出された善にほとんど箸をつけず、少女は箸を箸置きに置く。
「御馳走様でございました・・・」
「御城主様…、お口にお合いしませんでしたでしょうか…?」
腰元に問われた少女…小夜はゆっくりと頭を振って答える。
「いいえ・・・。ただ・・・、あまり食欲がなくて・・・・・・」
そのくらいのことは腰元も察している。ここ数日、ずっとこの様子なのだ。しかも、変化は食の量ばかりでない。愛らしい顔から笑顔は消え、輝いていた瞳はくすみ、見る者を平伏せさせた王気もすっかり薄れてしまっている…。
主の身に、何か大きな変化が起きたことは明らかだ。
だが、だからこそ腰元は食事を勧める…。食は命の源なのだ。
そして、この主に箸を取らせるには、主自身の身を案じるより、主に家臣を気遣わせた方が良い。料理が口に合わなかったのかと問えば、この主は料理人を気遣って多少無理をしてでも食べる。だから料理に落ち度があったかのように聞いたのだ。
だがそれも、上手くはいかなかったようだ…。
腰元はひとり心配そうに主の小さな背中を目線で追う。
「(穴が空いている……)」
「(わたしの心(なか)に、とても大きな穴が……)」
自室に引きこもり、小夜はひとり虚ろに想う…。
「(この、決して埋め得ない、とても大きな喪失感は何……?)」
「(ダスクフレアのせいで、お父様とお兄様が亡くなってしまったから……?)」
答える者のない問いを、少女は問い続ける。
「(そう…だと思う……。どう考えても、そうとしか思い当たらない……)」
「(でも……)」
「(何故かそれとは違う気がする……)」
「(お父様を亡くした喪失(あな)…、鷹也兄様を亡くした喪失(あな)…。でも、今感じているこの喪失(あな)は、そこから少しずれている気がする……)」
「(何か……、お父様がいなくなって、鷹也兄様がいなくなって…、でも、それでもたったひとつ残っていた最後の希望(ひかり)があったような…、そんな気がするの……)」
「(そして、その希望(ひかり)が急に消えてしまったような……、そんな喪失感(さびしさ)がする……)」
「(ついこの間まで希望があったような痕が、確かにこの胸にあるの……)」
自問自答を続けるほどに、少女の顔は曇って行く。より深く…、暗く…。
「(けれども……)」
「(この穴(そうしつ)は、きっと私への罰なんだわ……)」
「(理由は分からない…。理屈には成らない…。でも…、そんな気がする……)」
「(だから………)」
少女の暗い瞳(め)は、虚ろに空を見る。
「(受けよう…、この罰を……)」
「(この胸に喪失(あな)を穿ち続けることが、私の罪(うらぎり)への償いの道……)」
「(なくしてはならない…、この痛みを…、この喪失感を……)」
「(もとめてはならない…、救いも…、取り戻すことも……)」
「(苦しみ続けることが、弱いわたしへの償いなのだから……)」
小夜が病の床に伏せったのは、それから間もなくしてのことであった……。