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無題8

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yariba

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無題8【むだいえいと】



首輪、手錠、チェーン。
身体に取り付く金属たちが頑なに俺の行動を妨げる。
部屋には俺一人。少し手を動かせば、鎖の音がガチャガチャと静かに響く。

苦しい、寂しい、辛い、早くここから逃げ出したい。


ガチャッ。
ドアノブがまわる音がした。
そして数秒もしないうちに、アイツは俺の前に姿をあらわしていた。

「ただいま、瑛士さん。」

アイツは涼しげな表情で、俺を見下げている。
俺はアイツから目を逸らし何もこたえなかった。
いや、こたえたくなかった。

「何々ー?俺に逆らう気?ペットのくせに。」

冷たく言い放つと、アイツは俺を蹴り飛ばした。

「いっ…。」
「早くこっちみて言えよ。」

俺はおもむろに俯く顔を上げた。
アイツは、冷酷な瞳でこちらをじっと見ていた。

「おかえりなさい…、謙二郎。」

俺は再び、俯いてしまった。

「はい、よくできました。」

さっきまでの冷ややかな表情から一変して笑みを浮かべ、
謙二郎に頭を撫でられた。

っ…!ふざけんな…!
俺はぐっと謙二郎をにらみつけた。

「じゃあ今からご飯作るから待ってて。」

俺の目に気にもせず謙二郎は早々に去っていった。

俺はじっと待っていた。いや、じっと待っていることしかできなかった。

キッチンからはジュージューと音を立て、香ばしい香りが俺の食欲をそそった。
そういえば、朝から何も食べてなかったっけ…。

しばらくすると謙二郎が戻ってきた。

「どう?美味そうでしょ?」

目の前に湯気が立ち込め、その隙間から炒飯が見えた。
本当においしそうだ。

「さっ。俺が食べさせてあげる。あーんして?」

謙二郎は俺の口元にスプーンを近づけていった。

…は?カップルじゃねぇんだし…。

プライドと悔しさと怒りが混じったものが心に広がり
口をあけるのを一瞬拒んだが空腹に耐え切れず、俺の気持ちと相反して気がつけば口に含んでいた。


「…うまっ。」

思わずこぼれた一言。

「当たり前じゃん。いやー俺料理には自信あってさー。」

その一言を聞いた謙二郎は、自慢気ながらに振舞うもその穏やかな笑顔に
俺は今までの謙二郎に対する怒りや不安、恐怖心が少し吹っ飛んだ。

その後俺は拒むことなく、すべて謙二郎に食べさせてもらった。

「全部食べてくれてありがと。」
謙二郎は上機嫌だ。少し微笑んでいるだけだが、どこかすごく嬉しそうに見える自分がいた。

「ねぇ瑛士さん。…これ外してほしい?」

…え?
俺は一瞬耳を疑った。さっきまでの冷酷な表情からは考えられない言葉。

「何で?」

「うーん…なんとなく?」

謙二郎は相変わらずの笑みで答えた。
だがしかし、少しだけ寂しそうな表情がうっすら見え隠れしていた。

「もしかしてさー…こーゆうことするって…俺が逃げるとでも思ったの?」

謙二郎はじっと黙っていた。
しばらく沈黙の世界が二人を包み込んだ。
謙二郎の表情から俺はようやく意図が汲み取れた。


何故、俺を家に誘ったのか。
何故、縛ったのか。
何故、服従関係を築こうとしてたのか。


すべては謙二郎の屈折した愛情なのかもな。
…ってか屈折しすぎっしょ。

「はずして…ほしいかな。」

その言葉に謙二郎は素早く反応し、身体に付きまとう金属を外してくれた。
そして俺は謙二郎をぞっと抱きしめ、口付けを交わした。

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