく消滅した。王都を埋め尽くしていた魔王軍の兵士たちも、余波の衝撃波だけで消し飛んだ。
「な……何だと……!?」
さしもの大魔王バーンも、玉座から立ち上がり、目を見開いて戦慄した。一瞬で自慢の軍団が全滅したのだ。
「おのれ、何者だお前はァァァ! 死ねい!」
バーンは激昂し、全魔力を込めた最大最強の呪文『カイザーフェニックス』を放った。天を覆うほどの巨大な炎の鳥が、ハルトを呑み込もうと襲いかかる。
しかし、ハルトは動じない。懐から、アク抜きしておいた「アケビの皮」を取り出し、おつまみのように口に放り込んでモグモグと噛み砕いた。
『特権能力:大自然の抱擁(アケビ・絶対防壁)』
ハルトの身体から、美しい紫色のオーラが立ち昇る。
直撃したカイザーフェニックスは、ハルトの肌に触れた瞬間に、まるで春のそよ風に吹かれたかのように、パッと掻き消えてしまった。
「余のカイザーフェニックスが……効かない……!? バカな、あり得ん! あり得んぞ!」
絶望に顔を歪ませるバーン。
「これで終わりです、大魔王。アケビの美味しさを知らないあなたに、僕の最大の技を見せます」
ハルトは最後に、懐から摘みたての「アケビの新芽」を一本、優雅に口に含んで飲み込んだ。ハルトの全身から、宇宙の創生すら書き換えるほどの、神々しい緑と紫の光が溢れ出す。
『究極特権:森羅万象・木通覇王拳(グランド・アケビ・バスター)』
ハルトが軽く右拳を突き出すと、アケビのつるを模した巨大な光の奔流が、大魔王バーンを包み込んだ。
「ぎえええええええ! ア、アケビィィィィィマシマシィィィィッ!!!」
断末魔の叫びと共に、大魔王バーンは宇宙の塵となり、完全に消滅した。
六大軍団長と大魔王、合わせてわずか数十秒の瞬殺劇であった。

静まり返る王都。
やがて、救われた人間たちから、割れんばかりの歓声と、ハルトを称える声が巻き起こった。
「救世主様だ!」「なんて美しくて強いお方なんだ!」
王国の姫君たちが頬を赤らめてハルトに駆け寄ってくるが、好青年であるハルトは、爽やかに微笑んで首を振った。
「皆さん、無事でよかったです。僕はただ、アケビを美味しく食べていただけですから。……さて、次はどの山にアケビを採りに行こうかな」
異世界に平穏をもたらしたアケビチートの美形青年は、次なる極上のアケビを求め、爽やかな秋風と共に、また新たな旅へと歩みを進めるのだった。
(異世界アケビ転生・完)
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最終更新:2026年06月12日 13:37
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