気配を感じ、セシリア=ベルモントは目を醒ます。
「(温かく猛々しいフレア…これは……?)」
訝しみ、走らせる視線。その先に待っていたのは…藤の瞳と形のいい2つの湾曲。

「……何をしておられるのですか?新龍皇様…」
「夜這いよ、夜這い。こんな夜分遅くに他に何がある…?」
悪戯に微笑んで返す新龍皇。前屈みになって詰め寄ると、豊満な膨らみに赤い髪が掛かる。
その接近に思わず上体を反らして逃げてセシリアが応える。
「夜這いなど…、私達は女同士ではないですかっ…!?それに、ここは私の許可無き者は如何なる者も入れぬ場所のはず……」
「フフフ…。欲しいものを我慢する龍などいると思うておるのかえ…?それに、その年齢(とし)で女同士の世界を知らぬわけではあるまい…?」
「そ、それは…」
「ああ、頭では知っていてもカラダでは知らぬかな…?よいよい…豫が教えてやる……」
「ご…、ご冗談はお止めください……」
吐息がかかるほどまで近く顔を寄せる新龍皇。覗き込まれる藤の瞳に、セシリアの頬が紅く染まる。
硬直し逃げ場を失ったセシリアに手を伸ばし、緑の前髪を細い指で摘まんで、新龍皇は口角を妖艶に吊り上げて微笑(わら)う。
「冗談ではないぞ…?そなたは、豫の唇を奪った…。姫を勤めるのは一夜限りでも、豫の唇は一夜限りで済ますほど安くないからのぅ……」
「あ、あれは私が奪ったのではなく、新龍皇様から重ねてきたのでは…!?それに、私は別にそのようなつもりで――」
「その気もないのに、軽々しく豫の唇を受け入れたのか……?」
「いやっ、それはっ…!」
悪戯に微笑(わら)うヴォリクスと、解に窮するセシリア。
戸惑う瞳に濡れた唇が迫る。
にじりよるヴォリクスが逃げ場を失ったセシリアに迫った時、ヴォリクスの身体が二人の間に挟まった桜花に触れ、桜花が小さな呻き声を挙げる。
目を覚ましそうになった娘の姿に、漸くと母の理性を取り戻すセシリア。
「お止めください…!子供たちが隣で寝ております……!」
厳しい口調で示された拒絶に、新龍皇もしぶしぶと身を離す。
「目合う本能にも目覚めておらぬ雛(インファント)の前か…。ならば仕方ないのぅ……」
微笑(わら)って立ち上がり、不可思議な力で衣服を取り出し着衣する。
それから、慈しむ眼で二つの神子を見下ろす。
「可愛いものよな……。それが、この世界の未来か…?」
「はい…。私の…宝です……」
新龍皇と同じ慈しむ眼で、セシリアは二人の我が子を見つめる。
「新龍皇様の宝は、助け出せませんでした…。己が無力を恥ずかしく思います……」
「うむ…。まだ生まれて間もない雛(インファント)もおるからのぉ…。果たして生きておるやら死んでおるやら……」
深刻そうな様子もなく、あっけらかんと言う新龍皇。その口調に、セシリアは拍子抜けたように問いかける。
「心配ではないのですか…?生まれたばかりの子なのでしょう…?」
「じゃが、孵ったぞ…?」
あっさりとそう言い放つ新龍皇。強がりでも気遣い故の嘘でもなく、そこに浮かぶのは素直な認識と素朴な疑問だ。
本来子育てをしない龍には、孵った雛の身を案じる感覚が無い。だから、それを感じるセシリアの感覚を本質的に理解できないのだ。
龍の生態を理解しているつもりでも、その感覚の違いに二児の母であるセシリアは戸惑う。
「そういう…ものなのですか……?」
「子供らを愛してはおるよ…?巣立った子らも、未だに豫を母と慕って偶に遊びにやってきよる…。そうした仔龍(こども)らに囲まれておるときは、女としての至福を感じるわ……」
「そうなのですか…」
「じゃが、我等は誇り高き龍だからの…。孵った時には餌を得る術を知っておる。それは、力及ばなければ死を受け入れるということでもある……」
セシリアは漸く理解する。自らの力で生き自らの力で死ぬ、その気高き強さに対する本能的な信頼こそ、彼女の愛情なのだと…。
その強さを信じられるからこそ、過剰に心配しないのだ。
得られた理解に、自然と微笑(えがお)がこぼれる。
「良いことを聞かせていただきました」
微笑むセシリアに、新龍皇は自慢げに笑って応える。
「そうであろう…?」
※1=かつて私のキャンペーンに参加したことのある諸氏の中には、子育て龍のドレキを覚えている方も居るかと思う。「アイツは龍なのに子育てしてたじゃないか!」と突っ込まれるかもしれないが、ドレキの亡くなった奥さんは人間なので、ドレキの子供たちはドラゴンハーフだ。このため、真龍の子とは発達過程が異なり、子供たちは生まれてすぐ自分で餌を取れるほど逞しくなく、子育てが必要だったと考える。(´・ω・`;)
「ドラゴンって爬虫類っぽい部分が多いし、もしかして子育てしないんじゃね?」とふと思い、その中での母性愛がどうなるのかを想像してみて書いたSSです。