至る道、それだけの話

………はじめてではないとは言え、やっぱり慣れないものだ。慣れたくもないけど。
ジョンは動けないリオルの服を脱がしながらそう思う。
動けないほど消耗したリオルを放っておいたら今度は本当に義体と魂の“線”を紡ぐ最低限の魔力まで枯渇してしまう。
と、いうわけでまず色宿でコトを済ませてリオルを復活させてからまた合流することにしたのだった。

「ごっめんねー、ジョン」
「構いません……と、言いたいところですが。今回ばかりはそうもいきません。
 今日キミは殺されてもおかしくなかったんですよ?力量に勝る相手を正面から倒そうなんて兵法に反します」
「あれ、戦ったこと自体は怒らないんだ」
「闘争心によって義体と魂の同調率が上がったようです。こんなケースは文献でも見たことが無い。
 ヒガシ・ヒロトも噂と違ってただの戦闘狂ではないようでしたし、結果オーライというヤツですよ。それに……

 ………魔王にも、会えた」

最後に低く呟いたジョンの声は聞こえなかったらしい。リオルはウンウンと頷いた。

「結果オーライ。いい言葉だよねー。魔王様がちみっこくなって勇者のヤローと一緒にいたのは謎だけど」
「その辺りは後で話を聞けばいいでしょう。向こうもこっちに話があるようですし」

さらりとリオルの髪を梳く。翼が生えて角が伸びても、この感触は変わらない。

「とにかく、もう無茶はしないで下さいよ」
「ん。気ィつける」

キス。またキス。
舌を絡めあうと、かり、と固い感覚がした。
牙。龍化の影響か。

―――でも、この味は変わりませんね。

ぺろ、と唇を舐め、もう一度キス。

「むー。なんかさー、最近ジョンが主導権握ってる気がすンですけど。始めのころは私がリードしてたのに」
「………それは、キミが毎回動けなくなるまでエネルギーを使い果たすからでしょう」
「あはは。それに今回はホントに全然動けないからなー。ね、ちょっと死姦っぽくない?」
「頼むからそういうことをニコニコしながら言わないでください」
「えへへ、ごめーん。…………ン……」

口内に舌を這わせながら、リオルの秘唇を愛撫する。
少々味気ないが、それはリオルが動けない時点で心が沸きあがるような行為は望めない。
人も待たせていることだし、申し訳ないけどもここは手早く済ませてしまわないと。

「あ、くぅ……ひ、あぁう……」
「幸い、リオルの弱点は身体が覚えているから準備に時間はかかりませんが………」

掌。指先。指の腹。爪。舌。
撫で、転がし、擦り、引っ掛け、舐める。
その度にリオルが動かない身体をぴくぴくと震わせる。
嬌声も色を帯び、愛液が溢れていく。
ちゅくちゅくと淫音が響き、甘い雌の匂いとともにお互いの興奮が高まっていく。
しかし………。

「………………………」

どこか苦いものを感じながら、ジョンはその外見に似合わない怒張でリオルの身体を貫いていた。
リオルは一際高い声をあげ、きゅうっと膣内を締め上げる。
尻尾が邪魔になってしまうのでお尻を高く上げ、後背位の姿勢を取らせた。
といってもリオルの身体は弛緩しきっているので、本当に人形を扱うかのように動かさなくてはならなかったが。

「あ、あぁっ、くンっ!ひあ、あっ!ああ!ジョン、わた、私……ィッ!!」
「リオル……リオルッ!!」

高まった凝りが、高純度の魔力が溶け込んだ生命の源が少女の中心に放たれた。
白濁と魔力は擬似子宮へ注ぎ込まれ、魔力回路を伝って賢者の石を起動させる。
満たす。満たす。満たされていく感覚に心が震えた。

でも。

「私……こーゆーの嫌いだな」
「………誰の所為だと思ってるんですか。ボクだって嫌ですよ。こんなの」
「まあ、これで復活しました!早速勇者のバカをやっつけ―――」

ギロ。

「―――るのは、後にしておいてやりますか、な……アハハ」


合流場所。
宿屋の一室。


「まずは自己紹介から。ボクはジョン。ジョン・ディ・フルカネリといいます。
 匠と魔石の国ラルティーグに“選定”された勇者です」

一瞬、静寂が一同を包み込んだ。

「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇえ!!!!勇者ァアァアアアア!!!!!?」

絶叫したのはリオルだった。
両手片足をあげ、わかりやすいくらい驚愕のポーズで硬直する。
少女はぴく、と片眉を動かし、しかし黙ったまま。ヒロトは少し目を丸くした後、

「ちょちょちょちょっと待ってよ!聞いてないよ!?
 ジョンってお医者さんだったんじゃないの?錬金術師じゃなかったの?
 っていうか勇者ってコイツでしょ!?どゆこと!?」

リオルに遮られた上にぐりぐりと指先を突きつけられた。
ジョンは慌ててリオルの手を取って、

「勇者を選定する権利を聖堂教会から与えられた国は七つ!つまり世界には最大で七人の勇者が存在することになるんです!
 ラルティーグはそのひとつ。ボクは医者であり、錬金術師であり、そして勇者なんですよ」
「ふえぇ……」

目を瞬かせているリオルを横目で確認してから、ヒロトはジョンに手を差し伸べた。

「俺はヒガシ・ヒロト。一応、翼と稲妻の国ヴェラシーラに“選定”されて勇者をやっている」
「光栄です。貴方の武勇伝は有名ですから。
 貴方ほど多くの人間の助けになった勇者は『はじまりの勇者』を除いて他にいないでしょう」
「………別に。他にやることがなかっただけさ」

握手を交わす二人をジト目で睨み、リオルは心底面白く無さそうに口をトンがらせた。

「つまり私らはヒマ潰しに殺されたってわけですか。ひでぇ話」
「リオル!」
「覚えてるかどーか知りませんけど。私はリオレイア・イグニスドラン・スレイヤー。アンタに首トバされた火龍だよ。
 ジョンに拾われてこーして生きてるけど、私アンタなんか嫌いなんだからね」
「リオル!!」

ジョンが強い声でリオルをたしなめるが、リオルは収まらない。
羽交い絞めにされて、それでもキイキイと暴れ続ける。

「だっておかしいじゃん!それが勇者の仕事だってんなら、ジョンなんて全然勇者っぽいことしてないよ!?」
「ボクらに与えられる使命は何も各地の魔獣を倒すことだけに留まらない!
 ヒロトさんのように魔獣退治の専門家もいれば、ボクのように世界の叡智を極めんとするために旅をする勇者もいるんです!」

「――――――そしてその『叡智』とやらの究極が、賢者の石というわけか?」

それまでずっとソファにふんぞり返っていた少女が静かに口を挟んだ。
年端もいかない幼い外見ながら、その態度は世界中のどんな王より尊大である。
それもそうだろう。
この少女こそ魔と闇を司る魔族の王、魔王なのだから。
……その姿に、説得力はないが。

「……ええ、その通り。賢者の石を完成させることこそがボクの、いやラルティーグ歴代勇者全ての使命というわけです」
「それが、今私の胸に入ってるってわけ?」
「いえ、リオルには以前にも言いましたが、それは不完全なもの。
 定期的にチャージを行わないと魔力切れをおこしてしまいます。ですから」
「は!!」

魔王は鼻で笑い飛ばすとガン!とテーブルの上に足を叩きつけた。
背丈が足りないのでずるずるとソファに沈んでいく魔王だが、その低い姿勢のままじろりとジョンを睨みつける。

「魔力切れだと?笑わせるな。賢者の石とはあらゆる奇跡を実行する究極の魔石のことだ。その正体は『無限の魔力』よ。
 宇宙の法則を、世の理を、魔力によって捻じ伏せることができてこそ賢者の石といえよう。
 ただ魔力を蓄積するだけなら市販の冷蔵庫にもできるわ」

「………ですから、不完全なのです。そもそもその技術も賢者の石の試作品から端を発したもの。
 ですが、研究ははっきり言って行き詰っている。
 研究を進めれば進めるほど、『無限の魔力』なんてものは存在しないとわかってしまう。
 それでも、ボクらは諦められなかった。
 一縷の可能性があるのなら、それは魔王城にあるといわれている魔術の総てが集うという書庫。
 そこに、何かのヒントが記された魔道書があるかもしれない―――」

ジョン・ディは、魔王をまっすぐに見つめている。
そう。だから彼は旅を続けてきたのだ。
正確に言うなら、だから彼は勇者に選定されたのである。
ラルティーグの国に住まう全ての『知』の民の望みを背負い、ジョンは今ここにいるだった。

「貴方の書庫を使わせて頂きたい。これが、ボクの望みです」

魔王と勇者、双方の視線が交差する。
ひとつは顎をあげ、見下ろすように見上げる視線。
ひとつは顎を引き、見上げるように見下ろす視線。

「……我こそは魔王リュリルライア・トエルゥル・ネオジャンル。
ジョン・ディとやら。その話、この魔王に利はあるのか」

その響きには、一切の温度というものが皆無であった。
さながら地の底から響く鈴の音―――矛盾しているようで、これより他に喩えようがないほどしっくりと当てはまる声色は、
現世に於いてこの少女にしか出せないものであるに違いない。
幼くも美しい姿は他者の何物も圧迫しない。
しかし、こうして前にするだけで、まるで底無しの井戸を覗き込んでいるかのような感覚に襲われる……!

これが、魔王。

なりは小さくか弱そうでも、その実力は本物だということか……。
ジョン・ディは冷や汗が背中を伝う感覚と共に、確信した。
こと魔道に関して、この少女の城に無いものは無い。
戦慄と、歓喜。両方が入り混じり、自然と顔に出る。
ジョンは唇の端を歪めると、スッと胸に手を当て、魔王リュリルライアの前に跪いた。


「書庫を開放して頂いた暁には、この勇者ジョン・ディ・フルカネリを捧げます」


そのために、ここまで来た。
そのために、これまでがあった。
たまたま研究材料を採掘しに入った火山で瀕死の龍を見つけたとき、魔王に己の実力を示す絶好の道具になると、
持てる全ての知識と技術、そして二つとない『石』を使った。


『彼女』を甦らせたのはこの時のために。


言え。
瀕死の火龍をも甦らせる力を自分は持っている。必ず魔王の役に立つ、と。
言え。
言え。
言うんだ、ジョン・ディ・フルカネリ――――――!!

「……ラルティーグは世界で最も科学魔法の進んだ国。その勇者である自分は、きっと貴方の助けとなりましょう」

「それは、我が軍門に下るということか。勇者である貴様が?」
「………はい」

……………言えるものか。
リオルを甦らせたのは利用するため。そんなことは、もうとっくの昔に『嘘』になっているのに。

「………………………」

魔王は、黙っていた。
世界から音が無くなったようだった。
魔王と勇者の対談。それは、常に世界の命運を懸けたものとなるものだ。
勇者とは―――現在の政治的な形はどうあれ、人間にとっての希望の象徴であることに変わりは無い。
それが魔王に仕えることの意味は、重すぎるほどに重いのだ。

(―――それを、この男が知らないはずがないだろう。それほどの覚悟を持っているということ、か)

リュリルライアはしばらく表情を変えずにいたが、やがてフッと笑顔を作るとひょいと身を起こした。
そうして突然態度をガラリと変え、こきこきと肩を鳴らしながら言う。

「だがな。賢者の石にはともかく、正直我は貴様なんぞに欠片の興味もないのだ。それに」

ニヤニヤと笑みを深めて、眉間に皴を寄せていたヒロトを見やる。

「今の我はヒロトのモノだからな。その辺りの自由が我にあるとは思えぬ」
「え?お、俺か?」

急に緊張を解かれて体勢を崩したのか、ヒロトが目を白黒させた。
それが楽しいのか、リュリルライアは目を細めてずいっとヒロトに顔を近づける。

「そうだとも。勝者は敗者の全てを奪うのは当然であろ?我は先の決闘においてお前に敗れているのだからな」
「えええぇえええええぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇえ!!!!?」

先程まで明らかに『難しい話が始まると思考回路がオフになります』モードで、
ハニワになっていたリオルが再び驚愕の絶叫をあげる。

「ままままま魔王様が!コイツに!!負けたぁぁぁあああああああッッッ!!!?」
「五月蝿いぞリオレイア」
「だって!だって!コイツは確かにムカつく程強くて超ムカつくけど、けど、魔王様を倒すなんてそんな」

リオルは口をぱくぱくさせて、もうそれ以上言葉にならない。
それもそのはずだ。特にリオル―――リオレイアのように魔王に直接仕えていた魔族なら、
想像もできない夢にも思わない、汚職を全くしたことがない政治家の存在の方がまだ信じられる話に違いない。

世界各地に棲み、ヒトを凌駕する力と凶暴性を持つ魔獣たち。
その魔獣を土地ごとに支配し、彼らを遥かに上回る力を誇る主(ヌシ)たち。
そしてその主たちを従え、全魔族の頂点に立つのが魔王である。

世界最強の『海』の魔力の持ち主は、たとえ相手が神であろうとも薙ぎ払い、押し流す―――それを、倒した?

「本当、ですか………?」

流石のジョンにも冷や汗が浮かぶ。
かの『はじまりの勇者』でさえ、神の加護無くしてそんなことはできなかったはずだ。
それを、国に認められただけの張子の勇者が成し遂げたというのか……!?

「い、いやしかし、魔王様はまだ生きているようですが」
「ん?ああ、我がこうして命をながらえているのはひとえにこやつの情けによるものだ。ふふ、甘い男よ」
「ウッソォ………」

ヒロトは注目されて、困ったように頭を掻いた。
あんなに目立つ伝説を現在進行形で打ち立て続けているのに、どうにも見つめられるのが苦手らしい。

「嘘なものか。我にモノを頼みたいのならヒロトに言うが良い。我はヒロトの言うことには逆らえんからな。
 うん、もうアレだ。奴隷のようなものだ。なんでも言うことを聞くぞ。なんせ我はヒロトのモノだからな!」

何故か胸を張り、嬉しそうに繰り返すリュリルライア。

なるほど、とジョンは心の中でポンと手を叩いた。
この魔王、勇者ヒロトに恋をしているらしい。惚れた方が負けということか……。
いきさつは知らないが、それが神の加護にも勝る奇跡だということは確かである。
勇者は奇跡の使いだという。それなら、このヒロトこそが―――。

「……いや、お前が魔王ってことには変わりないだろ。自分の家なんだから自分で決めろよ」
「なぬ!?」

―――気付いてはいないようだが。

「……随分と鈍い人なんだなぁ……っていやいやいや!ボクの話は終わってないですよ!
 魔王様、お願いですから―――」
「ん?ああ、勝手にしろ。我は別に構わん」
「そんなあっさり!?」

仰け反るジョンを面倒くさそうに眺めて、リュリルライアはひらひらと手を振った。

「書庫だろうが宝物庫だろうが好きにすればよかろう。どーせ我は好きなときに召喚できるし、別段必要なものでもないしな。
 ただし―――アレの中には手にするだけで『古池』クラスの魔力が奪われるモノもごろごろしている。相応の覚悟はしておけ」

口調はテキトーだが、その眼は先程の『魔王』のものだ。
『古池』―――並の魔道士なら触れるだけで精一杯、ということか。
開けば呪われる物もある。
得体の知れない何かが封印してある物もある。
それにそもそも、解読できない物もあるだろう。
魔道書とは本来そういうもの。それも魔王の城に眠る神代の代物である。ラルティーグの王立図書館とは違うのだ。

それでも。
やっと―――それに、辿りついた。
自然と顔が崩れる。賢者の石……これで、先の見えない暗闇に火が灯るのだ。
これで、確かに一歩を踏み出せる。
その道は正道ではないかも知れない。
それでも、これで百年の停滞に終止符が打たれる。それは、千年の進歩に繋がるだろう。
自分が至らなくても、次がある。またその次が、さらにその次が。そしていつか、きっと。
そうしてラルティーグの勇者たちは在り続けてきたのだから。


「やったぁぁぁあああああああ!!!!」

別の宿に泊まっているというヒロトとリュリルライアが部屋を出て行ったあと、ジョンは彼らしくもなく大声で天に叫んだ。
悲願は達成されたわけじゃない。むしろこれからだ。
これからは今まで以上に忙しい日々となるだろう―――おっと、それ以前に魔王城に辿り着かなくては。
魔王城は絶海の孤島に在り、さらに強固な結界に護られているという。
しかしその攻略方法をあれこれ考えるのもまた心が躍った。

「……なんかよくわかんないけど。ジョン、よかったね!」

それが―――無邪気に笑うリオルを見て、スッと冷める。
そうだ。ボクは、この娘を。
ずっと、裏切っていたのだ。
でも、リオル。ボクは。

「―――リオル。ひとつ、キミに謝らないと」
「ん?何を?」

ジョンは言わなければならないことを言った。
魔王に実力を示す道具として、リオレイアを甦らせたことを。
魔力の供給源を自分に限定したのは、その命を管理するためだったことを。
リオルの義体に龍の能力が宿ったとき、少しだけ、研究対象としてリオルを見てしまったことを。

それは、裏表なく自分に懐いてくれるリオルに対しての裏切りだ。
自分はリオルをずっと騙して、利用してきたのだから。

「すいませんでした、リオル……」

リオルはじっと見つめていた。
それが、ジョンの胸に切り傷を作る。
でもそれを痛いと思う資格は……自分には、ない。

「……それってさぁ。もう、私はジョンとはいられないってこと?」
「え?」

リオルは眉根に皴を作ってウムム、と腕を組んだ。

「ようするに、魔王様の許可もらったから私はもういらないって話でしょ?ジョンは私を魔王城に連れてってくれない、と」
「ち、違う!そうじゃない、リオル。ボクは確かにキミを利用してきた。
 でも、今はもう魔王なんて関係ない!キミさえよければ、また一緒に―――」

―――旅をしてくれないか。
それは、どれ程身勝手な言葉だろう?
嘘をついて、辱めて、貶めて、それでもなお、そんなことを口にできるのか………?

「―――ジョンは行きずりで死にかけてる私を助けてくれた。
 お金払わないでお店の果物齧ってたら怒って説教して、ちゃんと一緒に謝りに行ってくれた。
 バカやってる私に笑いかけてくれたし、にんじん半分食べてもくれた。
 それから、一人じゃない夜をくれた。


        ジョンは私に『世界』をくれた。


 ………それだけの話だよ。
 私、あんまり難しい話はわかんないワケ。でも、それだけ解ってたら充分じゃない?」

それでもいいと、リオルは笑った。

「難しく考えすぎなんだって。ホント、理論バカなんだから」

―――たまらなくなって、抱きしめる。
リオルも、そっとジョンの背中に手を回した。

「リオル。身体、動きますよね?」
「あたぼう。今夜は寝かさないぜ?」
「……それはこっちの台詞ですよ」

―――そうして今夜も、恋人たちの唇が重なり合う―――


「で。なぁんで魔王様たちまで付いて来るんですかァ?」

翌日。
早速魔王城を目指そうと旅支度を整え街を出たジョンとリオルの隣に、昨日の二人組が同じように旅仕様で並んでいた。

長身の剣士と幼い少女。こうして見ると極めてヘンテコなコンビである。
まぁ、その正体は勇者と魔王の二人組だというのだから空前絶後にヘンテコなのであるが。

「俺たちもいったん魔王城に戻ろうかと考えているんだ。丁度いいだろう」
「げ、勇者。あっち行け。シッシ」
「………リ~オ~ル。願ってもないことじゃないですか。彼らほど頼もしい旅の仲間は他にいませんよ。
 それにね、ボクも勇者なんですけど、一応」

ニコニコしながらリオルのこめかみをぐりぐりするジョン。
あうぅぅ~、と悶えていたリオルだったが、やがてハッと目を見開くとジョンの拳を振り払い、
バックステップで距離を取ると四つん這いになり、ヒロトに向かって牙を剥く。

「そういえば昨日私の話がウヤムヤになってたじゃん!ここで会ったが―――」
「リオルってば。出発前に無駄な魔力使わないでください」
「無駄って言うなぁ!!」
「リオレイア、かまわん。この甲斐性なしに灸をすえてやれ」
「リュー、何怒ってるんだよ?」
「怒ってなどおらぬ。ふん、少しは通じたかと思えば完全にスルーとはやってくれる。
 いつものこととは言え腹立たしい。この、この」
「痛、痛い痛い。足踏むなバカ」
「食らえ必殺、火龍烈火吼(デラ・バーン)!!!!」
「リオル!?ボクもいる―――わあぁぁぁああああああ!!!!!!?」


錬金術師と元・火龍。
二人の旅に、新たに勇者と魔王という仲間が加わった。

珍妙さをさらに向上させた一行は一路魔王城を目指す。
さてはて、これからどんな試練が彼らを待ち受けているのか―――。


「あちち。街の外でよかった」
「……直撃を受けての感想がそれか。相変わらずアホほど頑丈だな貴様」
「ジョン~。魔力残量ゼロであります。動けません」
「知りませんっ!!」


………先が思いやられそうである。


            至る道、それだけの話~新ジャンル「考えすぎ」英雄外伝~ 完

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最終更新:2007年08月08日 23:30
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