徒歩圏内に自営で何かお店をしているところがぽつぽつとあった。
駄菓子屋のそめがやに行く途中の左に曲がる角には、いつも行く散髪やさんがあった。いわゆる昔ながらのなんのしゃれっ気もない散髪やで、赤と白と青のくるくる回るサインが目印だった。
父か母に連れられて椅子に座り、当時定番だった「おかっぱ」にしてもらう。ハサミでまっすぐに切りそろえたあとバリカンで少し刈り上げするスタイル。前髪は眉の上でまっすぐ、これ以上のまっすぐというのもないだろうと思えるほどの直線に仕上げられる。たいてい、どの子もこういったヘアスタイルだったが、保育園でひとりだけ髪の裾を軽く梳いたようなボーイッシュカットをしている子がいて、なんで私はこんな風にしてもらえなのかなと、羨ましかった。彼女は目がくるくる大きく可愛くて、そのヘアスタイルは似合っていたからよけいにそう思えたのかもしれない。
今ならともかく、子供の分際でこんな風にしてください、なんて言えるようなものではなく、親がああしてこうしてというままに散髪やさんはハサミを動かす。最後は顔そりをして終わり。父に似て黒くて太い眉も形を整えられ、まっすぐの前髪のすぐ下に堂々とした存在感で鎮座していた。子供ながらに可愛くなくて嫌で、鏡に映る自分を凝視するのを躊躇した。
白いケープを取ってもらって椅子が下がると、散髪屋さんは「グリコ」のキャラメルをくれた。オマケつきのそれは、じっとおとなしくお利口に座っていたことへのご褒美だった。キャラメルはもとより、その中のオマケが気になって仕方がなかった。数分もかからない帰路なのに、いつも途中歩きながら開けていた。
散髪はあまり好きではなかったが、そんな楽しみに釣られていたのだろう。
最終更新:2009年08月14日 21:49