636 名前: 774RR [sage] 投稿日: 2008/02/27(水) 23:40:41 ID:zDLBlkEB
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背中押してくれてありがとう。推敲しながらだから手間取るけど、頑張るよ
俺には『Aさん(仮名)』という2歳上の先輩がいる。
大学時代、同じサークル内でバイクのあれこれを手取り足取り教えてくれた、ちょいとお調子者の先輩だった。
彼の卒業後、久しく会う事も無かったのだが、就職した会社の新人研修先が彼の地元近辺だった事もあり、
「Aさんの顔、見たいな」
と思い立った10年近く前の、とある春の日のお話である。
「あ、Aさん?ご無沙汰してます。今度こちらにふた月ばかり滞在する事になったので、これからご挨拶に伺いたいと思うんですが」
「おお、お前か!俺を覚えててくれたとは暇な奴だ。ん、俺?暴走四駆に爆撃されて現在、入院中。
大した事無いから、午後にでも来なよ。いや、変に気を遣って美味いものなんか差し入れなくてもいいからな。
腹は減ってるけどさw」
携帯の向こうから聞こえてくる、相変わらずのAさん節。医療機関での携帯使用が何かと騒がしく取り沙汰されつつあった当時の事である、
「入院中だと知ってたら、携帯なんか使わなかったのに」
と苦笑する俺。前年に購入した相棒VFRを見せびらかしたい気持ちもあったのだが、
生憎研修先へのバイクの乗り入れはNGとのお達し。忸怩たる思いを胸に、俺は最寄りの駅へ急いだ。
北国のローカル列車に揺られること1時間弱、城下町の駅を降りて徒歩15分ばかりの場所に屹立するその病院は、
整形外科分野ではかなりのスタッフを擁すると地元でも有名だとの事。
受付で面会時間の確認をした後ロビーの案内標識を頼りに、俺はAさんの元へと向かう。
「よう、わざわざご苦労!道に迷わなかったか?何しろお前は昔から方向音痴だったから心配してたぜ」
一人部屋の病室に入るや否や、笑顔で俺を迎えてくれたAさん。短めのスポーツ刈りも、
舌足らずながら伝法な口調も何から何までかつてのままだ。但し、大柄なその身を車椅子に委ねている事を除いては・・・。
「見ての通りさ、俗に言う『脊髄損傷』ってやつだよ。なあに、そんな大げさなもんじゃねえ」
頭からザワッと血の気が引いた。恥ずかしながら不勉強だった当時の俺には、『脊髄(脊椎)損傷=自立歩行不能』ってな
固定化されたイメージしか頭に無かったんだ。
「でもそれって、けっこうやばいんじゃ?下手打ったら一生半身不随でしょ!」
「そりゃあ当たり所に拠るさ。俺の場合は『胸椎』ってやつをロックオンされちまったんだけどね。
リハビリ次第じゃまた歩ける様になれるらしいが、医者さまに言わせると
『今まで通りスポーツバイクを操るのは諦めた方がいいでしょう』ってよ。
医者のコメントってのは何かと大袈裟だから困る。しかしバイクなんざ所詮ガキの乗り物。
社会人の俺にゃこれっぽっちも未練は 無いけどな。まあ、全快した日にゃまた乗ってやらん事も無いが」
俺の無知を嘲るかの様に、あっけらかんと自らの病状を笑い飛ばすAさん。聞くところによると、
コンビニで雑誌を買って店を出た途端に後方から突っ込まれたのだとか。
「いやホント、買った雑誌がH本じゃなくて良かったわ!H本入りのビニ袋抱えたまんま救急車で搬送って事になってみろよお前、
末代までの笑いもんだぜ」
心底ホッとする俺。これだけの減らず口を叩ける元気があるんなら、ライダーとしての復帰もそう遠い日では無いかもな、
スポーツバイクは厳しいにしても…。
「青木とかレイニーとか知ってるだろ?あんなビッグネームと似た様な怪我だぜ、俺。ある意味光栄だよな!
まあ、バイクに乗ってる最中の怪我じゃないって辺りがちょいと間抜けだけどさ」
「先の見えねえ怪我で入院なんかしたら、一般企業じゃ今のご時世即解雇かも知れないな。いやあ、今回ばかりは『親父の
会社を継ぐ二代目のドラ息子』ってな星の生まれに感謝だよ、うん」
その後も堰を切ったかの如くAさんは喋る喋る!ややもすれば在学当時を超えるハイテンションである。
言葉は悪いが『危ない薬でもキメてんのかこの人』みたいなノリだった。
そう、まるで見えない何かから必死に逃れようとでもしているかの様な・・・。
「でもぶっちゃけた話、現状の回復具合はどうなんですか?」
「正直、左脚はまだ殆ど感覚無いんだ。しかしそのうち何とかならあな!」
『何とかならあな』
かねてからのAさんの口癖である。在学当時、この言葉を言い放ったAさんに何とか出来ない事など無かった。
その口癖を久々に耳にして心のタガが弛んだのかな?購入したVFRでショップ主催のマスツーに赴いた事や
7号線で事故りそうになった事など、その後のバイク生活をAさんに負けじと畳みかける様に嬉々として面白おかしく語り倒す俺。
Aさんも始終ニヤニヤ、そしてたまに手を叩いて爆笑しながら俺の話に耳を傾けている。
で、どのくらいの時間が経ったであろうか。いきなりAさんは車椅子を器用に旋回させ、陽光差し込む窓辺に目をやり溜め息混じりに
ポツリと呟いた。
「ふう、笑い疲れちゃったよ。…しかしまあ、いかにも『春』って感じの青空だな。こんな陽気の下でもバイクに乗らねえお前はバチ当たりだぜ全く。巷にゃ、バイク乗りたくても乗れねえ様な奴らが山ほどいるってのにさ」
春霞たなびく中空より降り注ぐヒバリの囀りが耳に心地よい。そんな中、窓からの微風を受けつつ俺に背を向けたまま話を続けるAさん。
「そろそろ看護婦さんが来るからさ、下の売店で時間潰して来い。
いやな、その看護婦ってのが色白で垢抜けしない娘なんだけど胸が結構でかくてよ、俺のもろストライクゾーンなわけ。
・・・ん?そのくらい気を利かせにゃあ昇進なんておぼつかねえぞ、野暮な奴!」
「あ、こりゃ失礼しましたw」
俺はおどけながらその場を中座する。病室を出て待合所を経た長い廊下を通り過ぎ、
エレベーター前まで来て俺はおもむろに引き返した。
『売店から買ってくるものぐらい聞いておかなくっちゃな』
再び病室を覗き込む俺。Aさんは相変わらず窓から春空を見続けていた。
確かにその有り様は先程俺が病室を後にした際と殆ど変わらぬ情景だったのだが…。
「ん?」
笑ってるのかなAさん?さっきの俺の馬鹿話がよっぽどツボに嵌ったのか、
肩を振るわして「クックック…」なんて声洩らしてるし…。
『楽しんで頂けて何よりです!ところで売店で何買って来ましょうか?』
ってな台詞を投げかけようとした途端、その後のAさんを見て俺はその言葉を嚥下に飲み下ざるを得なかったのである。
…こちらに背を向けたAさんの頭が、鼻をすすり上げる音にシンクロしながらだんだんうなだれていく。
その声が含み笑いなんかじゃなく
『嗚咽』
だという事に気づいた途端、俺の首筋を鳥肌と冷や汗とが目まぐるしく這いずり回った。
馬鹿だよ俺は!考えてみれば、
「あいつ、バイクに跨りながら生まれてきたんじゃねえの?」
とまでサークル仲間に揶揄されていたほどの バイク狂であるAさんが、
社会人になったからと言ってあっさりとバイクとの縁を絶ち切る事など出来るものか。
未練が無いなんて大ウソだっての、もっと早くに気付きそうなもんだろ!
病状も彼自身が語るよりももっと重篤なのかも知れない。
この時俺はようやく、あのAさんの不自然とも思える多弁な振る舞いの理由が判った気がした。
Aさん自身、会話が途切れる事で今自分の置かれている現実を再認識してしまうのが何よりも怖かったのだろう。
そんなAさんの強がりを斟酌する事も出来ず、得意げにバイクの話題を延々と彼に振ってた自分の間抜けさ加減にこの時ばかりは目眩がした。
元気づけるつもりで語ったバイクの話が、逆に彼のやるせない心を真綿で絞めつける結果となっていたのかも。
それでも表向きは笑いながら聞いていてくれたAさん、胸中はさぞかし…。
そうしているうちにもAさんの嗚咽は徐々に大きくなってゆく。
その様子を見つめる俺の視界もだんだんと滲み、そしてぼやけて来やがった。
居たたまれずに踵を返し、スリッパの音を殺しながら再びエレベーターへと向かう俺。
途中、Aさんの語る容姿に酷似した看護婦さんとすれ違う。
「あの、ひょっとして503号室のAさんのとこにも巡回しますか?」
「はい。そうですが」
「Aさんに伝えて下さい。○○(=俺の名前)は、会社から急の連絡が入ったので申し訳ありませんがこのまま帰りますって」
怪訝そうに頷く彼女にそう言い残し、俺はそれこそ逃げる様にエレベーターへ飛び乗った。
病院を出た後の俺は、おそらく呆けた表情のまま初めて訪れた街をそれこそあてどもなくさまよい歩いてたと思う。
正直言ってその間、Aさんからの「お前、何知らない間に帰っちまうんだよおい!」とのお叱りコールが怖かったのだが、
彼からの着信音が俺の携帯を震わす事は結局、無かった。
研修先の寮に着いてからも、そして2ヶ月を経て俺がその地を辞した後にも・・・。
それからは、後ろめたさゆえにAさんとは会ってもいないし連絡を取ってすらいない。けど先日、偶然にも当時のサークル仲間と
膝を交える機会があり、何だかんだの雑談の果てにAさんの現況も話題に上ったんだ。
彼の言によるとAさんはその後リハビリを経て現場に復帰、今では松葉杖をつきながらも二代目ドラ息子として
バリバリ頑張って
いるらしい。
嬉しかった。
俺は信じている。いつの日になるかは判らないけれど、きっとまたAさんはまたかつての様にバイクに乗れる日が来ると。
大学時代に箱根路で、パワーも排気量も遙かに上だった俺のバイクを、正確かつ俊敏なクラッチワークであっと言う間に抜き去って
いった彼の
『神の左脚』
が再び蘇る事を。
Aさん。やはり車椅子や松葉杖なんかあんたには似合わないからもうひと息頑張ってくれ!そしてまた一緒に走る機会があったら、
「相変わらず下手くそだなお前。病み上がりの俺にすら勝てねえのかよ」ってな憎まれ口を叩いて欲しいんだ。
俺もその日まで頑張るからさ。
※真夜中のオナニー長文で申し訳ない。つまらない駄文にお付き合い下さったバイク板のみんなに感謝です
最終更新:2008年05月30日 21:06