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 青空の運ぶそよ風を、少女は頬に受けていた。 

 中央の領域(リージョン)セント・アゴラ。そのさらに中央に浮かぶ天上の城を、人々は蒼天城と呼ぶ。
 ここは、『孤界産みの母』セシリア=ベルモントが治める神の城。雲の上に白亜の外壁がそびえ、黄金の鐘が時を告げ、美しきエンジェルが空を舞う、神話の光景の天の園。世界の神が住まう御座所だ…。 

 その蒼天城の外壁の上の回廊で、先ほどの少女…リーゼは風に当たっていた。 

 風のフレアは、リーゼ自身を育んだフレア。だからそれは、いつもリーゼに優しい。

 でも、リーゼは、この蒼天城に来てから、その風の中に、いつも以上に優しく心地よい、何か不思議な“あたたかさ”を感じていた。
 その“あたたかさ”の正体は分からない。けれども確かに、それは心地よくリーゼを包み込んでくれているのだ…。

 《バトン→リーゼ》

 

 “あたたかい”風を感じながら、リーゼは街を見下ろす。尤も、眼は失われているので、フレアの流れを視るだけだが。

 特にいざこざは起きていないようだった。感情の起伏は、フレアの流れを変えるので、わかりやすい。

 平穏な街、客人として迎えられた自分。
 何も出来ず、その場に居るだけの自分。
 それはリーゼの生まれた意味としてどうなのだろう。

 「――『助けを求められたから助ける』」

 自分を解放してくれた少年――凱斗の言葉を思い出す。
 それは受動的でありながら能動的な言葉。リーゼが生まれてから現在に至るまで続けてきたものとは若干違う、進む為の言葉

「――『望めるのに望もうとしない』」

 解放への道を切り開いてくれた男性――ライドウの言葉を思い出す。
 望みなんて、リーゼは考えたことがなかった。無意識の内に、思考から排除していた。

 それはリーゼが“そう創られたから”であるが、それをリーゼは知るよしもない。

 リーゼの中のフレアは不思議なまでに一定だ。
 それは人間の感情の内、嫌悪と憎悪と欲望を持たず、悲哀も薄いからだ。故に、リーゼは自分以外の誰に対しても、正の感情しか抱かない。
 否、“抱けない”。

 果たしてそれは意志と呼べるだろうか?
 不完全な自我を持たされた“道具(リーゼ)”は、その身に風を受ける。

 いくつかの疑問が受かんでは、消えずに漂う。解決する術をリーゼは知らない。

  誰かに引っ張られなければ自分のことが認識出来ない。

 ――神は何も言わない。慈悲深く気まぐれな神は。

 《バトン→GM》

 

「リーゼさん、ここにいたんだ?」

 背後から呼びかける高い声。 

 リーゼが振り向くと、そこにはこの城に座す“神子”桜花=ベルモントの姿がある。 

 少し心配そうな顔をして、桜花は言う。

「何か困ったことでもあったの…?浮かない“表情(フレア)”をしてるけど…」 

 相貌(かお)ではなくフレアの表情を読んで、幼女は素直な感情(ことば)を投げかける。

 真っ直ぐな瞳が、リーゼを捉えていた。

 《バトン→リーゼ》

 

「いえ、何でもありません、桜花様。ただ私的な考え事ですので……」

 歩み寄り、目線を合わせるようにしゃがみ、リーゼは小さく微笑む。

「私に何かご用ですか?銀月様でしたら中庭の方にいらっしゃるようですよ?先程、楽しそうなフレアを感じましたので」

《バトン→GM》

 

「そぉう…?まあ、それなら良いんだけど」

 なんとなく疑いながらも、とりあえずその言葉を信じておく桜花。表情を取り直して言葉を続ける。

「銀月のことは、べつにどーでもいーのよ。一人で遊んでるなら放っておけば。…でも、またイタズラをしたら厄介だから、あとで様子を見にいっておかないとね」

 言葉では素直でない気持ちが、フレアではかえって素直にリーゼに伝わる。

「それよりも、ねえ、リーゼ。お母様があなたを呼んでいたわよ。あなたがお城にきてから、なかなか会う時間が取れなかったけど、ようやくそれが出来たんですって」

《バトン→リーゼ》

 

「セシリア様のお顔を拝見出来ること、それを御子様が知らせて下さること、どちらも恐悦至極で御座います」

 くすり、と笑う。

「フレアは正直ですよ、桜花様?」

 立ち上がり、中に入る手前で立ち止まって振り向くと、微笑みを崩さずに言う。

「……ああ、それと桜花様。一つだけ問題を出しますので、時間をかけて、ゆっくり解いて下さい」

「許可を得ないで隠れて何かをするというのは、なぜでしょう?……解答は慌てず、わかった時に。では、失礼します、桜花様」

 ぺこり、と一礼して、リーゼは城内に入っていった。

《バトン→GM》

 

 不思議な回答を神子に残し、リーゼが城内に入ると、案内係のエンジェルが既に控えていて、リーゼを案内してくれる。

 しばししてやって来たのは、何と蒼天城の最奥にある、セシリア達一家の私邸であった。

 これは、極めて珍しいことである。
 普通、セシリアが人に会う時は、外からの客人は勿論、九界士や家臣たちに会う時さえ謁見の間を使う。私邸には通常、セシリア達一家…セシリアと桜花・銀月、それにセシリアの両親以外は入れない。それ以外の者が入る場合は、例え九界士であってもセシリアからの特別な許可が必要なのだ。

 自分自身はその入り口で留まって、案内役のエンジェルはリーゼを中へと促す。

 玄関を開けると、そこにはセシリアが待っていた。

「ようこそ、リーゼ。会えて嬉しいよ。さあ、上がって。お城と違って狭い家だけど、お茶の用意をしてあるから…」

 柔らかな笑みを、女神は投げかける。

 優しい風が、笑顔からそよいできた。

《バトン→リーゼ》


◇リーゼ・現在状態
HP:10
フレア:1/1

▽パス
《セシリア への 尊敬》 


 「お、お会いできて光栄です、セシリア様。ほほ、本日はお招き頂きありがとうございます」

 このようなこと、予想外である。まさか私邸に招かれ、さらにセシリアがカジュアルな格好で出てくる等、誰が予想できようか。

 さらに、床は木の板を敷き詰めたフローリングだ。鳥に似た半身を持つ自分に、傷をつけないでいられる自信が無い。

 リーゼは、不慣れなことの連続で困惑する他なかった。

《バトン→GM》

 

 “女神”にはじめて相対した緊張から、思わずどもってしまうリーゼ。

 その様の愛らしさに、セシリアは思わず彼女を抱き締める。

「もう…。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ…?ねっ…?」

 緊張をほぐすようにリーゼの背中をさするセシリア。

 温かな“風(フレア)”が、リーゼの内側でそよぐ。

《バトン→リーゼ》

 

 「はぅ……す、すみません、セシリア様」

 頬を赤く染め、リーゼが慌ててセシリアを遠ざける。
 その後、小さく深呼吸をして息を整えてから、深々と頭を下げた。

「折角のお招きですが、私の脚は見ての通り爪をしまうことが出来ません。このままでは私の通った場所は全て傷ついてしまいます……」

《バトン→GM》


 深々と下げられた頭と、遠慮がちな申し出に、セシリアは、内心、弱気すぎる少女に心配を覚えながらも、クスリと微笑(わら)ってそれを包み込む。

「心配性だね…、リーゼは。そんなに気を使ってくれなくても、物というものは、使っていく内に傷つくのが自然なんだ。私邸(うち)なんて、上がって見れば銀月がつけた傷でいっぱいだよ…?それをいちいち気にしていても埒が明かない。だから、気にする必要はない…」

 でも…、と言い添えてセシリアは言う。

「リーゼはそれでは気を休められないんだろう…?ならば、お客さんの安心できるように計らってあげるのが、もてなす側の器量というものさ。」

 「少し待っててごらん」と言って、セシリアはフレアを集中させる。

「蒼天馳せて盾と成す…。ディバインシールド!!」

 集中させたフレアを解放すると、青い翼がセシリアの背から広がり、さらに不可知のフレアが蒼天城全体を覆う。

「蒼天城は私の“所有物”だ。だから、《光翼の盾》の防御効果は蒼天城にも効く。これでもう、キミがその足で自由に歩いても、私邸(うち)を傷つけることはないよ…」

「私が護るから、キミに何物をも傷つけさせない…」

 にっこりと柔らかな微笑(えがお)をリーゼに向ける。

《バトン→リーゼ》

 

 「意を汲んで下さり、ありがとうございます。そこまでさせてしまい、申し訳ありません……」

 全体がフレアに包まれたことで、形や間取りが手に取るようにわかる。
 優しくも強いフレアを全身で感じ、リーゼは踏み出した。

 爪の先が床につく寸前、きぃん、と小さな音を発て、フレアに波紋が広がる。床と爪の間に一枚、フレアに依る板があるようだった。

 セシリアに促され、案内を受けて応接間に通された。

《バトン→GM》

 

 応接間にリーゼを通すと、セシリアは一旦席を外し、退出する。
 そして、ティーセットを持って戻ってくる。

「お待たせ…。少し待っていてね。今、お茶をいれるから」

 そう言って、手ずからティーセットをとり、優雅な手付きで紅茶をいれる。

 沸点よりも程良く冷まされたお湯が茶葉に注がれ、上等なアールグレイの香が鼻孔をくすぐる。

 暫し待ち、ティーブラウンに抽出された液体を、セシリアはリーゼと自分のティーカップに注ぐ。
 そして、一杯をリーゼの方に勧める。

「さあ、召しあがれ。お茶受けにクッキーも焼いてあるんだ。ずっとキミに食べさせたくてね…」

 セシリアは目を細め、満面の微笑(え)みをリーゼに投げ掛ける。

《バトン→リーゼ》

 

 卓上のシュガーポットから少量の砂糖を紅茶に入れ、音をあまり発てないよう前後にスプーンを動かしてそれを溶かす。

 カップを口元へと運び、息を数回吹いて冷ましてから、少しだけ口に入れた。

「ん……、……美味しい」

 自然と、笑みが溢れる。

 はっ、と気づいたように慌ててカップを置いて、口元を一度隠し、表情を正す。

「セシリア様。……お話とは、何でしょうか……?」

《バトン→GM》

 

 リーゼが自然に見せた笑みと、慌てて居姿を正す仕草。そのひとつひとつを見ながら、セシリアは思わず顔を綻ばせる。
 それから、その微笑(え)みを湛えたまま、リーゼの問掛けに答える。

「もう、用事の半分は済んでいるよ…。キミのその笑顔が見たかったんだ」

「だからそれを隠さないで…。私の前では、いつも素直なキミでいてほしい…」

 笑顔のフレアで包み込み、女神は巫子に語りかける。

《バトン→リーゼ》

 

 セシリアのフレアは、青空や海のように澄み渡り巨大で美しい。
 そして何より温かい。

 だからこそ。

「そのようなこと畏れ大い!信仰も失ったただの“化け物(げんじゅう)”である私が、女神様の前でそのようなこと!」

「……巫女とはいえ伝えるべき人々を失い、他に何も出来ない故にただの厄介者で御座います」

「笑顔を向けて下さる御子様方の手前、なかなか切り出す事が出来ませんでしたが、いつまでも甘えているわけには……っ」

 論点がズレている。
 それを正す為、一度言葉を切り、荒げてしまった息を整える。

「私は神の言葉を伝えるのみ。神を視る資格も、神と話す資格も無いのです。……私は自分を騙せません。素直も何も、私には何もありません……」

《バトン→GM》

 

 「私にはなにもない」と言い切る少女。
 過剰に遜(へりくだ)り、自分を卑下しているようにすら見えるその態度に、いとおしさを掻き立てられて…、だからセシリアは温かなフレアで言う。

「ねぇ…聞いて、リーゼ。私はキミに伝えたいことが三つある。だから良く、私の言葉に耳を傾けて欲しい…」

 セシリアは、自分の両の手で、リーゼの手を取り、そっと優しく包み込む。

「ひとつは、ここでは誰もキミを差別しない、傷付けないということ…」

「このセント・アゴラには、沢山の種族が暮らしている。人ばかりでなく、幻獣も龍もグレズもいる。皆、姿も願いも様々だ…。だから、隣人が自分と違うということで差別する者はこの領域(リージョン)にはいない…」

「キミはここに居て良いんだ…」

 結んだ手からフレアが流れ込む。
 それは、とても温かな風(フレア)だ。

「もうひとつは、キミは何かを望んで良いということ…」

「もし、キミがこの城で、為すべき役割を持てずに所在なさを感じていたのなら、それがひとつの答えだよ」

「キミは自分のことを信仰を失った巫子だと言った。伝えるべき人々を失った何もできない厄介者と言った。でも、キミがそうして役割を失ったことで、キミ自身を卑下するなら、そこで失われたものこそ、キミの望みじゃないか…?」

「セント・アゴラには世界中から色々な人々がくる。その数だけ導きを必要としている人々が居る…。もし、キミが失われた役割を望むなら…、その人々のために天律を伝えてほしい…」

「キミにはキミにしか果たせない役割がある。キミの言葉を必要としている人々が居る。キミは畏れなくて良い…。キミは遜(へりくだ)らなくて良い…」

 結んだ手から伝わるフレアが、リーゼの胸を熱くする。
 それは、とても懐かしい風(フレア)だ…。

「それから…さいごのひとつ。それは、私がキミを愛しているということ」

「キミはこの世界の風から生まれた幻獣だという…。この世界は、私がマーキュリーにフレアを注いで産み出したもの…。だから、この世界の風も水も、私のフレアから波長が分かれて生まれたものだ…」

「だから、私にとってキミは娘のようなものなんだよ…」

「だから、私はキミを愛している。だから私から距離を空けないでほしい。私を畏れて遜(へりくだ)らないでほしい…」

 溢れ出る愛情に自分を抑えられず、セシリアはそのままリーゼを抱き締める。

 リーゼを包み込むその腕から、優しい風(フレア)が流れ込む。
 それは、この蒼天城に来たときからずっと感じていた優しい風。リーゼを生んでくれた懐かしい風だ。

 その風は、リーゼの中の風(フレア)を活性化させる。
 それは、リーゼがセシリアの被造物(むすめ)であるという証の現象だ。

「だから私は、キミの笑顔を必要とする」

「キミは確かに必要とされている存在なんだよ…」

《バトン→リーゼ》

 

 言葉を胸の奥で噛み締め、優しいフレアを感じ取る。

 自分を卑下するのは、他に誰も居ないから。
 リーゼの内側には何もない。伽藍洞の心には、特定の人物も、思い入れのある物品も無い。

――願って、望んで欲するものが無い。

 本質的に無欲。
 無欲であるが故に他人を負の評価が出来ず、何をされてもその者には何も思わない。リーゼの内側にあるのはリーゼだけ。
 故に彼女が傷をつけるのは己の心のみである。

 だが、彼女は壊れない。
 壊れることは、認められていない。彼女は見えない鎖で縛られている。

 故に――

「セシリア様……私に願いはありません。私の存在理由(やくわり)に“願うこと”は反しています」

「私の方から何かをするのは、求められていないのです……」

「私の力が必要とされるなら、私は私の役割をこなせるでしょう」

「私は望まれて生まれました。私はその望みの通りに、預かった言葉を皆様にお伝えするだけです」

 ですが、と一度言葉を切り、リーゼはセシリアを抱き締め返す。

「私は満足しています、セシリア様。私は“負の願い”ではなく、“神に助けを求める願い”から生まれたのですから」

「少しだけ歪んでしまっているだけで、真っ当な願いです。悪い方に転んだところで、私が夕闇に飲まれるだけ。……誰も不利益を被りません」

「素晴らしい世界を創造して下さってありがとうございます。これ以上、何を望みましょう?過ぎたものは必要ありません。ですから、私は何も望みません」

 それに――

「本来なら端末でしか無かったはずです。ですが、黒いドレスを着た角のある女神様と出会い、私は私になりました」

 リーゼはセシリアに、その女神の特徴を告げる。
 それはセシリアの記憶の内で、一人の魔王と繋がる。世界に溶け込んだ、一人の魔王と。

「私は幸せです」

《バトン→GM》

 

 リーゼから一人の女神の特徴を告げられて、セシリアはひとつの名前を思い出す…。

「(ディアマナ様…、貴女はやはり……)」

 それは、とても懐かしい名前…。
 それは、とても切なくなる名前…。
 樹木の世界(ウッドワールド)創世に尽力した、一柱の悪戯な魔王の名前…。

 だからセシリアは、リーゼを抱く腕に力を強める。

「ねえ…、リーゼ。私だって、分かっていたんだよ…。キミが本質的に“望み”を持てないことが…。キミには悪いけど、キミのことを色々と探らせてもらっていたからね…」

 でも…、とセシリアは断っていう。

「それでもやっぱり、キミは望むことができるんだよ…」

「いつか、きっと、キミは何かを望むことができるようになる…。この世界で、沢山生きて、沢山の人達に触れて、いつか何かを望むことができるようになる…」

「キミに“望む”ことを与えるのは、私ではないだろう…。それははじめから分かっていたんだ…。それでも私は、キミに手を差し伸べたかった…。だから私は、キミに会いたかった…。私にできる、私の役割を、キミに果たすために……」

「私にできることは…、私の役割は…、キミはいつか望むことができるようになる…。そのことを伝えること……」

「なぜなら……」

 そこで言葉を切り、潤む瞳でリーゼを見つめながら、セシリアは伝える。

「キミをキミにしてくれた黒いドレスの女神さまは、『願うことを願った』女神さまだから…」

 瞳から想い(フレア)があふれる。
 それは、緑の色の奥底で、強く優しく輝く…。

「(この言葉を伝えられるのは、貴女の名を知る私だけ…。貴女のその遺志は、きっとこの子に自らの望みを望めるように願っている…。私は、そう信じていますよ…。ディアマナ様…)」

 潤む瞳で顔を近づけ、自らの頬をリーゼの頬に寄せる。

「それから…、もうひとつだけ覚えておいて…」

「私は、キミのことを聞いた時、キミに言葉を伝えたくてならなかった…。黒衣の女神さまのことを伝えたくて…、だからキミに会いたかった……」

「でも、会いたかった理由はそれだけじゃない…。キミが私のフレアから生まれてくれた娘だから…、だからずっと会いたかった……」

「会えて嬉しいよ…。キミの笑顔が見れて嬉しいよ…。だから、夕闇に飲まれても誰も不利益を被らないだなんて言わないでほしい……」

「キミが夕闇に飲まれてしまったら、私は悲しい…。キミが居なくなってしまったら、傷つく人がいる…。不利益を被るとはそういうこと…。誰かに必要とされるというのはそういうこと……」

「私はキミを必要としている…。キミが何も望まなくても、キミを望む人はちゃんといる…。そのことを、良く覚えておいてほしい……」

 セシリアは、潤む瞳のままリーゼの頬から頬を離すと、そっと額に接吻(くちづけ)をした…。

《バトン→リーゼ》

 

 セシリアから離れるまで待ち、リーゼはフレアの流れを感じ取る。

「そう言って下さる方が居るから、私は何も望む必要が無いのですよ、セシリア様」

「何度でも言いましょう。私は幸せです。……幻獣である私は、望まれたが故に生まれてきました。私は見捨てられていない。なんと幸せなことでしょうか」

 小さく微笑む。

「“望むことを望まれなかった”私の中に“望み”はありません。私は私自身に枷をつけているのかも知れません。……望んで良いのかわからないのです」

 そっとセシリアの手を取り、手の甲に唇を触れさせる。

「望みが無いから、誰かを怖れたり、嫌ったり、憎んだり出来ない。私に感情があるのか、それすら曖昧で……」

「壊れそうになった事もあるけれど、いつの間にかそれも曖昧になって」

「私は誰なのか。誰とは何なのか。思いや考えとは存在するのか。そんな事を朧気に思う、“自我を持つ操り人形(こわれたマリオネット)”」

「それでも私は微笑うのです。私に求められているのは、許されているのは、笑顔と希望と伝言ですから」

《バトン→GM》

 

「(それでもキミは望んで良いんだよ…。それがキミを作った“女神”の意思なのだから…)」

 それをリーゼに伝えようとして、セシリアは言葉を止める。

「(一度伝えた言葉だ…、二度伝えるのに意味はない…。頑な心に、言葉は意味を成さないから…)」

 胸の奥でリーゼの言葉を反芻し、セシリアは僅かな悲しみを抑える。

「(私が伝えるべきことは伝えた…。ならば、それ以上の望みは、彼女を傷付けるだけの傲慢。あとは、彼女と宿命を繋ぐ若きカオスフレア達に任せよう…)」

「(それに…、彼女は現にこんなにも幸せそうじゃないか…。今の彼女が幸せなら、わざわざ心を騒がせることはない…)」

 リーゼの微笑(えがお)に、安堵と幸福を覚えて、セシリアは言葉を心の奥に押し込める。
 リーゼの頑さの奥に感じた、見覚えのある嫌な“感覚”とともに…。

「思う故に我在り」

「私の言葉じゃない。ある哲学者の言葉だよ…。疑問を持てるなら、疑問という思惟は確実に存在する」

「心を自我や感情や思惟に分ける意味はない。それらは全て等しく心だよ。だから、紛うことなくキミは存在する…」

 真摯な瞳でそう語ってから、フッと自嘲気味に微笑(わら)って言う。

「なに…、益体もない唯の言葉遊びさ…。それこそ、こんな言葉に意味はない…」

 それから、いつもの柔らかな微笑(え)みに戻って、クッキーを載せた皿をリーゼに勧めながら言う。

「さあ、これでも食べてまた笑顔を見せてよ」

「それから、良かったら、暫くは城下で天律を人々に伝える仕事をしてみてくれないかな…?」

「セント・アゴラは、コラプラーの方々との繋がりが深い。だから、城下にも神々の知恵に与かれる施設が多いんだ…。施設(みせ)は私が用意してあげる。需要も多いけど、ライバルも多いから、もしも引き受けてくれるのなら、頑張らないとね…?」

 セシリアは自身の紅茶を一口すする。

「いずれにせよ、暫くは蒼天城に居てほしい…」

「私にも、桜花にも、キミの微笑(えがお)が必要なんだ」

 そう言って、セシリアは満面の微笑(え)みを向ける。

《バトン→リーゼ》

 

「天律を伝えることは構いません。それは私に与えられた役目です」

 リーゼはクッキーと紅茶を口にして、今度は隠さずに微笑むと、言葉を続ける。

「ただ、私自身に神の意志を求める力は有りませんから、必要な時に得られるものでは無いでしょう」

「私は詠んで伝えるだけです。神が私に見せた文章を」

 そう言って、眉尻を下げる。リーゼの力は、神に問い掛けるのではなく、神の言葉を伝えるだけなのだと。

「それでも、私を必要としていただけるなら、私は貴女様に従います、セシリア様」

《バトン→GM》

 

 リーゼの言葉を聞き、セント・アゴラの領域主(ロード)は断を下す。

「わかった…。それじゃあ、リーゼのための施設は、リーゼに天律が下された時に、それをいち早く知らせるための、情報発信施設とすると良いだろう…。細かな運営方法はキミに任せるよ。解らないことが有れば、私なり、私の家臣たちに尋ねるが良い…」

「セント・アゴラには世界中から旅人達が集まる。気まぐれに下される情報を、世界のどこかに居る適切な聞き手に届けるのに、この街ほど向いた所もないだろう。キミの声が、よく人々の導きとなるよう、私も願っているよ…」

 凛として揺るがず、しかし優しさを秘めた声が、部屋に響く。

「それから…、もしキミの預言が、ダスクフレアの出現や、ひとつの領域の危機の様に、樹木の世界(ウッドワールド)全体の行く末に関わるものであったのなら…、その時は一番に私に知らせてほしい…。約束だよ…?」

 強き瞳で意志を伝え、リーゼの肩に両手を置く。

 それから再び、微笑(えがお)に戻って言う。

「それじゃあ、楽しいティータイムにもどろうか。クッキーのおかわりは要るかい?」

《シナリオ終了》

 


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最終更新:2011年07月28日 03:13