春すぎて 夏来にけらし 白妙の

衣ほすてふ 天の香具山(持統天皇)


歌意


春が過ぎ去って夏が来てしまったみたい。
夏になると白い着物を干すと言われる
天の香具山に白い夏着が干してあるよ。

主旨


爽やかな夏の訪れを感じ取った感動。

表現と鑑賞


推量の根拠を第3句以下に示して
季節の移りを感じ取ったとする表現は単純に見えますが
内容的にはこの歌の原歌が
『万葉集』巻1の
「春すぎて夏来たるらし白妙の衣ほしたり天の香具山」で
写実的・直感的・感覚的・空間的であるのに対して
それを新古今風に改作し、
「てふ」によって原歌を伝聞の世界に置き現実の事象とを重ねることで
観念的・理知的・時間的に処理して余情のある一首に作り上げています。
香具山の緑の中に夏着の白さを見出して万葉の原歌を背後に想起しつつ
爽やかな色彩と初夏の訪れに心を動かすのです。

語句・文法



 陰暦1~3月。

 接続助詞。

 陰暦4~6月。

 カ行変格活用動詞「来(く)」の連用形。

 完了の助動詞「ぬ」の連用形。
けらし
 過去の助動詞「けり」の連体形「ける」の
 「る」の音節脱落形式「け」+推量の助動詞「らし」。
 「けるらし」が縮まった助動詞といえる。
白妙の
 真っ白の意味。衣の枕詞。
てふ
 「といふ」の複合語で、四段活用動詞「てふ」の連体形。
 格助詞とする説もある。
天の香具山 奈良県橿原市南浦町にある大和三山のひとつ。
 上代「天」の訓読みは「あめ」。体言止め。

作者 持統天皇(645~702)


第41代。女帝。『万葉集』第2期の歌人。
天智天皇の第2皇女で、天武天皇の皇后となり、天皇崩御後4年(690年)に即位。
さらに4年目に藤原宮に遷都され、人麻呂らの宮廷歌人を召されていた。

参考文献『評解 小倉百人一首』 三木幸信 中川浩文 京都書房
最終更新:2008年07月05日 13:58