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自然科学者と詩人の血を引くフェルディナン

 フェルディナン・ド・ソシュールは1857年、
 11月26日にジュネーヴの旧家の長子として生れるが、
 その恵まれた学問的家系
 (弁護士で農学者であった祖先ニコラに始まって、
  植物学、鉱物学はもとより電気学、地質学という分野まで手がけた
  自然科学者の曽祖父オラス=ベネディクト、
  物理学者、科学者、博物学者であった祖父のニコラ=テオドール、
  地質学者の父アンリ)
 とともに、
 彼がフロイト、ジンメル、デュルケーム、ベルクソン、フッサールらと
 ほぼ同時代人であり、
 同じような精神風土に育ったという事実を銘記するべきであろう。
 コペルニクス的革命といわれたソシュールの人間科学における転回(ケーレ)も、
 その時代のクリマと決して無関係ではあり得ないからである。

 ソシュールの思想の一面を彩っている
 ほとんど公理的とも言えそうな厳密さを求める数学者的気質が、
 家代々の自然科学教育からきたものだとすれば、
 彼の思考や表現のなかに同時に見出される詩人的なものは、
 彼の家系にあっては異色とも言える
 文学者の大伯母アルベルティーヌ=アドリエンヌ
 (スタール夫人の従姉でありドイツ・ロマン派と親交があった)
 の血を引いたものとも考えられよう。
 また、この大伯母の友人でありソシュールが少年時代から畏敬してやまなかった
 言語学者A・ピクテの影響も見逃せない。
最終更新:2008年07月05日 10:50