あの日、独りぼっちだった神様が出会ったのは、野良猫のような少年だった。
~リュヌ 夢の中~
宵闇のような、海の底のような深い青の場所に私は漂っていた。
いつだか、桜花を助けに行くときに、私は不要だと引きこもった事があった。
そんな事を何故か思い出した。
その時の私は、人の支援しかできない私の力が弱く思えて大嫌いだった。
私は、父親みたいに一人で何でもできる神様でなかったから。
そんな私なんか、父親ですら見捨てたのだから、他の誰かも不要てして見捨てるに違いないと思った。
けど、皆は私を見捨てなかった。
脳裏に、出会ってきた人達の顔が浮かぶ。
そして、一人の人物の名前を勝手に呟いていた。
「シンジョウ…」
そう言えば、私の戦い方を見て、共に戦って、父親以外の異性に戦力不足として見捨てられなかったのは、彼が始めてだった気がする。
ドクンと、大きく心臓が鳴った。
それに気をとられた一瞬のうちに、私の前にいつの間にか私が現れていた。
見た目12歳の私。きっと、その時の私がいた。
「本当は…私、シンジョウさんが…」
「違う!」
その言葉を聞いてしまえば、私の心にある海の底から何かが出てきてしまう。
そんな気がして、私は焦って、私は私の言葉を遮った。
しかし、私は私に言う。
「ねぇ?どうしてそんなに焦っているの?」
私が焦れば焦る程、それが事実と証明してしまっている事に気がついた。
心臓が五月蝿い程に高鳴って、苦しくて息ができない。
溺れたかのように、視界が徐々に黒く塗りつぶされて、意識が薄れてゆく。
「そうやって抑えるから、反動でこんな風に苦しくなるのよ…」
そんな私の声が遠く、近くで聞こえた。
私の視界は真っ暗なり、急激にその空間から彼方へ意識が引っ張られるような感覚がした。
~リュヌ 心音ノ時計塔~
汗で濡れたシーツは、本当に溺れたかのようにすら思る程に濡れていた。
早い鼓動と荒い息を落ち着ける為に、徐々に息を深く吸った。
昨日は長く、色々な事があった。
ダスクフレアとの戦いがあり、母は伯爵により処刑され、私は城を出て新しい住居である心音ノ時計塔(ハートビート・クロックタワー)を建設した。
ふと、窓の外を見ると、まだ暗かった。さらに、ザーザーと雨が降っている音もする。
こんな時に、この天気だなんて、嫌な天気。
「シンジョウ…」
結局の所、よくわからない人だった。
何故、彼方への門を使うと、彼の頭上に落ちてくる事が多かったのだろう?
これが今でも解らない。
同じ執行者だから?
でも、そしたらライラの頭上にも落ちてないと変ね…。
なんでだろう?
何かに引かれたかのように、彼の頭上に落ちてた気がする。
まるで、運命を司る神にでも悪戯をされたような感じすらする。
そんな事を思うと、彼は少し特別な存在なのかもしれない。なんて、思えてくる。
「シンジョウ…か…」
不思議な懐かしさと、小さく胸の奥を締め付けるような感覚…この気持ちは何だろう?
不思議な縁に心踊らす、乙女心のようなものがまだあって、彼に恋をしたと言うのだろうか?
しかし、最初に出会った時、単純に落下してドキドキしていた。
そこで、彼を見たから、彼を見てドキドキしたと勘違いをしていただけではないか?とも思う。
ソレイユの時ほど、彼がいない時に何か彼へ向かう燃え上がるような感情はなかった。
まあ、出てきたら困るから、遠ざけてたのはたしか…。
はぁ…。
私はため息を吐いた。
「やっぱり…好き…なのかな?」
~リュヌ 心音ノ時計塔~
「お嬢様、どうかいたしましたか?」
突然近くでシュヴァルツの声がして、私は驚いた。
「申し訳ございません。先ほどからノックをしていたのですが、何も返事がなかったので心配で入ってしまいました」
「いいの、私こそ、ごめんなさい」
この静かな部屋でノックにも気づかなかったなんて…。
「お昼ご飯はお食べになられますか?」
その言葉を聞いて、ハッとなってソレイユからもらった懐中時計を見ると、時刻は12時を過ぎていた。
いつの間に、こんなに時間が経っていたんだろう?
「いただくわ」
「お食事は、下にてご用意致します。では、失礼します」
そう言ってシュヴァルツは部屋を出ていった。
「お嬢様のそのお気持ちは、表さないと伝わらないですよ」
と言う言葉を残して。
気持ちか…。
何て言えば良いのか、解らないよ。
今更、そんな事を言っても…拒否されてしまうのが怖い。
どうすれば、良いんだろう?
いつまでも悩んではいられない。
どちらにせよ、決着をつけなきゃ。
けど、まだ少し時間がほしいの。
~リュヌ 心音ノ時計塔~
何気なく一日を過ごしているふりをし、疲れた身体をベッドに沈めた。
今日は珍しく何もない一日になった。
たまには、こんな日も良いな。
慌ただしい日々に慣れを感じてしまったから、そう思うのだろうか?
もし、このままぼんやり過ごしていたら、前の私に逆戻りかな?
それは、嫌だな。
それなら、どうするか答えはもう出た。
もう決心はできた。
私がガラスの扉を呼び出すと、いつの間にか昇っていた日太陽の光を受けて、キラキラと輝いた。
「今度は偶然じゃなく、会いに行くよ」
あの時のように行き先を考えずにではなく、彼へ繋がるように、扉の向こうへと飛び込んだ。
~リュヌ 砂漠の町~
行き先は、勿論、彼の頭上。
毎度の事ながら、彼は私の下敷きになった。
彼に会えたのが嬉しいくせに、それを隠す為に、彼が何か言うのを白々しくかわす演技をした。
そんな中で、私はあの日の事を思い出した。
ソレイユに促され、何も考えずに彼方への門で外に出て、始めて会ったカオスフレア。
考えたら特別な縁がありそうでも、実際は今までそんな事はなかった。
「東はどっちだ?」
唐突に、そんな事を彼は私にきいた。
私は「あっちよ」と東を指差した。
彼は、どこへ行くのだろう?
行き先は知らない。
必要としてくれるなら、付いて回るのも刺激的な日々が過ごせるかもしれないけど、そうさせてはくれなさそうだから、私はそんな事は言えない。
けど、この不思議な縁を絶やす事があったら、何だか寂しくなる。
だから私は、サッと彼の目を手で塞ぎ、額に軽く口付けをして、こう言った。
「貴方に神(私)の加護がありますように…」
そう言って、私はガラスの扉の向こうへと飛び込んだ。
ガラスには、ポカンとした彼が一瞬映ったのが見えた。
ちらりと振り返り、ガラスの扉が消える前に、彼にウインクをした。
だって、貴方の事、気に入っちゃった(好きになっちゃった)んだもの。
私が気に入った相手を見守り、見届けるのも、神様のお仕事でしょう?
何か大変な事があったら、いくらか力を貸してあげる。
これが、私の想いの形。
~リュヌ 心音ノ時計塔~
フルール・ド・スリジェでは、額にキスをするのは「離れていても見守っている」と言うような意味を持つ行為。
神様なら、祝福と言う意味を持つ行為。
これは神として、私としてした事。
フルール・ド・スリジェにいた時ですら、祝福をした事はなかった。
何故なら、神として祝福をする事は、神としてその子どもを作り出す場合、祝福をした相手と自分の子どもを作り出せる。相手の遺伝子をストックするようなものだと聞いたことがあったから。
だから、本当に大切に思う相手にだけ祝福をしなさいと、父親に言われ、それを固く守っていた。
正確には、それを破ってまでストックしたい相手なんて今までいなかった。
「今日は大雪になるかしらね?」
シュヴァルツが淹れてくれた紅茶を飲み、自嘲するように笑った。
おもむろに、魔法の鏡を起動させると、そこには彼の姿があった。
まるで、野良猫みたい。
自由で、それが故に孤独でも、たくましく生きている。
あるがままにと動くけど、孤独になると、塞ぎ込み、閉じ籠る私とは違う。
「君は、強い人なんだろうね」
だからこそ、祝福をしたのかもしれない。
もしかしたら、私は彼に会いたかったから、彼方への門は彼に向かって開かれたのかもしれない。
私は、あんな風に自由でそれが故の孤独があっても、たくましく生きていける人に憧れてたんだと思う。
だから、最初に彼の頭上に落ちてきたのかな?
でもそれは、偶然のような必然。
彼を知らないし、彼でなければいけない理由があるかも解らないから、必然のような偶然。
偶然なのか?必然なのか?それは本当に解らない。
出会いはもとより偶数か必然かわからないもの。
でも、この出会いは今までで一番それが強い。
だからこそ、この縁も大切にしたいと強く思う。
ただ、そんな事、彼には言わない。
だって…恥ずかしいから。
ルキフィスとレトリア、ライラや桜花みたいに直接的な関わりじゃないにしても、間接的に関わっていたいと思う。
しかし、おそらく、何も考えずに彼方への門を使うことはないと思う。
そう言う意味では、偶然、彼に会うことはない。
けど、寂しい夜なんかに、気まぐれに彼方への門を開くかもしれないから…。
「また、会いに来るよ」
悪戯に笑った笑みも、発した言葉も、鏡の向こうにい彼には、見えず、聞こえてはいない。
「神とはいつもこう気まぐれなものなんだよ」
私は、一人満足そうな笑みを浮かべた。
~リュヌ 心音ノ時計塔~
昔みたいに、死を司るのも良いけど、その辺は夜の伯爵様がいるから、その職はないだろう。
せめて、対岸への橋渡し役にはなりたい気持ちではある。
けど、私にはそれ以上にやりたい事がある。
それは、あの慌ただしい日々の中で出来た大切な人達と関わりながら。神様として、リュヌとして、大切な人達の為に力になる事。
他者に力を貸したり、見守るの神様の役目なら、一応、神としての役目を果たしている気はする。
ああ、部屋の中でうだうだ考えてるだけじゃ、昔みたいに腐ってしまう。
さて、今日は誰に会いに行こう?
私は、ガラスの扉を開いた。
~柊 雪羽 あとがき~
突然異世界に来てしまった少年の頭上に、女の子が空から落下かしてくるか…これは、恋愛ルートもありかもしれない!と、シンジョウと恋愛ルートも最初は考えていました。
日常を送っているはずなのに、なやかんや奇妙な事件に巻き込まれてしまい。
腐れ縁でも、いつの間にか惹かれ合って、好きなのにそれを言い出せない。
なんと言うか早く結婚しろよ的な感じになればと思ってました。
しかし、私のキャラクターも猫みたいに自由気まぐれなので、それは難しそうなキャラクターな気がしたのもたしかです。
あと、色々と思惑がありまして、ソレイユを人間に戻したりもしましたから。
悲しくもシンジョウルートから完全に外れてしまいました。
そんな回収してなかった、淡い恋(?)に終止符を打つようなSSになりました。
基本にリュヌが悶々してるだけのSSなのに、いつにも増して長くなってしまいました。
キャンペーンと言う物語は最後のページをめくり終えてしまったので、その向こう側は解りません。
ただ、シンジョウの周りで時間の流れが変わったりする、不思議な事が起こったら、それはリュヌの加護です。
だいぶ先の話ですが、リュヌとソレイユの間に子どもが、生まれるでしょう。
その子達は双子で、白髪で黒目の子、もう片方は紫の目に黒髪の子。
黒髪なんて誰に似たのやら…(笑)。
最後まで読んで下さってありがとうございます。
ほんの細やかなおまけですが…。
彼方への門+廊下でぶつかるでシンジョウの頭上に落ちてきたリュヌを描いてみました。
たぶん、こんなのだと思います。
シンジョウの迷彩服の模様が謎の幾何学模様になってすみません。
ちなみにリュヌはアベル討伐後の服なので初披露です。
本当に、シンジョウさんは大変ですね。