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パトスも言葉である
そうしてみると、西欧思想において、
ある時は実体に対する属性におとしめられ、
またある時はその逆に<生ける自然>の現れとして
浪漫主義的人間学を奉じる人々から礼讃された<パトス>は、
決して<ロゴス=言葉>以前の本能的欲動やカオスではないことがわかるであろう。
<パトス>もまたコスモスの一部であり、
これは同じ<ロゴス=言葉>の深層において
激しく脈うつもう一つの言葉なのである。
還元すれば、私たちアニマル・シンボリクムのもつ言葉とは、
カテゴリー化・象徴化能力、想像力の根源としてのロゴスであり、
下意識を含めた広義の<意識>
(死と生の意識、時間・空間の意識、美意識、性のエロティシズム、等々)は、
ロゴスの働きによってはじめて生じたものと言えるだろう。
また、パトスが<ロゴス=言葉>の一部である限り
あくまでも二分法を前提とする差異を発生せしめることは確かであっても、
この二分法は絶えず動いて融合と分離をくりかえす、
いわば<動きつつあるゲシュタルト>である。
パトスとは、音楽、美術、スポーツにも通底する深層意識の言葉であって、
言語学者が静態的分析の対象とする表象意識の言語ではない。
最終更新:2008年06月26日 14:55