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  ~これは、一匹の龍に平和を愛する心が芽生えるまでの物語である。~

「その龍、燃えるような真紅の瞳と美しき白銀の鱗をもち
    三つの首から放たれた雷光は、万物を塵と化していった
」

ーとある神話の一説

 神話に登場する真紅の眼を持つ白銀の三頭龍それがヴァルト=ヴィーヴルの過去の姿である。この頃の彼にとっては力こそが全であり、「弱肉強食」のみがこの世界の唯一の法則だと信じて疑わなかった。
 ただ目の前にいる敵を己の力でなぎ倒てゆくだけで、創造主との戦いでさえ彼にとってはあまたの戦場のひとつにすぎなかった。その時の功績をかわれ五龍将の一人となり龍皇軍を率いることになったのだが、彼の戦いが終わることはなかった。来る日も来る日も戦場の血風と砂塵に自らの身を投じる、変わらぬ日々の中で時間だけが過ぎていった。

 だがそんな変わらぬ日々に劇的な変化が訪れることになる、それは一人の少年との出会いであった。
 その少年は、見知らぬ衣服に身を包み異世界から来たという。しかし、彼にとってそれ以上に衝撃的だったのは少年の言動であり、それは当時の彼にはまったく理解することができないものだった。 マーキュリーと呼ばれる特殊な武器を有し、自分と対等に渡り合う力さえ持っているはずその少年が、糧とするべきはずの弱者を己の身をていしてまで守り、あまつさえ敵である自分に対し「なぜそうまでして戦う?」と問いかけてくるのだ。
 このとき彼は初めて疑問に思った「なぜ自分は戦っているのか?」今まで信じてきたはずの「弱肉強食」の法は少年の問いに対する答えとなり得ず、そのあまりの脆さに彼自身が驚愕していた。かき消そうとして、いくら戦場に身を投じてもその疑問が晴れることなく逆に言いようのない虚無感ばかりが生まれてゆくだけだった。

 答えを見出せぬまま彼は少年に一対一の戦いを挑んだ、少年を己の力で打ち伏せれば理由が見つかると信じて・・・・。
 そうして相対した二人の戦いの場に招かれざる客がいた、少年を狙っていたダスクフレアの男だ。
 しかし、そんなことは露知らず二人は闘いをはじめた。その光景だけを見れば一人の少年が巨大な龍に無謀な闘いを挑んでいるようにしか見えないが、実際の戦況は少年の方が優勢だった。わずかではあるが確実に開いてゆく少年との差に彼は動揺し体制を崩してしまう、その隙を見逃ず攻勢に入る少年だったが一瞬何かに反応するようなそぶりを見せた。
 次の瞬間に彼の眼に写ったのは、予想だにしない光景だった。光弾が炸裂した少年とその背後に立ち笑い声をあげる男の姿である。彼は眼を疑った、二人しかいないはずの戦場に第三者いたことにではなく、少年が光弾を避けなかったことに、少年は明らかに光弾を受ける直前に男の存在に気付いていた。なのに少年は避けなかったのだ、彼は人の姿になり倒れ伏した少年に駆け寄り問いかける「何故避けなかった!?」その問いに対する少年の返答に彼は耳を疑う、「それでは、君にあたっていたじゃないか」そんな少年の声を聞いてか男はさらに笑い声をあげ「お前は相変わらず馬鹿だな、そんなことして何の意味がある?」と叫ぶ確しかにそのとおりだ、今の今まで自分は敵として少年と戦っていたのだから。
 しかし少年はさらに理解のできない台詞を彼に対して口にする「あの男を止めてあげてほしい、君にならできるはずだ・・・・」そういって少年は気を失った。少年の言葉に戸惑いながらも彼は男に視線を向ける。「なんだ?次はお前が相手してくれんのか?」と言う男の濁った眼を見て彼は悟る「この男も戦いに囚われているのか」

 「この男も?何故自分とあの男重ねて考えている?」しかしどんなに否定しても男と自分の姿がどうしても重なってしまう。
 だが全ての疑問は解決することになる。彼は気が付いたのだ、戦いに囚われていることの虚しさに。いつの間にか彼の眼には涙が溢れていた、今までの自分を思い返すとどうしても抑えることができなかったのだ。
 しかし待ちくたびれたのか「何泣いてんだ?さっさとかかってこいよ」と男は声を荒げ再び叫びだす。
 「ああ、すぐに終わらせよう・・・・」彼は涙を拭きさり男に向かっていった。

 

 数日後、彼はとある丘の上にいた。
 「本当によろしかったのですか?五龍将の地位を辞されてしまって」傍らにいた龍皇軍の一人が代表するように尋ねる。「いいんだ、夢を追うのに地位は必要ないのだから。お前達こそよかったのか?私についてきてしまって」今度は彼が多くの龍皇軍達に尋ねる。「我々はあなたと道を違えることなどできません。我々が数多の戦場から生還できたのは、どんな時もあなたが先陣に立ち守ってくれていたからなのですから」他の龍皇軍達も全員うなずいていた。「そうか、ありがとう。ならこれからもよろしく頼む」 「ハッ!!」龍皇軍達の乱れのない声が響き渡る。少年が彼ならダスクフレアであるあの男を止めることができると確信した理由がそこにはあった。

 彼は上を見上げ、決意を新たにする。追い続けると決めた夢、少年との約束である誰もいがみ合うことのない「平和な世界」を見ることを、晴れ渡る大空のように青く染まったその眼で・・・・。

最終更新:2011年08月18日 22:42