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1.アーツ・マネジメントとは


アーツ・マネジメント(arts management)とは
「芸術と社会をつなぐ仕事」であるといわれている。
芸術創造をさせる仕組みや活動は今までにもあった。
また、美術の領域では学芸員、
舞台芸術の領域ではプロデューサー(制作者)など、
よく似た仕事をする職能が成立している。
しかし、今、なぜ、
アーツ・マネジメントという言葉や活動が注目されているのだろうか。
職能としての学芸員とはなにが違うのか、
制作者とはなにが違うのだろうか。

欧米の大学におけるアーツ・マネジメントのカリキュラムを見てみよう。
世界の大学のホームページを見ると、
アーツ・マネジメントに関する教育・研究カリキュラムを持つところが多く見られる。
特に、イギリスとアメリカの大学に顕著である。
アーツ・マネジメントという呼び方に代えて、
アーツ・アドミニストレーション(arts administration、芸術経営)
という用語を用いているところもある。
また、演劇、舞踊などに絞っているところでは
シアター・マネジメント、シアター・アドミニストレーション
という言葉も使われている。
アドミニストレーションという用語とマネジメントという用語には
微妙な意味の違いがあるが、ここではとりあえず、
ほぼ同じものを示していると考えておきたい。

まず、イギリスにおけるアーツ・マネジメント研究の中心のひとつである
ロンドン大学の芸術政策・マネジメント学部
(Department of Arts Policy and Management)を見てみよう。
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ここでは、
「この領域は非常に大きく成長している部門で、
 文化政策形成、芸術批評、および、
 芸術・遺産・文化マネジメントの諸コースを
 広範囲に扱う」
と書かれている。
また、
「私たちのコースと研究は文化マネージャー、芸術教育者、国や地方の文化政策官、
 芸術・文化プランナー、情報および資源に関するオフィサー、
 美術館やギャラリーのキュレーター、批評家、芸術家、
 文化創造セクターの企業家の専門領域のニーズが出会い、
 先を予見することを目標としている」としている。
ここで読み取れるのは、
芸術に関わる個別の職能を深化させるというよりは、
むしろ、いろいろな領域のいろいろな職能が出会い、
お互いの仕事の課題を調整することによって、
芸術領域の活動を将来に向けて展開させてゆくことを狙っているということである。

次にアメリカにおいて歴史のあるコロンビア大学の
芸術経営(Arts Administration)の展開を見ておこう。
1975年に芸術学部に芸術系と経営系の教員のチームティーチングによる
アーツ・アドミニストレーションのコースが設置され、
1980年にはさらに経営と法を合わせたプログラムが開設され、
1991年には教育カレッジに部局が移り、
芸術経営と芸術教育を合わせたプログラムが開始されている。

教育カレッジの芸術経営コースのプログラムの概要の冒頭には
「アーツ・アドミニストレーションプログラムは
 文化機関やアーツ組織のマネジメントには
 戦略的な計画、芸術的な創造性、そして社会との関係性を必要としている
 という確信を反映している。
 課題に挑戦し、芸術に責任を持つことができるアートマネージャーは
 経営と財政についての統合的な技術、
 彼らが関わる芸術的なプロセスに対する知識、
 そして彼らが奉仕するコミュニティのダイナミックスと教育的なニーズに対する
 感受性を持っていなければならない。」と書かれている。
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コロンビア大学のアーツ・アドミニストレーションのプログラムは
芸術文化に関する関する組織経営の技術習得にやや重点が置かれており、
ロンドン大学のカリキュラムよりは実務的な色彩が濃いが、
やはりアートマネージャーには経営的センス、
芸術創造のプロセスへの理解、
コミュニティへ感性が必要であると認識しているところに注目したい。
特にコミュニティという言葉に注目しておきたい。
それは芸術が単独で成立しているのではなく、
それが受け入れられる、あるいはサービスする地域社会、
地域住民との関係性の構築が必要であるという認識を持っているということである。
アメリカの大学の他のアーツ・マネジメントのプログラムにおいても、
一方で芸術文化関連組織の合理的経営、
他方でコミュニティとの関係作りが大きな柱になっていることに気づく。

世界のアーツ・マネジメント関連の教育プログラムはこのように、
1)芸術に関わる様々な職種の連携、
2)芸術活動の「評価」、
3)国や地方自治体などの法整備や文化政策形成、
4)コミュニティと芸術の関係作り
が大きな柱になっているということができるだろう。
最終更新:2008年07月27日 10:23