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・リュヌ ~リュヌの部屋にて~

 夜も更けた頃。私は目を覚ました。
見慣れた部屋は、月明かりで蒼白く染まり、まるで水の中にいるようだ。

 この世界の月は、自身が発光している。
私の知る月、フルール・ド・スリジェの月は、太陽に照らされて輝いている。
この世界の月の神はきっと、独りでも暗闇を照らせる強い方なのだと思う。
そんな強さは、私にはない。 
私に出来ることは、力を与えることしかできない。
神と言う役職だけで考えるのなら、それで良いと思っている。
けれど、私と言う個人的な考えを言うと、それでいいのか?考えてしまう。
ふと、私を襲った『化け物』の存在が浮かぶ。
きっと、そう遠くないうちに、そいつと戦う日が来る。そんな気がする。
ただ、私には、そいつと戦う理由なんてない。
けれど、私に良くしてくれた人達が戦うと言うのなら、私も力になれたらいいな。
でも・・・
「私に何ができるんだろう?」
溜め息と同時にそんな言葉が出た。

 ボーン、ボーン、ボーン・・・と、不意に部屋の古い柱時計が鳴り出した。
カチッ、カチッ、カチッ・・・部屋が静まりかえっているせいなのか、いつもより秒針と振り子の音が大きいような気がする。
 カチッ、カチッ、カチッ・・・秒針の音がだんだん大きくなっていく。
部屋一杯に響くほど、大きな音を立てているのに、誰独りとして来る気配はない。
一体、どう言うことだろう。
時計の針の音は、瞬く間に大きくなり、頭痛を起こすくらいになっていた。
一瞬、頭の痛みに瞼をギュッと閉じた。

・リュヌ ~???にて~

カチッ、カチッ、カチッ・・・空間を震わせる程、大きな秒針の音がする。
さらに、ゴトゴトと何かが動く音もする。
床は冷たい。おそらく石か何かの頑丈な素材で出来ているものだと思う。
瞼は閉じたままでも、ここは、私の部屋でないことくらいわかる。
あぁ、またか・・・。
溜め息を吐いて、瞼を明けた。
蒼白い石で出来た建物の内部らしい。
扉はなく、窓には繊細な彫刻の鉄格子がはまっている。
ここから違う場所に行けそうなものは、螺旋階段くらいしかない。
私を招いた者もこの階段の先にいると考えるのが妥当かもしれない。

私は、一歩一歩と、螺旋階段を上り始めた。
上る毎に、秒針の音は大きくなり、頭が痛くなりだした時、黒い扉が見えた。
その重厚そうな扉には、私が彼方への門で出す門と同じ模様をしていた。
扉を押すと、以外にも軽く扉は開いた。

この部屋は、不思議なことに時計の秒針の音がしなかった。
代わりに、どこからかアコーディオンとヴァイオリンの旋律が聞こえてくる。
そして、目の前には月を連想させるような、球体の椅子に座っている女性がいた。
「ようこそ、心音(ハートビート)ノ(・)時計塔(クロックタワー)へ」
フルール・ド・スリジェに生まれた最初の女性。
そう、過去の私。
 よく見れば、彼女には黒い手かせがはめられている。
手かせから伸びる黒い鎖は長く、足下まで伸びている。
わたしの知る最初の女性とは少し違う・・・。
「貴女は?」
彼女は不敵に笑った。
「私は、貴女の過去であり、現在であり、未来。この場所では《The Original Sin》と呼ばれている存在とでも言っておきましょうか」
 彼女が私の過去であるのは、フルール・ド・スリジェの最初の女性であるから。
彼女が私の現在であるのは、私がフルール・ド・スリジェの最初の女性の魂が神に転生してしまった存在だから。
けど、私の未来ってどう言うことなの?
「まぁ、正確に言うのなら、私は貴女の影みたいなものよ」
 《The Original Sin》は、確かフルール・ド・スリジェで『原罪の魔女』と呼ばれている存在。彼女が私の影?
混乱する私を見て、彼女は続けた。 
「人は、生きていれば、罪を犯すもの。彼らはその元を考えた。そして、最初の女性である貴女に罪の元、『原罪』があるとしたの」
私は目の前にいる、もうひとりの私を見つめた。
罪は、謝罪する事は出来ても、赦されることが出来ても、消えることはない。だからこそ、抱えきれない罪を神と言う人ではない存在のせいにするのかな?
 「そんな、妙な顔をしないで?あなたは、力を求めてここに来たのでしょう?」
彼女の周りに、橙、黄、青、藍、紫の5つの光の玉が浮かび、回り始めた。
「私が使うのは、時と、大罪の力。大罪、即ち『憤怒』『暴食』『傲慢』『怠惰』『強欲』『嫉妬』『色欲』の7つ。強い思いの成れの果て。そんな力を取り込むわけだから、強い力も手に入るけど、そのコントロールは難しいわよ?」
 私の胸の辺りに赤と緑色の光の玉が浮かび上がっていた。
「これは?」
「貴女の所にある大罪『憤怒』と『怠惰』貴女が無気力になったりしたのは、だいたいこれのせい。傷つけられて激しく怒るのもそのせいよ」
 彼女の目は少し笑っていた。「怠惰の力だけでも、コントロールできないと、強く自分に作用してしまうの。この力はコントロールできないと、罪に支配されてしまう。それでも、力が欲しいの?」

私には迷いはない。

彼女は私に手を差し伸べた。
「強い思いはあるのね・・・なら、共に行きましょう」
私は彼女の手を取って、彼女は椅子から立ち上がった。
彼女の鎖が金色に輝きだし、それは眩い閃光となって、視界を金色に染めた。
 
金色の光の中、私は何処かへと飛ばされた。
その中で、私は見た。
10億年分の、ソレイユとの記憶を・・・。

・リュヌ ~リュヌの部屋にて~
 
気付けば、私は月明かりで蒼白く染まった見慣れた部屋の中にいた。
足下に違和感がしたので見てみると、そこには紙切れが落ちていた。
「まだ馴染んでないから、時間の力は使えないかもしれない」
と紙には書いてあった。

ふと、鏡を見ると、少し大人びた姿になったような気がする。
それ以外は、外見の変化はない。

夜遅くだけど、何だかソレイユに会いたくなった。
気の遠くなる時間待たせてごめんね。
 

最終更新:2012年05月24日 16:03