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形而上学と科学に共通するアポリア
〔第三期〕(20世紀)
右に見てきたような19世紀の言語学は、
科学的実証主義を絶対化することによって
形而上学と同じようなアポリアに突きあたる。
確かに言葉は、哲学的思弁の対象から科学的観察と分析の対象となった。
しかしそこに連綿と受けつがれているものは、
<実体論>という共通の土俵なのである。
両者ともに主/客の二項対立そのものは疑わず、
<普遍的カテゴリー>が先か<個物>が先かと言い争って
そのいずれかを唯一絶対の根源的存在とみなそうとした中世の普遍論争から
一歩も出てはいない。
だからこそ、
形而上学におけるイデアが否定されればそれはマテリアにとって代られ、
キリスト教の<神>が死ねば近代科学の<物>がこれにとって代わる。
ソシュールとともに始まる言語研究の第三期を特徴づけるものは、
のちにくわしく見るような
<現前の形而上学>と共犯関係にあった<現前の言語学>
ないしは<現前の記号学>批判にあると言えるだろう。
最終更新:2008年07月05日 10:29