クロエは夢を見ていた…。それは、初めて聞いたようでもあり聞き覚えのあるようでもある不思議な声の夢……。
暗く深い夢の意識の奥底から、その“声”は響く。
「さあ…、伝わっただろう…?キミの大切な弟の心の声が……」
「それは、これから先、キミが為すべきことのヒントだ。“私”の届けたキミの弟の声に対し、キミが感じたこと…、伝えたいと思ったこと…。それがキミの“願い”を叶える鍵と成るだろう…」
「そして最後に、良く覚えておいてほしい…。それは、キミの弟の状態についてだ……」
“声”に応えて、黒い空間にボウッとアベルの姿が浮かぶ。闇の中のアベルは、先日病室で見た時と同じの、安らかな寝息を立てている。
そこで、“声”が念じると、アベルの胸から赤と黒の入り混じる業炎が立ち上る。
「既に届けた通り、キミの弟は強烈な“願い”の中にいる…」
「それは、とても強い“願い”だ…。異常な、と形容しても良いくらいだろう…。物事を“正常”という線引きで捉える、キミ達の捉え方に合わせるのなら…ね……」
「そして、その“願い”の原動力は、自らが父親に愛されていないという“渇き”にある……」
「渇いているからこそ、夕闇の種をその身に植えられながら、それを拒み続けるほどの力があるんだよ……」
赤く黒い炎を見ながら、“声”は心底感心したような調子でそう言う。
そして、悪戯っぽい調子で問い掛ける。
「今の彼は、ある意味で誰よりも強い存在だ…。夕闇よりも、光よりも…ね……。では、そんな彼を殺す術があるとしたら何だと思うかい…?」
「彼を殺せるものはひとつ…。それは、“満ちる”ことさ……」
「“渇き”が満たされれば、“願い”の原動力が止まる…」
「原動力が止まれば、“願い”は夕闇に太刀打ちする力を失う…」
「彼が“満ちる”とき、彼は夕闇に堕ちるんだ……」
「“満ちる”ことは、絶頂と同時に破滅をもたらす…。その二つは、ひとつの方向の終点という意味で同じものなんだからね……」
“声”が語り終えるのと同時にアベルの胸の炎は消え、そしてアベルの姿も消える。
「さあ…、“私”からのヒントはこれで終わりだ……。あとは全て、キミの心に掛かっている……。救うも、破滅させるも、存分にすると良いだろう……」
不思議な“声”はクロエの夢より遠ざかる。
それは、若者の声のようでもあった。
それは、老人の声のようでもあった。
それは、応援の声のようでもあった。
それは、試練の声のようでもあった。
星を導く声は遠く、小さな警告を示して届く。
その声が6つの炎を揺らすのは、まだ先のこと……。