かくして俺はマギーと一夜を過ごした。…しかし、俺の童貞は捨てられず大尉殿も成仏せず。
…例のゲーム勝負、まさか決着がつかず朝を迎えることになるとは思わなかったさ。
黄色い太陽が昇ってきた時点で停戦協定が結ばれ、次の瞬間にはマギーは力尽きてベッドに沈む。
ベッドをマギーに譲り、床に寝袋を広げて潜り込んだところで来客を伝えるチャイムが鳴る。
「…一体誰だよ。」
こんな朝方からわざわざ俺の部屋に来るヤツ。…全く心当たりがない。
ちなみに大尉殿は俺の部屋にあるF-15Jのプラモを片手に俺とマギーのとった機動を再確認している。
「木の葉落としも見切られるとは…。」
全くだ。この勝負、決着が着きそうにないから別の勝負を提案しないといけないだろうな。
で、訪問者は我が従姉殿の柏木由美だった。容姿としてはかなり長めのポニーテール、そして大尉ご絶賛の豊かな胸。
もっとも、ちょっと釣り目がちな瞳に幾度となく睨みつけられ、ガクブルした経験も散々あるが…。
彼女も俺所属の研究室のOG。二年前の今頃に俺とマギーを顎でこき使って卒論を完成させた彼女は、今は近くの工場地帯にある製薬会社に勤務している。
それはともかく、開口一番にこんな事仰るからぶったまげるしかない。
「柳川敬一という幽霊に心当たりない?もっとも用があるのは私じゃなくて、彼女なんだけどね。」
加えて唖然とするしかないだろう。他の誰にも話したことの無い大尉の話をされたら…。
そして、それ以上に由美の後に少女の幽霊が居たりしたら。幽霊はおかっぱ頭の小柄な少女…。彼女は一言も喋らず、敬一を見つめている。
その様子に大尉殿は気付き、思わずF-15Jを取り落とす。…おい!今、尾翼が折れたぞ!!
俺の嘆きを華麗にスルーし、ふらふらと少女に近づく大尉。
「佐々木、喜久子…君?」
「はい。お久しぶりです。」
彼らが知人同士なのは把握したが、どういう関係なのかは見えてこない。で、隣に立ってる由美に聞いてみる。
「佐々木さんって何者?」
「私の職場に出てきたんだ。何でも恋い慕ってた男に会いたくって化けて出てきたんだって。健気だねぇ。」
例の爆撃の犠牲者か…。彼女だって高校生くらいの歳で亡くなったんだ。思い残すことくらいあるよな…。
で、俺と由美が話しこんでる向こう側では、お若いお二人が随分と盛り上がっているようです。
「済まない…。俺が任務を達成できてたら、君は死なずに済んだのに…。」
「いえ、良いんです。…多分、敬一さんの戦死を聞いた時には私の心は死んでいましたから。」
「喜久子君。」
「敬一さん…。」
えーと、すごく良い雰囲気になってます。俺と由美の存在など全く眼中になさそうです。…この状況なら、俺が筆下しすることなく成仏できそうな勢いですが。
「なぁ敬一…。お前を慕ってる娘も居ることだし、本懐を遂げる絶好の機会じゃないのか?」
そう振ってやると、面白い位に狼狽する大尉殿。
「え?慕ってるって…?えぇっ?そ、そうなのか?」
……こんなイイ子に思いを寄せられ気付かなかったのか?コイツ…。
ちょっとショックを受けたのか涙目な佐々木さん。だが、涙をたたえた瞳を真っすぐ敬一に向け、言葉を紡ぐ。
「はい。ずっと、ずっと昔からお慕いしていました。敬一さんのことが、好きです。」
「喜久子君…。」
「確認取れたんなら、さっさと成仏しちまえ。」
「喜久子ちゃん、泣かせたら許さないわよ。」
佐々木さんの告白、俺と由美の発破にようやく決心が固まったのか佐々木さんに手を差し伸べる敬一。
「…あぁそうだな。…和也、今まで世話になった。さぁ行こう、喜久子君。」
「…はい。」
そして佐々木さんの手を取って姿を消していく大尉。残ったのは俺と由美、そして未だ爆睡中のマギー。
「これでハッピーエンドになると良いわね。…で、和也。女の子を連れ込んでオイタとはやるわねぇ。…詳しく話、聞かせて貰えないかしら?」
え?今このタイミングってハッピーエンドの余韻に浸ってるべきじゃないの?てか、由美に知られると経験上ロクなことにならないので、以下の答えを返しとく。
「も…黙秘します。」
…まぁ素直に要求を呑んでくれるとは欠片も思っていないが。
「ふふふ。すぐに喋りたくなるかもね…。」
…う。この眼は…。『どう吐かせるか』という目的が『どう痛めつけるか』に切り替わってるキラーモード!
そして運が悪い事に、彼女は壁際に立てかけてあった竹刀の存在に気づく。大尉殿が特訓の際に片時も放さなかった得物だが…。
畜生、敬一のヤツ…。ちゃんと持って帰れ!!…あ、由美のヤツ、すっげー楽しそうに素振りしてやがる )
「ヤメテ!シナイデブツノヤメテ!!」
…結局、洗いざらい吐かされてしまった。マギーへ告白した事から大尉の事まで…。
「ふーん。でも嫁入り前の女の子を男の部屋で寝させる訳にはいかないわね。彼女は私の部屋で預かるわ。
あなただって、ベッドで寝れた方が良いでしょ?」
そしてあっという間にマギーを抱き上げて去っていく従姉殿。…このネタで脅されるのは3日後か10日後か一月後か…。
…とりあえず現実逃避で寝とくか。…あ、マギーの残り香。やっぱイイ匂いするよな。
そして午後を過ぎた頃。目を覚ました俺の前に、ありえない筈の、しかしよく見慣れた男の姿があった。
「…敬一、成仏したんじゃなかったのかよ?」
「………かったんだよ。」
「え?何だって?」
「本番で立たなかったんだよ!!彼女が俺を愛してくれるのも、凄く頑張ってくれたのも解る!!それでも、立たなかったんだよ!!」
「敬一…。」
…おっぱい星人すぎて、貧乳相手じゃ駄目なのかよ。まぁ佐々木さんが年若い少女ってことも一因だろうが。
「……当初の予定通り、貴様の力が必要だ。済まないが頼む。」
そこで俺の携帯が鳴る。…由美からだ。
「喜久子ちゃんから話聞いたわ。とりあえずソコにいる馬鹿大尉をぶん殴っといて。あと、今からアンタの部屋に行くからゴムの準備と掃除をしとく事!!」
「はぁ!?ちょ、どういうことだよ!?」
「アイツはそこそこ胸のある女じゃないと発情しないという事も聞いたわ。…癪だけど協力してあげる。」
「ま、待てよ!別に由美じゃなくても…。マギーじゃ駄目なのかよ!?」
「馬鹿大尉だけ満足させて喜久子ちゃんだけ現世に取り残せっていうの!?
あ、喜久子ちゃんがマギーちゃんにも憑依できないのか試したけど、駄目だったのよ!!とにかく大人しく待ってなさい!!」
なんか急転直下な展開になってます。とりあえず、コンビニまでゴム買いに行ってきます。
…しかし、この展開だと佐々木さん、大泣きしただろうな。
最終更新:2008年04月27日 16:34