yariba @ ウィキ

からくりピエロ

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
からくりピエロ【からくりぴえろ】



「…来ない」

待ち合わせは2時間前で此処に独り
それが答えでしょ


「…やっぱりか」

約束した場所に、現れる気配の無い相手
さっきから何人もの人達が俺の前を通り過ぎていく

その中にいくつかカップルの姿があって
一人で待ちぼうけしてる自分がどれだけ寂しい人なんだろうと自分の事ながらに思った

「…帰ろ」

空が色を変え始めている
ああ、もうこんな時間なのか

(こんな事なら、少しでも早く来ようとか思わなければ良かった)


近くのコンビニに寄って暖かいお茶を買う
手にした、そのまま買うつもりのお茶のペットボトルを頬に当てて、一息

(…あったかい)
外は寒かったからか体が随分冷たくなってしまっていたのだ

レジに向かう前にふと雑誌コーナーの方へ目をやるとそこには高校生ぐらいの二人組が顔を寄せ合って雑誌を立ち読みしている
別に珍しい事ではなかったが、一瞬そのうちの一人の声がアイツに聞こえたのだ

「この人やっぱ可愛いよなー」
「え、でもこの人男なんだろ?」
「過去形だっけ?今もだっけ?どちらにしても男にしては綺麗だよな。こんな綺麗な男だったら付き合ってもいい」
「えーお前ホモかよキモチワルー」
「げーやめろよホモじゃねぇよキモチワル」

『キモチワル』
その言葉が、どうしても俺に対して言ってるように思えて
発言してる二人のうちの一人がアイツに思えて
俺の事を嘲笑ってるアイツを思い浮かべた

(…早く帰ろう)


コンビニを出て、駅へと向かう
電車はちょうど行ってしまった所だった
なんてついてない

俺はホームのベンチに座ってぼんやりと考え事をした


俺は、いつの間にか公輝の事が好きだった
それを自分自身に確かめるのは簡単で、だけどとても困難で

自分の気持ちを認めることで前に進めるのに
自分が同性を、親友だったはずの公輝を好きだなんて信じられなくて、信じたくなくて

(アイツは俺の事どう思ってたんだろう)

好きだって、伝えて、アイツは俺をどう思ったのだろう

(キモチワルイ、よな…やっぱり)

アイツの中できっと俺は嘲笑うべき道化師になったんだろう


公輝と出会って
公輝と好きな女の子取り合って、公輝は俺のライバルになって
いつの間にか、女の子は居なくなって俺達だけが残って
いつの間にか、ライバルじゃなくて親友になってて

いつの間にか、俺の好きな人になってた
そして抑えられなくなって、想いを伝えた

返事を聞かせて欲しくて、会う約束をして、俺はその約束の時間よりも少し前に着いて、ずっと公輝を待っていた
結局二時間待っても公輝は来なかった
好きな人には振り向いてもらえず、慰めてくれた子も居なくなり、男を好きになり、またしても振り向いてもらえなかった
これが、俺の末路だ


『4番ホームに電車が参ります』

俺と同じようにベンチに座っていた仕事帰りのサラリーマンや部活帰りの学生達が、立ち上がる
俺も一緒に立ち上がる

電車が着いて、扉が開く

開いた瞬間
その1秒だけ呼吸を止めて、俺は何も言えず立ちすくんだ

多分、それは偶然で
そして多分運命で
知らないほうが良いと知ってたのに目が逸らせなくなった

「あ…」
「公輝?知り合い?」

アイツが俺に気づいた
公輝の傍には仲良さそうに腕を組む女の子が居て

「…どうも」
「ッ!待っ」
「触んな」

弁解しようと俺の腕を掴んだ公輝の手を振り払い、さっさと電車に乗り込む
公輝の傍に居る女の子が不思議そうに俺と公輝を交互に見ていた

電車の扉が閉まる
窓から、アイツと不思議そうな様子の女の子が見えた

俺は公輝と目が合わないように、視線を逸らした

まばらに人が乗っているこの電車のガラガラに空いている座席に腰をかける
同時にため息が漏れた

(振り払ってしまった…)

掴まれた腕を振り払った手を、思い出しながらじいっと見つめる
触れてしまったアイツの温もりに、体がそこから暖かくなるような気がした

(俺に気づく前、楽しそうに笑ってたな…)

あの笑顔が、俺は凄く好きだった
アイツが笑ってくれるなら、どんなバカな事でも出来る気がした
その大好きな笑顔が、俺じゃなくてあの子に向けられている
それを考えるだけで

俺自身壊れてしまいそうだった


(やべ…人が見てる…)

そう分かっていても止められない涙が流れ続けて
俺は思わず俯いて顔を隠した

アイツが好きで、好きで、この関係を壊したくなくて
だから伝えないでおこうと考えた事もあった

でも、耐えられなくて
堪えられなくて伝えてしまった

(こんなツライんだ…)

それはきっと今まで好きになった人以上に好きになっていたから
心臓が握りつぶされるように苦しくて、息が止まりそうだった


自分の降りる駅に着いて、俺は急いで電車を降りる
少しでも早く家に帰りたかった
少しでも早く一人になりたかった

走って駅を出る
しばらく走って、家の近くの公園まで来た時、 走るのを止めた

その公園へ寄り道する
その公園が一望出来るベンチへと腰かける
買ったお茶はもう冷たくなっていたが、それを一口飲んでみる
先程走ったので体は少し温まっていて、ちょうどよかった

(次、アイツに会ったらどんな顔したらいいんだろう)

あんな風に冷たく手を振り払ってしまったからには、もう今まで通りには戻れないだろう

(あーあ…)


ただ変わってゆくのが怖かった
また一人ぼっちだ、と自虐的に皮肉ってみる

ほんの少しでもこうやって此処に居たらアイツが来てくれるんじゃないかと期待している自分に気づく
来るわけなんてないのに

(あの子…公輝の彼女かな)

この前言っていたいつか好きだった子、ってやつだろうか
あの様子だと、付き合っているのだろう

(…帰ろ)

ここでアイツを待つのはもうやめよう
俺が壊れてしまうだけだ

(今度は、ちゃんと俺を愛してくれる女の子を好きになろう)

アイツに一通のメールを送ると、俺は携帯電話に入っているアイツのすべてのデータを消した

≪ごめん≫

携帯電話が震える。そして音楽が流れる
その相手がアイツだとわかっていながら、俺は電話に出てしまう

「…もしもし」
『もしもし?瑛士?ごめん!さっきの子につかまってて用事があるって言っても離してくんなくて…』

きっと、言い訳
そうわかっているのにそれでもいいや、と思う自分が居た

きっと公輝は俺に返事を返す気なんて更々無い
俺も要らないって言ったんだけどさ

『今から会える?』
「…分かった、今からいつものところ行く」


回って 回って 回り疲れて
息が 息が止まるの
そう 僕は君が望むピエロだ
君が思うままに 操ってよ

end

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
人気記事ランキング
ウィキ募集バナー