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●文化化された自然

 現代に支配的な、自然科学という信仰に依って立つ
 病院化社会や一般大衆の死生観や健康幻想の底にも、
 こうした<自然>/<文化>の二項対立がひそんでいないとは言えないだろう。
 昨今、我国のジャーナリズムをにぎわしている健康食ブームや、
 脳死判定、臓器移植の問題も、
 一様に、
 精神から切り離された身体という発想からのがれられてはいないからである。
 しかしながら、私たちの<身>が、
 ボディでもマインドでもない<文化化された自然>であるのと同様に、
 この章の二つ目のキー・コンセプトである<パトス>も、
 実は決して自然的・本能的欲求のなせるわざなどではなく、
 あくまでも文化の根源にしか見出せない<ロゴス>の一部であり、
 その深層に位置する欲望の動きなのである。
最終更新:2008年06月22日 22:02