679 名前: 774RR [sage] 投稿日: 2008/05/14(水) 19:55:27 ID:ceVGK5VD

初めて革ジャンを買った日は、彼女との別れが決まって、この日の記憶を一生背負い込むためだった。

というのは建前だったのかも知れない。

少し自棄になったのも後押しして、前から欲しかった革ジャンを中古で買った。
二万一千円だったけど、当時は本当に金がなくて、その月は毎日雑炊を食べる覚悟で買ったんだ。

7年前に作られて、ヤレもほとんどなく新品同様だったから良い買い物だったと思う。
買ったその足でテッカテカの革ジャンを着てバイクカフェへ。
彼女との別れは辛いけど、ニヤニヤにやけて止まらない。コーヒー一杯で数時間粘った。
その日の夜は、彼女が残した手編みのミサンガ(のようなもの)をベルトの所にくくりつけてまだ堅い革ジャンを着て寝た。

あれから三年。
雨の日も走った。時には枕になり、掛け布団になり、座布団になり。
炎天下の日中はパッキングにくくりつけて、夜になるとTシャツの上から羽織って走った。
旅先でふと別れた彼女の事を思い出したりもしたが、どこかの道端に置いてこれたと思う。
実際、ミサンガはどこか遠い所でちぎれて飛んでいった。
テカテカだった革ジャンは荒い使い方のせいかクタクタになっていったけど雨上がりや気が向いたときなんか、
たまに薄くオイルを塗っている。修理だってなんだってして、この先ずっと着てやるさ。

雨水。
焚き火とタバコの煙。
ディーゼルの黒煙。
遠くの土地の砂埃。
こぼれたガソリン。
汗。
新しく出会った人の匂い。

彼女の記憶を背負うつもりだった予定だったのが、いつのまにか彼女と別れてからの記憶を背負って走っている。


だからな。
人の革ジャンが安物だの、小汚いだの、手入れが悪いだの。言うな?
そんなに臭ってないと思うし。

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最終更新:2009年01月20日 23:42