「………………」
とりあえず、寝覚めは最悪だった。
まず襲ってきたのは、おっそろしいほどの罪悪感。
よく昨日のことを思い出してみよう。
ヒーを部屋に連れ込んだところからだ。
懐中電灯をとってきた。ヒーは親御さんに電話し終わってた。米粒の件で謝罪が始まった。
…OK、ここまではいい。だが、その後は何だっ。俺はどこの変態強姦魔ですかコノヤロー。
ヒーの合意もくそもなく、押し倒して、キスして、( ゚∀゚)o彡゚おっぱいおっぱいその他色々っ!
縄とフックがあったら速攻首吊りでもしたい勢いだ畜生!
「…あー」
誰も居ないベッド、いつも通りの寝起きの部屋の風景を見て、夢だったらなぁ、とも思うのだが。
〝ふーりーむーくーなー♪なみだをーみーせーるーなー、あいごっざーぱぁーおっらーぶ!♪
あすをとーりーもーどーすぅぅぅぅんだああああーーーーーーっ!!♪〟
…階下から響いてくる最高にご機嫌な歌声が、
昨日のアレが現実だったのだということを如実に物語っている。
それより何より、
トントントントンッ
「(ガチャッ)おーい男おおおーーーっ!!朝飯ができたぞおおおおっ!!」
…困ったことに。俺のこいつへの好意が消えてないんだなぁ、これが。
「ん。悪い、すぐに支度する」
「風呂は沸いている、早めに済ませるんだぞっ!
今日は弁当も作ったからなっ!!昼も期待してくれていいぞっ!!」
「わかった。楽しみにしてる」
…ああ、もう、まいったな。幸せだ馬鹿野郎。
・
・
・
「和食でよかったか?すまん、最初に聞けばよかったぞっ」
「いいよ、俺はどっちも食うし。美味いし。文句はない」
もくもくと箸を焼き魚や卵焼きに走らせる俺の言葉を受け、
ヒーはてれてれと顔をニヤつかせる。まぁ、それはともかく。
「昨日は…その、悪かったな」
コップの牛乳を啜りながら、本題を切り出す。
「んっ?何がだ?」
「昨日の…色々したけど、特に最後…おまえ、イッてなかったろ。ごめんな、痛かっただろう?」
「???…初めては痛いものだろ?なんで謝るんだ、男」
きょとん、と首を傾げ、白飯をもぐもぐとかみ締めるヒー。
…なんだか、会話がかみ合ってない気がする。
「だって、俺…自分勝手に、一人だけイッて」
つい、視線を逸らしてしまい、ごにょごにょと弁解する。
それを受け、ヒーはああと頷いて、口の中のものを飲み込んで、笑い出した。
「はははっ!そのことかっ!気にしなくていいぞ男!」
「は?」
「私を気遣う余裕もないほど、男が激しく私を求めてくれたということだろう?
こんなに嬉しいことがあるものかあああああっっっ!!」
―――――――うわぁ。そう来たか。
その発想はなかった、なんというポジティブシンキング。
「…んむ!もうこんな時間かっ。男っすまんがあと一分で口に入るかっ!?」
「おう、任せろ(カッカッカッ、コトン)ごちそうさんっ!」
「うむ、流石だ!私は洗いをやるから、男は鞄を取ってきてくれ!」
「了解っ」
凄まじい速度で意思疎通と行動を展開し、
とても昨日までと同じ組み合わせとは思えないコンビネーションを繰り広げる。
…いや、マジで驚いた。俺が素直になるだけで、こんなに変わるもんなんだなぁ。
トントントンッ
「ヒー、そっちはどうだ?」
「今終わったところだ!それでは行くぞっ!」
それぞれの仕事を片付け、玄関で落ち合う。
放り投げた鞄を即座にキャッチに、靴に足を滑り込ませる。
右手には二人分の弁当袋が下げられ、ヒーはすぐにでもドアノブを捻ろうとする。
「あ、そうだ」
直前、俺は一つの憂いを思い出した。
「む!?どうしたっ、忘れ物か男っ!」
「いや、そうじゃないんだが」
とりあえず、ヒーに荷物を置くように指示する。
彼女はそわそわしながらも、一先ず俺の指示を聞いてくれる。
「学校での、俺とお前の関係なんだが」
「ああ!」
「暫くは、今までどおりにしないか?」
「ああ!…なんだってぇぇぇぇぇっ!!!?」
AA略。じゃねぇ、落ち着けっ!
「なぜだああああっ!?
せっかく24時間男とイチャイチャできると思ったのにいいいいっ!!」
頭を抱えて絶叫するヒー。荷物置かせて正解だったな、弁当が台無しになるとこだ。
「まぁ聞け。こういうのはな、あんまり外で見せびらかすもんじゃないんだ。
あぁいや、節度を弁えればいいんだが、お前、そんな器用じゃないだろ?」
「うううう…っ!」
「だからいつも通り。な?」
「う゛う゛う゛う゛う゛~~~~でも、男おおおお~~~」
葛藤しながら懇願するが、俺だって空気読めない奴の仲間入りはしたくない。
…ったく。わがままばっかりいうんじゃありません。
「あのな、ヒー。我慢するのがおまえだけだと思うなよ」
「え?―――ん」
ヒーの肩を掴んで抱き寄せ、優しく唇を重ねる。
昨日のとは違う、温かく、互いを慈しむような、柔らかなキス。
「あうあうあうあう…男おおおおおっ!!」
つぷっ。ゆっくりと体を離す。
ボヒーッ、と頭から蒸気を吹きながら腕の中でじたばたと暴れるヒーに諭す。
「帰ったら、その…今度は、二人一緒に気持ちよくなろう。
二度目だから、俺も、ちゃんとしてあげられると思うから」
負けじと、俺も顔から湯気が出そうなほど赤面しながら、本音をぶつけた。
余りの恥ずかしさに、言い切った後、柄にもなくそっぽを向いてしまう。
「―――――――――」
―――それで。ヒーのリミッターがぶっ壊れたらしい
バンッッッ
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYッッッッッ!!!!!」
ドドドドドドドドドッ…
「…行っちまった」
荷物は、後で届けてやろう。…それにしても、なんて速さだ。
その内、人間やめるんじゃないかあいつ。
「………」
二人分の鞄と弁当袋を下げて、玄関を出る。
空は、昨日の大雨が嘘のように晴れ上がっている。
…しかし、神さんよ。
あそこまでお約束だったって言うのに、最後の最後で裏切りやがったな。
まぁ、いいさ。俺が初めての快感に夢中になって、終わるまで痛いの一言さえ発しなかったヒー。
あいつの、あの痛みに歪んだ顔を笑顔に変えてやるのは、こっから先、俺の仕事だ。
あんたはそこで、胡座でもかいてみていてくれよ。
すぅ。一つ深呼吸をして、空を仰ぐ。そして、
「ヒィトオオオオオオッ!!大好きだぞおおおおおっ!!!」
…ん。ま、たまに叫んでみるのも悪くない。
あいつの前でやるのは、死んでも御免だが。
ヒーはやっぱり、静かに抱きしめてやるのが、一番可愛いと思うのだ。
さぁて。俺もぼちぼち、走らないと遅刻するな。一気に行きますかっ!
ダダダダダッ…
俺は大荷物を抱え、食後の運動も兼ねて学校への全力疾走を敢行するのであった。
放課後の、今後暫く続くであろうヒーとの擬似夫婦生活に、思いを馳せながら…。
―――尚、その日の昼休み、教室に押しかけてきたヒーが開けた二人分の弁当箱の中身が
赤飯だったことが原因で、ちょっとした戦争が起きたのだが、それはまた別の話である。
~FIN~
最終更新:2007年07月26日 18:23