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近況

ノモンハンでの戦闘において、航空戦では日ソ双方が異常なまでの戦果誤認をしていたことはよく知られている。超硬派ウォーゲーム
でおなじみジェネラルサポートの阿部デザイナーの記事が参考になるが、wikipedia日本語版・英語版にもいくつか記載がある。まと
めると以下の通り。

資料名 日本主張の戦果 日本側被害 ソ連主張の戦果 ソ連側被害 備考
航空情報別冊「世界の戦闘機隊」 1340 171 660 207
丸648号 1340 171 660 207
ソシンスキー「日ソ戦争と外交」 660 207
牛島康允「ノモンハン全戦史」 1370 上記1340+地上撃破30
戦史叢書「陸軍航空兵器」 1389 192
桑田悦「日本の戦争」 166
秦郁彦「ノモンハン戦の総括」 1260 176 646 249 各数値の出典と内訳はリンク先参照
wikipedia日本語版 157 251 ソ連の損害は戦闘損失208+非戦闘損失43。出典は
古是三春「ノモンハンの真実 日ソ戦車戦の実相』」
日本側被害は大中破も含むとあるが出典がない
wikipedia英語版 163 208 いずれも戦闘損失。出典は記載されていない
注:書籍の出典は阿部氏記事。wikipediaは2025/6/11閲覧時点での記述
日ソどちらも戦果を数倍に誤認していることが見て取れる。ソ連側が4倍程度に過剰評価しているのに対し日本側は6倍近く誤認してい
る。その理由については阿部氏記事に詳しい。「どのくらい敵機を撃墜したか」は分からなくとも「どれくらい味方機が損失したか」
はしっかり分かるため、どの資料も損害に関してはおおむね同じ数値であり、日本側損害160機+α程度、ソ連側損害200機+α程度とな
っている。

これを踏まえた上で、ノモンハン航空戦での日本側エースパイロットの撃墜数を見て欲しい。
氏名 ノモンハンでの撃墜数
篠原弘道 58
垂井光義 28
島田健二 27
花田富男 25
斎藤正午 25
加藤正治 23
東郷三郎 22
大塚善三郎 22
浅野等 22
細野勇 21
斎藤千代治 21
吉山文治 20
岩橋譲三 20
この表の出典はミリタリークラシックvol21(2008年春号)。表の枠外に注記があり出典は酣燈社「第2次大戦 世界の戦闘機隊」昭62.
7であるとしている。さらに阿部氏記事にある古郡吾郎曹長の20機を含めた14人が、「ノモンハンで20機以上撃墜したパイロット」で
ある。この14人だけで354機も撃墜していることになる。(阿部氏記事では「岩橋譲二」となっているが、google検索では岩橋譲三の
方が多いので阿部氏の誤記だろう)

この354機は実際のソ連側の損害200機少々よりはるかに多い! 疑いようもなく大量の誤認が含まれているわけだ。これだけなら「戦
果をしっかり確認するって大事だね」で終わりだが、話はここからだ。明らかに過大なこの撃墜数はそのまま修正される機会もなく現
代まで引き写されており、例えば2024年に出た「日本陸軍戦闘機隊 2 エース列伝」でも、試し読みできる部分を見ると浅野等准尉の
撃墜数22機を注釈もないまま記している。ネットに転がっている「日本の撃墜王ランキング」も、特に陸軍に関して大幅に更新が必要
となるだろう。

とはいえ、では本当の撃墜数は何機なのか聞かれれば答えるのは非常に難しい。実際にどうやって調べるかと言えば、部隊レベルであ
れば各パイロットが出撃した日時や場所を確認し、それをソ連側の資料と突き合わせ、調書や報告書、さらには手記から戦闘の様子を
書き出して……といった具合に調査していくのだろう。しかし、そこからさらに一歩進んで「この戦闘で誰が何機撃墜したか」を一つ
一つ確認するのは極めて困難なことが容易に想像できる。だいいちどこに行けばそんな資料を目にすることができるのか。仮に、資料
が山ほど残っていて、誰でも簡単に調べられるとしてもだ。軍事学や歴史学の研究者は戦闘機パイロット一人一人の撃墜数などに興味
はない。軍事雑誌はそんな記事を書いてもウケない。軍事オタクは心情的に「日本のエースパイロットの撃墜数は過大でした」などと
言いたがらない。

篠原准尉の本当のスコアは3分の1された20機だったかも知れない。仮にそうなったとしたら「これじゃ撃墜王じゃなくて誤認王じゃな
いか」と彼の名誉が傷つけられるだけであって、名誉が回復したり汚名をそそぐ人が出てくるわけでもない。強いて言えばソ連軍パイ
ロットの再評価にはなるが、日ソ間の航空戦の推移自体はとっくに分かっているのだし、個人の撃墜スコアが上下したところでノモン
ハン事件の通説に変化があるわけでもない。端的に言って、「本当の撃墜数」を明らかするのは容易ならざる大仕事なくせにやったと
ころで誰も得をしないのである。

結局のところ、阿部氏のこの記述が核心をついているだろう。
僕達はそう簡単に「嘘つきは誰だ!」と詮索する訳にはいかない。「航空戦では誤認が付き物」ってのは日ソ双方どころか世界各国で
共通だしね。まあ航空戦に限らないが金科玉条の如く数字を信じたりせず常に「多分、誤認もあるのだろう。」と言う感覚で数字を
見てゆく事を知って頂ければ僕としては大変、嬉しい。
翻って現在のウクライナ・ロシア間の戦争でもこの感覚は有効だろう。ウクライナが、あるいはロシアが公表する大戦果を鵜呑みにし
てはならないのである。騙すつもりがなくても誤認はある。誤認された数字は訂正されることもなく一人歩きをする。ゆめゆめ忘れな
いようにしたいものだ。



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最終更新:2025年06月20日 20:14