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 私は舐め回すような視線で彼女を見つめていた。

 白い礼服に身を包んで楚々として笑う彼女。慈愛に満ちたその姿は、まさしく女神の有り様だろう…。

 

  世界の頂点に立ち、人々の信奉を集め、空の城で煌びやかな宝物に囲まれて暮らす彼女は、樹木の世界(このせかい)の誰もが羨む存在であるのだろう。

 だが、私から見れば彼女は不幸の塊りだ。

 私は愛欲を司る神。あるいは情熱が行き過ぎて魔王とさえ呼ばれる者。だからこそ解る。煌びやかな宝…?そんなもの、ヒトの幸福に何の役割を果たすだろう……?信奉…?たしかに、神々(わたしたち)にとってもそれは大切だ。

 だが…、愛する男に抱かれる熱情。オンナとしてそれ以上の幸福など有り得ようものだろうか……?

 だから、いくら信奉を集めても、いくら宝に囲まれても、愛する男を失った彼女はたまらなく不幸だ…。それに気付かず彼女を羨望できる者共など、幸福の本質を知らぬ愚か者共に他ならない…。本当にそういう手合いが多いのだから、彼女の作り上げた理想世界もまだまだ真に理想たる姿には成っていない。

 彼女が愛する男を捨ててまで手にした世界が、辿り着くところ未だその程度だというのが、猶更以って彼女に哀れでならない。

 

 そんな彼女を見ていると、今直ぐにでもあの純白のドレスを引き裂いて、あの肢体を隅々まで穢したくなる。

 それは愛欲の女神よりの慈悲だ。

 同時に魔を性とする者の本能でもある。

 清楚な理性(ドレス)など、ヒトを不幸にしかしない。彼女が尚も人たらんことを望むのなら、夜にはそれを脱ぐべきなのだ…。
 だが、彼女はその強さ故、夜の帳の中で尚、道義(めがみ)を脱ぐことができない。彼女にそれが叶わぬなら、周りの者が無理やりにでも引き裂いてやるのが慈悲というものであろう…。

 聖体を穢す悦びは、魔王たる私の本性だ…。それを抑えるのは容易でない…。
 だが、これでも私はセント・アゴラ(神の御座所)に仕える身だ。創造神(あるじ)に牙を剥くことなど出来はしない…。禁じられるほどに、身体の内側は火照るのだが…。

 いずれにせよ、ヒトはもっと穢れていて良い…。

 昼には仮初の理性(ふく)で取り繕い、世の秩序を保ちながら、夜にはそれを脱ぎ捨てて、欲望(おのれ)を裸にする。
 服は脱ぎ着できるから便利なのだろう…?

 

 それが叶わぬ彼女は哀れでならない。いや…、むしろ彼女(あるじ)の本能(ほんしん)が脱がされることを望むのなら、無理やりにでも理性(ドレス)を引き裂いてやるのが私(けらい)の忠義ではないのか…?
 そうヒトの幸福とは、愛欲に身を任せ男女が裸で睦み合う中にこそ……

 ――などと、私が思考を堂々巡りさせていると、私の視線に気が付いたのか、主が私に声を掛けてくる。

「いつもありがとう…。貴女のおかげで、樹木の世界(ウッドワールド)の人々は幸せな夜を過ごせているよ」

 屈託なく微笑(わら)う主。感謝の言葉が笑顔に輝く。

 ……だめだ、もう襲おう。

 穢れ無き心と無自覚のいじましさに私の我慢が限界を超える。今すぐにでも、あの唇を奪い、乳房に吸い付き、陰唇を愛液に濡らしたい。なんだか、大きな戦いが控えているようだが、そんなもの肌を重ねる悦びより重要なものではないだろう。

 幸せな夜を過ごせていると…それを言う貴女が最も不幸な夜を過ごしているのではないか……!

 その哀れを思えば、最早犯さずにはいられない。恐らくは女同士の世界を知らぬ女神に、女同士の幸せを教えてやろう。今は初心(ウブ)な彼女が、未知の愛欲に染まっていく…。それを想像するだに、陰(ほと)の芯が熱くなる…。

「あの、主上…。大切なお話がございます。どうか、こちらへ来ていただけませんか…?」

 そう言って、訝しんでいる彼女の手を引き、急ぎ足に廊下を入って行く。
 三つほど角を曲がった先に、普段はあまり使われない会議室がある。男子禁制区に性欲を持て余した女官たちが、密かに女同士の熱情を交わすのに良く使っている場所だ。先客さえいなければ、人目を避けるのにもってこいの場所だろう…。

 一つ…二つ……

 高鳴る胸を抑えながら、私は角を曲がって行く。後ろ手の主は、尚もこちらの意図を測りかねている様子で、私の表情を探りながら着いて来ている。

 三つ………。

 角を曲がり、お目当ての部屋が見えてくる。高揚と緊張で小刻みに震えてくる…。この私が初心な処女のようで滑稽だが、相手は大物中の大物だ…、致し方あるまい……。
 なによりも、もう昂ぶる己を抑えきれない……。

 ついに部屋の前まで辿り着いて、私はドアノブに手を掛ける――

 

‐To be continued‐

最終更新:2011年12月31日 23:34