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恋の神様

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yariba

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恋の神様【こいのかみさま】


チャイムがなり、僕は次の授業の教科書を手探りで探す。
次は国語、A5で他の教科書より一回り小さく、さらに分厚いこの教科書は
普通ならものの10秒で見つかるものだ。
だが、僕の手に何もめぼしいものが当たらない、ということはつまりそういうことなのだろう。

「次元?どこいくん?」
友人の隼太が聞くと、僕は背を向けたまま返事をした。
「あいつんとこ。国語の教科書借りに。」
その言葉に、隼太がニヤリと笑ったのは後ろを振り向かなくてもわかった。

あいつのことを、10秒以内で見つけられなかったことはない。
どこに居ても、何をしてても、常に回りに輪を作ってガハハと笑ってる。
それが、僕の幼馴染の重本ことりだった。
「おい、ことり?国語ある?」
僕はことりに声をかけた瞬間、周りの女子はざわつく、いつものことだ。
どうせ、ヤリチン野郎が来たとか、あいつが女と歩いてるのを見たとか
つぎにそういう話題をふろうと自分の記憶を確かめあってるのだ。

「あのねー、私を誰だと思ってんの?
 あんな重い教科書、私が持ち歩くと思う?ってことで、無理!」
ことりは友人の輪の中から一歩も動かずにその言葉を叫んだ。
しょうがない、と引き返そうとした瞬間、一人の女子が僕の方へ足を向けたのだった。

「あの…これ。私のなんだけどまだあんまり使ってないし、良かったら…。」
小さくて、色白で、赤みがかった髪をふわりとさせ、彼女は僕の方へやってきた。
それが、彼女との出会いだった。
「へぇ、いいの?ラッキー、サンキューな。」
なぜか、彼女から視線が離れない。だけど、それを隠すかのようにわざとふざけた対応をする。
「ん?いいんです。」
そういって彼女はくすっと笑ったので、僕は思わずおでこに口付けた。
「またな、セニョリータ。」
その言葉をことりが聞き逃すわけがなかった。
だから、僕の背を追ってくる足音がことりだとすぐに気づいた。

「どういうこと?次は凛を狙うつもり?」
その言葉に、僕はわざとおどけて目線をずらした。
セニョリータ…それは、僕が狙った女性に言う言葉。
でも、その意味は決して大好きだ、とか付き合おう、とかいう本気の意味じゃない。
一夜限りの関係として、熱く燃え上がる女性として君を選んだ、という意味だ。
「だったら何?あの子いいじゃん。マシュマロみたいで抱いたらやわらかいんだろうな…」
そういった瞬間、ことりの平手が僕に飛んできた。

「最低、最低最低!凛をあんたの周りのオンナと一緒にすんな?
 凛はあんたみたいに軽くないし、遊ばれたら一生傷ついちゃうような子なんだよ?」

「うるさいよ?大体ことりには関係ないだろ?俺が誰を好きだろうと。
 幼馴染だかなんだか知らないけどそこまでいちいちつっかかんな。」

驚いた。自分でも驚くほどびっくりするほど怖い声が出た。
多分あのときぼくは、凛と僕が釣り合わないって言われたようで
ものすごく悔しかったんだ。

「だいたいね。凛にはもう好きな人がいるの。
 この前言ってたよ?生徒会の望先輩ってかっこいいって・・・。」
そういわれた瞬間、僕はまたか、と思った。
望。それは僕の最高のライバルであり、中身は最悪の人間。
この学校の女子で望の名前を知らないものはいなかった。

成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能。
その上、僕とは違って望は「うまくやる」。
なぜかその女性関係はよりあらわになってはいなかったものの、
僕の倍以上の経験人数を誇っていた。
ことりが去ったあとも僕はずっと教科書に丸い文字で書かれた
みずもとりん、という文字を見つめていた。

家の前にたつと、また誰かの叫び声が聞こえた。
「最低!あんたとなんか、もう絶対ヤんないんだから!」
こんなことは少なくない。
相手の人の顔をみないようにしながら一礼をしたのに、
なぜか彼女は僕のことをじろじろ見てきた。

「あれ?こんな可愛い弟いるんだ。可愛いちびっこ。」
そう言うと彼女は僕の頭を撫でてきた。
「あの…初対面でちびっこはないんじゃないですか?
 僕、一応男なんで可愛がられるのは複雑なんですけど…。
 ってゆうか、いきなりこういうの、ちょっと怖いです。」
すると、彼女はふふっと笑った。
「見た目はチビッコでも、中身はちゃんと男の子なのね。
 あんた、気に入ったわ。
 それと、二度と怖いなんていうんじゃないわよ?
 私はフワッフワの女の子、愛実様なんだから。」
そういうと、彼女は手をひらひらとさせながら走り去る。
そのフォームを見て、僕はやっと、陸上部スプリンターの篠原愛実先輩だったと
今更気づくのだった。

「ただいま兄貴。」
そういうと、兄貴はニコっとしながら駆けてくる。
だが、トランクスひとつというその格好が今まであったことを
なんとなく匂わせている。
「おかえりセニョくん。」
そういいながら、持っていたシャツのボタンを留める姿は
男の僕から見てもとてもセクシーだった。

ふと、思い出す。凛が望を好きだって言葉。
その瞬間、僕は不意に凛の教科書をかばんから出し、
望に渡していた。
「これ、水元に返しといてほしいんだ。
 兄貴、知り合いなんだろ?」
そういうと、兄貴は持ち前の笑顔でにいっと笑った。
「ん?凛かぁ。お前、凛に教科書借りたの?
 あいつ誰にでも優しいからな、今度誉めといてやろ。」
そういいながら兄貴は僕の渡した教科書をもって部屋に戻る。
僕はその間、教科書に挟んでおいた僕の連絡先を書いた紙が
落ちないかという心配で頭がいっぱいだった。

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