「ロンだ」
正面から届く重く静かな声を聞いてハッとする。
薄暗いこの6係のプレイルームにいる所為かボーっとしていたら振り込んでしまったらしい。
「・・・疲れているなら休んだらどうだ 裏ドラ乗っかって満貫だ」
「いや、大丈夫だ。 やっぱり、ここの照明はもっと明るくした方がいいな」
正面に座っているのは五郎丸重三。年齢・出身地・人種・本名、いずれも不明だが、特A級のスナイパーだ。
「ふん、どうせ見栄を張ってコーデリアさんの任務を受けたのだろう! やはり貴様のような軟弱なエージェントがコーデリアさんの隣に居るのは間違ってるのだ!」
右で怒鳴っているのはグロウ・ハンスというアントロポスだ。
牛のような身体に変身し、文字通り猛牛の様な突進をする彼は6係での切りこみ隊長のようなもので、脳筋であることを除けば、非常に優秀なエージェントである。
面白い事になんでもコーデリアに惚れているそうで、近くに居る俺の事が気に食わないらしい。
「ククク・・・緊張感が足りないんじゃないか・・・? やっぱり血液賭けた方が盛り上がるぞ。死んだら俺が泰山府君祭やってやるから」
「だまれ、異常性癖め。そんなに追い詰められるのが好きかよ・・・」
左に座るこの男は崔・黄(サイ・フォアン)見ての通りのギャンブル狂い。別にアゴはとがっていない。
再び麻雀牌のジャラジャラという音が個室に響く。
現在、黄が独走一位、二位に重三、三位に俺、ほぼ同率でハンスが続いている。
山を積みながら、黄は言う
「ところで、お前たち 失敗についてどう思う?」
この男は時折、奇妙な事を聞く。人生観や価値観を知ることが一番良い刺激になるそうだ。
一番手に語るハンスの思考はいつもシンプルそのものだ。
「失敗については考えないようにしている。そもそも、悔む時間が無駄なのだ! それならば俺はトレーニングの時間を増やす」
無駄を嫌うのではない。鍛錬と才能はついてくるものだと信じている。そして、その無茶な鍛錬についてくるだけの才能もある。
反して
「失敗とは“いつもと違う行動”の事だ・・・ いつも通りに行動していればそもそも失敗ということはない・・・」
茂みに潜み、狙いを定め、撃つ。
行動のシンプルさこそが失敗をしない最大の要因であると言う「では、その行動を取れないように相手が行動してきたらどうする・・・ 伏兵を見破るのは軍師の仕事だ・・・」
黄が反論するが何食わぬ顔で
「そもそも、その思考が間違いだ。 狙撃に最高の環境が揃わない限り撃つことはない。狙撃とはそういうものだ。」
「失敗か、色々ある。だが、全てに最適解はある。失敗は対応できるか否かでは無い。どれだけ、失敗を抑えられるかが重要だ。」
自分の至らなさ、実力不足、俺の失敗のほとんどは才能の無さだと思っている。だが、それでも持ち前の手札で何とかしてきた。つまり、どのような失敗でも命さえ失わなければ勝ちだ。
「なるほどな。皆、一様に失敗を糧にしてきたわけだな。」
「失敗を糧に、か。」
ぽつりとつぶやく。そして、言ったあとで気づいた。
俺にとって失敗する事は失う事と同じだ。
一体、いくつ失ってきただろう。
手に入れるために、守るために、そして、闘うために。
これからも失敗し続けるだろう。
つまり、俺は失い続けるのか?
まだ、何も解決していない。
小夜のことも、聖石のこともいまだ何も成していない。
ドウチュウ鬼との決着までに俺は失敗し、どれだけ失うのか・・・
不安が脳の中に広がる。
もし、ずっとこのままだったとしたら。
そう、思った瞬間
「「「心配はいらない。貴様は選ばれた」」」
卓に座る三人から同時に声をかけられる。
顔をあげた瞬間、キリキリと頭を締め付けられるような痛みがはしる。
なおも声は頭に響き続ける。
「貴様は自身に才能が無いと思っているようだがそれは間違いだ。お前の中には我を受け入れるだけの覚悟と失敗がある。」
「失敗だと・・・!?」
「そうだ。我は世界の失敗を記録するもの。失敗者の王、そして逆説的成功者の王となる。そして、貴様もいずれそうなる」
「なんだって・・・?何を言っているんだ!」
「したたかに足掻け卑小なる失敗者よ。いずれ、全ての失敗を見て、逆説的成功者となるために!」
そこで、声は途絶えた。
その後、卓に突っ伏した俺を医務室に運びいれた三人に聞いたことだが、山を積んでる途中にぶっ倒れ何事かブツブツつぶやいていたらしい。
医務班によれば新しいサイバーウェアが誤作動を起こしたのではというが、足を動かすソフトウェアが幻覚を見せるとは考えにくい。
何もはっきりしない、その一方で確信している部分が一つだけある。
あの声の主はいずれ現れるだろうと。
俺を失敗者の王とするために。