息があがる
身体がぐっしょりと濡れている、もう何時間こうしているだろうか?
もうただ機械的に身体を動かしているだけの樣な気がする。
この身体を濡らすのは汗か?それとも…
白い裸体が闇に浮かぶ
伏してもなお丸みを失わない豊かな乳房がたゆたゆと揺れる。
それを掴み捏ね上げる。
「ああっ、あふっ、ああっ!」
白い咽を仰け反らして女体が啼く。
弾けんばかりに膨れ上がった自身の怒張がぎゅうとしめつけられる。
「ふ、ふ、ふ、」
負けじと激しく突き上げる。
じゅぷじゅぷと音が激しくなる
ああ、ああ、と白身が啼く
あなた、あなた、と啼く
腕が空を掴む
抱きしめてやるとしがみつく
ああ、ああ、あなた、ああ、ああ、あなた、あああ、ああ、
足が腰に巻き付かれる
ああ、ああ、あなた、もう、ああ、ああ、もう、もう、ああ!
背中に爪が食い込むのを感じながら彼女の中で精を放つ。
「ブォォオオオオオ!」
黒い影が飛びかかるのを振り向き様に切り捨てる。
ザバァと返り血を浴びる。
それとも
それとも身体を濡らすのはこいつらの体液か?
「オぉォおおオオオ!」
今度は前から来た奴を袈裟がけに斬り倒し、返す刀で横のやつを叩き斬る。
きりがない。
何時迄続くのだろうか?
何時から始まっていたのだろうか?
このまま終わるのか?
否、
帰ってみせる。
あの場所に、あの家に、己の場所に。
「またとうさまはきらきらちゃんになるの?」
「ん?…そうだな」
「そう…」
「とうさまがきらきらちゃんになるのはいやかい?」
「ううん…きらきらちゃんのとうさまはかっこいいもん…でも」
「でも?」
「はやくかえってきてね」
「ああ、勿論だよ」
「とうさまがいないときのかぁさまは、とてもさびしそうだから…」
「ああ」
思わず抱き締める
「…きっと早く帰るからね、『お嬢ちゃん』」
「閣下!待ち伏せです!崖の上に敵が!」」
「陣営を立てなおせ!各隊に伝達!飛燕の陣にて正面突破!」
莫迦な
何故奴らがここに居る?
掃討作戦だったはずだ。
何故我々が追い込まれる?
『帰ってきたらお前には勇者の名が与えられよう』
いや、
「帰ってこれたら」と主は言ったのか?。
帰ってこれないだろうと?
何故そうと?
正面に突き立て、蹴り倒して刀を抜く、いや、抜けない。
相手の戦斧をもぎ取り、横からきた奴を薙ぎ払う。
ザバァと血が振り注がれる。
「閣下ぁ!」と部下の声がする、もう一匹切り倒して声の方を見る。
また一人部下を失った。
「…行かないで下さい」
「そうは行くか、王の命令だ」
「でも…」
「おかしな事を言うな、いつもの事じゃないか」
「なにか胸騒ぎがして…最近のあの方は何か…」
「只の取越し苦労だ、王は我々によくして下さってるではないか」
「でもあの方は変わってしまいました…もう昔の一緒にいた頃のあの人じゃ無いわ」
「当たり前だろう、彼は王、俺は一軍を預かるとは言え只の将だ、家臣にすぎん」
「でもあの鎧は、前王はあなたに託されたのです。あの方ではなかった…あの方は
…今でもその事を…それにわたしも…あの方では無く…」
「莫迦な事を言うなっ」
もう何時間こうしているだろうか?
何時迄続くのだろうか?
何時から始まっていたのだろうか?
このまま終わるのか?
身体が重い
いや、鎧が重い
だが脱ぐ訳にはいかない。
託された思い、負うべき責、守るべき物、その象徴。
英雄の鎧、伝説の鎧
ザバァッザバァと返り血を浴びる。
この身体を濡らすのは汗か?
それとも
倒すべきは、討つべき敵は、国の敵。
ならば
帰る、必ず帰る、我が祖国に、あの場所に。
倒すべきは…
「はやくかえってきてね」
ああ、勿論だ、必ず帰る。
『お嬢ちゃん(Little Miss)』
この身体を濡らすのは奴等の血か
それとも
己の血か
討つべきは国の敵、亡国の輩。
その為には鬼にもなろう、心も悪魔にくれてやろう。
我こそは護国の鬼。
ザバァッザバァと返り血を浴びる
我こそは護国の鬼
救国の鎧、輝く鎧
その鎧の輝きも今は無く。
「ウオオォォォオオオォォォォォォオオオオオオオオオオオッ!!」
見よ、月夜に吠える粗の姿、それは
勇者か
魔物か
「先輩、何書いてるんですか?」
「え?ああ、ちょと習作みたいなもんよ。昔話、わたしのおばあちゃんから聞いた話」
「どんな話しなんですか?」
「バカな王様の所為で国が滅びる話」
「へぇ?なんか先輩らしくない題材ですね」
「そう?…まぁそうかな?」
「見せてもらってもいいですか?」
「だーめ、まだ全然、殴り書きみたいなもんだからさ、いつかその内にね」
「そうですかー、じゃ、いつかきっと見せてくださいね」
「うん、いつかね」
いつか…
いつか、その場所を尋ねてみよう。
今はもう何もないかもしれないけど。
おばあちゃんが生まれた場所、確かにあった場所。
そこを隊かめてみよう。
そして
いつか、ちゃんとしたジェストにするからね、おばあちゃん…
そして曾おじいちゃんの名誉を取り戻します、わたしがミンネゼンガーになって。
必ず…
今は無き国、「栄光と盾の国」の物語
いまはもういない英雄の物語
愛する者と心を失った男の物語
我こそは護国の鬼、討つべきは国の敵。
7フィートの巨漢、金色の輝きは今は無く、頭から胸、そして腕と戦斧が朱に染まる。
城下に入り込んだ奴等はほとんど斬り捨てた。
もう息は上がらない、上がる息はもう無いからだ。
ゆっくりと王座の間に続く階段を上がる。
ガツンガツンと手にした戦斧が階段を叩く。
城に居た者も切り捨てた、討つべきは国の敵。
ならば刃向かうものは皆亡国の輩。
朱に染まった胸の中にも紅蓮の炎、心が、魂が燃えている。
滾る思いに魂が燃える、復讐の、怒りの炎が心を燃やす。
どこかでなにかが崩れる音がする。
赤い、窓の外、街が炎に焼かれていく
城が落ちる、もうこの国も終わる。
守るべき国のない亡国の鬼
ならば、
なればこそ斬らねばならぬ者がいる。
「来たか」
王座の男がゆっくりと顔を上げる。
謁見の間、いるべき衛兵は誰もいない。
がらんとした広間にいるのは王座の男、対峙する鎧の男。
「ここに来たと言うことは皆切り捨てたと言う事か…誠に『救国の鎧』を託された者
に相応しいという事だな…正に救国の英雄か」
ハハッと笑う。
「救国?救国とはな、ハハハハハハッ」
王が笑う
落城する城、滅ぶ国、誰もいない王座の間。
末期に似つかわしく無い笑い声が空しく広間の屋根に木霊する。
笑う王、亡国の王、その胸中は伺い知れぬ。
その瞳に宿るは狂気の光りか。
ゆっくりと鎧の男が歩み始める。
「しかし、来るのが少々遅かった様だな」
顎で示すその先、広間の中央に横たわるのは妙齢の美女。
その廻りのカ−ッペトは赤く染まっている。
「余が手をかけたのでは無いぞ…自ら命を絶ちよった」
ズル、ズルと斧の背がカーペットを擦る、その歩みは停まらない。
「…嫁が死んでも心は動かぬか。人の心はもう鎧にすっかり喰われたか」
赤い兜、その奥の瞳は伺い知れぬ。
だがそれは真直ぐに亡国の王を見据えているはずだ。
我こそは護国の鬼、守るべき国無い亡国の鬼。
鬼ならば心はいらぬ
「つくづく因果な物を作ったものだな、救国の鎧、無情の鎧マキナ…
人の心を、魂を喰らう魔装機」
鎧の胸の飾り、獅子の瞳が傍と揺らぐ。
その奥にで魂が燃える
「それ故に今まで着ても動かした者は居なかったが…まさに国の為にその身を捧げたか」
ドスン、斧が床に落ちる、横たわる女の前で歩みが停まる。
ゆっくりとその身が屈んで行く、そっと跪くと優しくその身体抱き上げる。
兜がゆっくりと眠る顔の方に傾く。
赤い兜、その奥の瞳は伺い知れぬ。
だが、その時その瞳は愛しげであったかもしれぬ。
そのまま、抱き上げたまま鎧の動きは止まった。
鬼よ、胸の炎は費えたか。
王座の男の顔が陰る
「力つきたのか、哀れな…まだヒトの心の形を持っていたとは…」
そう言いながら動かぬ二人、彫像の様な二人の姿をみつめる。
落城する城、滅ぶ国、誰もいない王座の間。
亡国の王、その瞳は此所にきて悲し気であった。
がっくりとその身体から力が抜ける、俯いた顔から嘆息が漏れる。
「最期まで…最期まで余の思い通りにならぬか…何も余の手に入らぬのか」
只欲しかった物は
尽く去って行った、最期まで
王なぞならぬ
国なぞいらぬ
何度その言葉をくり返したか。
盾の国
山と谷間にある国
山の向こうにはオークの国。魔王の兵、手駒の住む地
悪鬼を見張り、盾となるために置かれた城。
山脈がヒトとオークを隔たてる
「その時」までは魔王も手駒をうごかすまい。
悪鬼には雌が居ない、殖えるためには雌がいる。
女を求めて山を越える、その時は迎え討つ。
大軍ではない、その程度では小競り合い。
魔王は兵を動かさぬ。
悪鬼どもも盾の国に攻め入らぬ、魔王の勅命有るまでは。
年に数度、国境あたりで繰り広げられる小競り合い
それだけの事が繰り返えされる土地、過ぎて行く年月
魔王は兵を動かさぬ。
救国の鎧、魔性のカラクリ、退魔の鎧、魔装機
魂喰らいの仕掛けも動くまい、悪鬼どもが来るまでは。
魔王は兵を動かさぬ。
悪鬼は国に攻め込まぬ。
魔機鎧の胸に炎は灯らない。
密約が破られるまでは。
『アノコハ…』
突然、その鎧が喋り始めた。
地の底から響く様な、ひび割れた様な声であった。
「ほう?」
王が顔を上げる、その顔に喜色が浮ぶ。
『アノコは…』
再び鎧が問いかける、ゆっくりと胸の女性を床に寝かせながら。
「お前の娘か、知らぬ、お前の嫁を迎えに行った時にはもう居なかった。
恐らく先に逃がしたのだろう、ほどなく彼奴らが城下に入り込んだのだ
無事に逃げおおせたか、それとも…」
ゆるりと鎧が身を起こす
「それとも奴等に捕われたか…あれ等の事だ、女とあれば幼子であろうとも」
フフと王が笑う。
ゴトリ
手甲が斧の柄を握る。
「それは余の預かり知らぬ事だ」
ガチャリ
鎧が鳴りゆっくりと体上がる。
再に二対の瞳が対峙する。
『ナゼ…』
赤い鎧が問いかける。
「何故?何故今更問いかける」
ガチャリ、ガチャリ、鎧が歩み始める。
『ナゼ…』
赤い兜、その奥の瞳は伺い知れぬ。
「知れた事だ、憎かったからだ」
亡国の王、その胸中は伺い知れぬ。
『ナゼ…』
兜の瞳が燃やすは怒りか。
「この国が、貴様が、その女が、父がだ!」
王の瞳に光るは狂気か。
鎧の歩みは止まらない、もう斧は引き摺らない
両手に抱えて歩みをすすめる。
「ははっ!余を討つか、それこそが我が宿望!それこそが幕引き!この茶番のな!」
ガチャリ、ガチャリ、歩みは止まらない。
赤い兜、その奥の瞳は伺い知れぬ。
「…盾の国、なんという茶番か…お前も知らぬだろう、この国の王が、歴代が守って
きた密約を。曰く、『悪鬼の数が殖え過ぎぬ様間引く事、悪鬼の数が減らぬ様、一定数の
女を渡ることは見逃す事』…
はっ!なればこその兵力よ、なればこその人民よ!
この国境の盾はお前等兵では無い!この密約よ!
それを知った時の余の気持ちが分かるかっ!父は、先王は!余にこんな国を与えたのだっ!
なのに、父は鎧を貴様に与えた!なのにあの女は…あの人はお前を選んだ…」
只欲しかった物は
今は無く
王なぞならぬ
国なぞいらぬ
又その言葉をくり返すか
愚かな王よ
ガチャリと鎧の歩みが止まる。
王の御前で歩みを止める。
赤い兜の魔将が王を、愚王を見下ろす。
兜の奥は伺い知れぬ。
鎧の腕がすうと上がる、巨大な斧が振り上がる。
赤い兜よ血まみれ魔将よ、また兜を赤く染めるか。
「なぜ余か、何故、何故あなたではなかったのか!わたしは只、皆で…昔の様に…
なぜあなたが…あなたが王に成るべきだったのに!」
亡国の王、その胸中は伺い知れぬ。
愚かな王よその瞳に光るは狂気か
「あなたが…あなたの所為だ!兄上!」
王よ、その瞳に光るは
赤い兜よ、その中で光るは
狂気か
怒りの炎か
涙か
『バカメ…』
鎧の腕が撃ち下ろされる、巨大な斧を振り下ろす。
『莫迦供が、なんたる茶番…』
闇の中、王が呟く。闇の中、丸い光が灯る。
水晶の眼、魔王の眼、写し出すは茶番劇
混沌の王、魔王が呟く
『莫迦奴が』
今日一つ、魔王の手駒が消えた。
魔王は眼を開く、水晶眼の窓を開く。
写し出される惨劇の地、無惨な血。
魔王は時を巻き戻す、瞳は過去を写し出す。
惨劇の顛末を写し出す、事の次第を写し出す。
そして魔王は知る、己が手駒の裏切りを、愚かなヒトとの取り引きを。
破られた密約を、兄弟の確執を。
有ってはならぬ赤い兜、血まみれ鎧を。
恐ろしき喰霊の装機、悪鬼を、人を討ち滅ぼす。
愚かなる魔法の鎧、動き始めれば止まらぬ殺戮兵器。
有っては成らぬシカケ
有っては成らぬ裏切り
混沌の王は決断する、事の始末を裁決する。
この茶番を終わらせよう。
天輪
一撃ちで統べては終ろう。
今宵統べての幕を下ろそう。
そして地図からその土地が消えた。
「盾の国か…」
少女が呟く、眼の前に見事な渓谷が広がる。
絶景である、いや奇景である。目の前の谷間は広く、山脈を分かつ窪みの様に有るのだ
唐突に。
その谷間を少女が見下ろしているのである。
その傍らに青年が少女の呟きに口を開く。
「盾の国がどうかしたのか?」
「ん?いや…ヒロトは知ってるのか」
「盾の国、シルトラートだろう?まぁ消えた国だって伝説位は」
「伝説か、まぁ現にこうして消えておるしな」
「こうしてって…ここか?」
「うむ、今見下ろしているここいら全部がそうだ。」
「この谷間全部がそうなのか?」
いぶかし気に青年が言う。
無理も無い。目の前の深く広い谷間に人が住んでいたとは思えないからだ。
「うむ、たしかに天輪にて消滅したのだ」
少女がこともなげに答える
「天輪?じゃあこの谷間って言うのはもしかして天輪の跡なのか…
リュー、まさかお前」
「我ではない、お前は我が幾つに見える」
「あ?、…ああ。そういえば…成る程そういう事か」
「うむ、何代前かしらぬがその時の魔王だ、そいつが隣の国もろとも消したらしい」
「隣にも国があったのか?」
「…オークの国だ」
「オーク?おい、じゃ自分の手下も消したってことか?何があったんだ」
「そこまでは知らぬ、この場所にしてもそのことにしても走り書き程度の記録しか
残ってなかったのだ」
「ふむ…」
「まぁそういう事だ…どうした、ヒロト何を考えておる」
「ん?いや…」
青年は谷間に目をやる、谷間に風が渡っていく。
いまはもういない英雄と王の物語
愛する者と心を失った男達の物語
我こそは護国の鬼
守るべき国は今は無く
愚かな王、亡国の主
只欲しかった物は今は無く
今は只、谷間に風が渡るばかり
風が旅人の廻りに舞い、少女の髪を揺らす。
髪を押さえる少女を眩しそうに見つめ、青年が口を開く。
「あ、そうだリュー」
「何だ」
「そういやお前ってほんとは幾つなんだ?」
「なっ…莫迦者!そんなもの年頃の娘に聞くものでは無い!」
そう怒鳴る少女の仕草はまさに年頃のそれで、
青年はまぁ、そう言うことかと笑うのであった。
勇者と魔王、まだ旅の仲間と出会う前の事。
〜英雄伝〜外伝「盾の国の物語」
新ジャンル「冷血」
最終更新:2010年03月21日 00:52