生まれても、生きられぬ命だって、ある。
私は、フルール・ド・スリジェでは冥界の主であった。
だから、そんな悲しい命を見ることもあった。
命あり生きるもの根本にあるものと言うのは、「生きたい」と言う欲だ。
「死にたい」と願う者の願いを叶える事も多々あった。
ただ、死を願う者も、その人の話を聞いていくうちに、どこかで「生きたい」と望んでいる事を知った。
今、思えば、自殺を赦した神様と言うのは、異質だったかもしれない。
まあ、唯一神であった親父を殺し追放された今となっては、どうでもいい。
そんな風に、死に接する事が多かったからか、私は「生きたい」と強く望む者には手を差しのべたくなるのかもしれない。
窓からは庭の様子が見える。
アンスがシュヴァルツに水やりや剪定のやり方を教えてもらっているようだ。
あの夜、何故、私の頭にあの2人の声が響いてきたのかはわからない。
おそらく何かの縁だと思うけど、つまりは、よくわからない。
ただ、確かな事は、私はアンスに手を差しのべたいと思った事だけ。
チン、とオーブンがクッキーが焼き上った事を知らせる音がした。
開いたオーブンからは美味しそうな香りを漂ってきた。
中には良い色に焼けたクッキーが並んでいる。
クッキーを焼いたのは久々だけど、良い出来かな?
私はクッキーをお皿に盛り、ティーセットを乗せたお盆に乗せた。
さて、これを頑張ってる二人にもって行くことにしよう。
私はキッチンを出て、庭に向かった。
ディアスと言う変わった男が、命をかけて守ろうとした少女。
彼女が自分の足でどう言う道を歩いて、どう成長していくのか、それはわからない。
でも、そんな彼女を見守ってあげたい、と思って庭師として雇ったのは確かなこと。
庭では、庭師の2人が仕事をしていた。
クッキー、喜んでくれると良いな…。
なんて不安に思いながら、私は2人に話しかけた。
「あの、良かったらお茶にしませんか?」
最終更新:2012年02月13日 17:09