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4月。

街はまっピンクになり、出会いの嵐が吹き荒れるこの季節。

今、まさに
一人の少女が、これから起こる闘いに身を投じようとしていた…。

<今から30分前…玄田家の一室>

「スーハ―、スーハ―…よし!」
私の名前は、玄田 望。
今年から茶屋高校に入学することになった。
中学の時は一人も友達ができなくて、根暗な3年間を過ごしちゃったけど、
今年こそは…今年こそは…

「花の女子高生!夢のミラクルロマンスだ!イエ―!!」

「ちょっと、望。うるさいわよ!!」
そう言って、ベッドの上で飛び跳ねた私に、1階から母の怒鳴り声が響く。
けど…今日は、特別な日なのだ。
なんたって、今日は4月1日。年に一度のビッグイベント、入学式!!
今年こそは根暗な自分から卒業して、新しい自分と出会うのだ。
部活に休み時間に放課後…想像するだけでドキドキする。
これが楽しみにせずにいられようか。
階段を降りながら、私はこれから来る夢の高校生活に胸を躍らせた。

「望、朝ごはんは?」
「急いでるからいらな―い。」
「あんたねぇ…。」

ローファーを履いて、鏡の前で服装チェック、そして…玄関先でクルリと一回転。
「よし、完璧。」
準備は万端だ。いや、万端…のはずだった。
「これこれ、望ちゃん。」
ふいに後ろからおばあちゃんの声がして慌てて振り返ると、湯のみを持ったおばあちゃんの顔がどアップで現れた。
「うわっ!おばあちゃん!!」
「望ちゃん、ご飯食べていかないんだったらせめてお茶だけでも飲んでいき。」
「お茶?」
そういって湯のみを覗き込むと、熱い玄米茶が入っていた。
「玄米茶?」
「そうじゃ、ほれ…昔から言うじゃろ?朝茶に別れるなって。」
「朝茶に別れるな?」
「そう…朝にいただくお茶にはな…「ちょっと、望、遅刻するわよ!!」
おばあちゃんのありがたいお話は、お母さんのどなり声によってかき消された。
「え?もうこんな時間!?おばあちゃんごめん、もう行かないと…」
そう言って、かばんを掴むと私は玄関から飛び出した。
「望ちゃん!もう、ほんとに誰に似たんだか…」

今思えば、あの時一口でもいいからお茶を飲んでおけばよかったのだ。
そうすれば、こんな争いにも巻き込まれずに済んだのかもしれない。


そして…今に至る。

「ねえ、そこの君!1年生なんだろう?」
さっきから、私はこの学校の上級生と思われる男につきまとわれていた。
「もう、なんなんですか!あなたはっっ!!」
「僕かい?僕はこの学校の2年生さっ。」
「…。(バックに…バックにバラが…)」
この非常にうざい、背景がキラキラした男の名は、緑沢 朗。
学年は2年生…らしい。
「今、新入部員を勧誘してるんだよ!ぜひ、茶道部へ!!」
「いや…興味ないんで…」
校門を入ってから、げた箱までなぜかずっとついてきては茶道部の勧誘をしてくる。
「いやいや、君にはオーラを感じるんだ!茶を愛するオーラがっ!!」
「(茶を愛するオーラって…)」
怪しい…怪しすぎる…。
そして、しつこい。
まるで、キャッチセールスの人のようにぴったりとくっついてくる、このしつこさ。
下手をすれば、犯罪なみだ。

「いいかげんにして下さいっっ!!」


我慢できずに怒鳴った声は、思いのほか響いたようで、私の周りにいた数人の生徒が驚いて振り返った。
でも、今はそんなことを気にしている場合ではない。
朝からつきまとわれて腹が立っているのだ。
緑沢という男も少し驚いたようで、目を2、3回パチクリさせている。

「…っとにかく!私は茶道になんて興味ありませんから!!じゃっ…」

そう叫びながら、私はダッシュで教室へと向かった。
「あ…君…。」
後ろで男が何かをしゃべっていたようだが、そんなのを聞いている暇はない。
こんな犯罪まがいのようなことをする奴らと一緒にいては、また中学生の時と同じように友達が一人もできないまま卒業を迎えてしまう。

「私は、この高校で夢のミラクルロマンスな高校生活を送るんだ…。」

教室へ向かいながら、私は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
が、その時、

ピンポンパンポーン


ものすごい音がスピーカーから全校舎に響き渡り、私はふと足を止めてスピーカーを凝視した。
すると、次に聞こえたのは、今いちばん聞きたくない男の声…

「1年A組、玄田 望さーん!学生証を預かってるので至急、茶室まで取りに来るように!!」


そう、緑沢 朗だった。

「あ…んの…やろう…。」

怒りでプルプルと手が震える。
これは、一発殴ってやらないと気が済まない。
私は教室の方へ向けていた足をくるりと方向転換し、茶室のあるであろう場所に向かって走り出した。




さようなら、夢の高校生活。
そして、こんにちは、波乱の高校生活。

<第一話 朝茶に別れるな 完>


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最終更新:2009年08月24日 21:16