きみがすき【きみがすき】
「熊木!」
「何ー?」
「一緒に帰ろ!」
「何ー?」
「一緒に帰ろ!」
珍しい事もあるもんだ、と思った
「今日、瑛ちゃんは?」
「瑛士、受験生で自由登校だから休みなんだよ」
「だから俺に声かけたのか。一人で帰ればいいのに」
「瑛士、受験生で自由登校だから休みなんだよ」
「だから俺に声かけたのか。一人で帰ればいいのに」
帰れないわけじゃないだろ?と問うと前田は笑った
「帰れるけど、たまにはこうやって熊木と帰るのもいいなって思って」
ほらまたそうやって、思わせぶりな事言って
本当に思ってるの?
そんな事言って、本当は瑛ちゃんと帰りたいんだろ?
…なんて、口には出せず
本当に思ってるの?
そんな事言って、本当は瑛ちゃんと帰りたいんだろ?
…なんて、口には出せず
「…ふーん」
八方美人の君に嫉妬しつつも何食わぬ顔の僕は
やきもちを妬いてんのを君に知られたくなかったんだ
やきもちを妬いてんのを君に知られたくなかったんだ
――
下駄箱まで来て靴を履きかえた時、正門の辺りに見知った顔を見つけた
下駄箱まで来て靴を履きかえた時、正門の辺りに見知った顔を見つけた
「あれ、稜駿と寿々歌じゃね?」
「ホントだ」
「あの二人、すげー仲良いよな」
「…うん」
「ホントだ」
「あの二人、すげー仲良いよな」
「…うん」
なぁ、前田
お前今すげー悲しそうな顔してんだけど気づいてる?
あの寄り添った二人が、羨ましいの?
好きなの?
それとも「誰かと自分」を二人に重ねているの?
お前今すげー悲しそうな顔してんだけど気づいてる?
あの寄り添った二人が、羨ましいの?
好きなの?
それとも「誰かと自分」を二人に重ねているの?
俺の知らない前田の過去を、やはりどうしても訊けなくて
あのとき君を強く抱きしめられたならまたこの場所で笑えたかな?
あぁ もう遅いよな
あぁ もう遅いよな
「熊木?帰んないの?」
「…うん、帰るよ」
「…うん、帰るよ」
どうしても口には出来なかった
「この前さ、稜駿に鯛焼き貰ったんだよ」
「鯛焼き?へぇ、稜駿君がねぇ」
「何か結構な量持ってて、訊いたら貰ったらしくって。そんで俺も二つ貰って」
「美味しかった?」
「うん、すげー美味しかった。そんでさ、それでもまだいっぱい残ってて、稜駿も食べてたんだけどまだ余ってて、困ってたっぽかったから彼女にあげれば?って言ったんだよ。その後どうなったかは分かんねーけど、今に至ってる」
「それって前田のおかげなんじゃないの?あの二人がああなったのって」
「そうなのかな?でも前から寿々歌は稜駿の事好きだったと思うし、稜駿も寿々歌の事好きだったと思う。…っていうかキスしてたし違うんじゃねーかな?」
「キスしてたとしてもさ、お互い言葉にしてなくて、付き合ってはなかったのかもしれないよ。…今は付き合ってるって事は、やっぱり前田のおかげなんじゃないの」
「そっかな。…だったらいいな」
「鯛焼き?へぇ、稜駿君がねぇ」
「何か結構な量持ってて、訊いたら貰ったらしくって。そんで俺も二つ貰って」
「美味しかった?」
「うん、すげー美味しかった。そんでさ、それでもまだいっぱい残ってて、稜駿も食べてたんだけどまだ余ってて、困ってたっぽかったから彼女にあげれば?って言ったんだよ。その後どうなったかは分かんねーけど、今に至ってる」
「それって前田のおかげなんじゃないの?あの二人がああなったのって」
「そうなのかな?でも前から寿々歌は稜駿の事好きだったと思うし、稜駿も寿々歌の事好きだったと思う。…っていうかキスしてたし違うんじゃねーかな?」
「キスしてたとしてもさ、お互い言葉にしてなくて、付き合ってはなかったのかもしれないよ。…今は付き合ってるって事は、やっぱり前田のおかげなんじゃないの」
「そっかな。…だったらいいな」
今度は寄り添って歩く二人の後姿を見て笑った
「そういえばさ、その後稜駿と別れてから、愛実に会ってさ」
愛実、その名は過去にも聞いた事がある
確か、前田の好きだった人
確か、前田の好きだった人
「すげー綺麗になってた。相変わらず可愛くて変な奴だった」
「そうなんだ。メアドとか聞いた?」
「聞いてない」
「何で?勿体無い事したんじゃない?」
「愛実には、幸せになってほしいから」
「そうなんだ。メアドとか聞いた?」
「聞いてない」
「何で?勿体無い事したんじゃない?」
「愛実には、幸せになってほしいから」
ああ
またそうやって前田は悲しそうに笑う
愛実さんは前田にとって「失ってから大切さに気づいた相手」で
その話を聞いた時、前田はバカだなと思った
またそうやって前田は悲しそうに笑う
愛実さんは前田にとって「失ってから大切さに気づいた相手」で
その話を聞いた時、前田はバカだなと思った
だって
俺は、好きな人の大切さなんて そんなもんとっくに気づいてたんだ
俺は、好きな人の大切さなんて そんなもんとっくに気づいてたんだ
「でも愛実から連絡先書いた紙貰った」
「連絡したの?」
「してない。…しない。愛実には悪いけど、捨てちゃった」
「何で?」
「また好きになっちゃうから」
「連絡したの?」
「してない。…しない。愛実には悪いけど、捨てちゃった」
「何で?」
「また好きになっちゃうから」
別にいいじゃん
なんて俺にはよく分かんないしあんまり偉そうには口出せないけどさ
なんて俺にはよく分かんないしあんまり偉そうには口出せないけどさ
「それにしても、前田は愛されキャラだな」
「何処がだよ。愛されてねーって」
「いやいや皆前田の事愛してるよ。まぁ俺は愛してないけど?」
「何処がだよ。愛されてねーって」
「いやいや皆前田の事愛してるよ。まぁ俺は愛してないけど?」
愛情表現の困難さにもだえて 僕が言えたわけがないだろ
あの日々の幸せが 君がいたからなんて恥ずかしいこと
あの日々の幸せが 君がいたからなんて恥ずかしいこと
「熊木だけじゃなくて皆俺を愛してねーんじゃん?…あ、皆って言っちゃっていいのかな。…ま、いいか、大分日が経っちゃったしもうどうでもよくなってるだろうし」
あのとき君に本当のことを言えたなら またこの場所で笑えたかな?
あぁ もう遅いよね
あぁ もう遅いよね
「…どうでも良いなんて思ってないんじゃないの?」
前田が言ってるのが、瑛ちゃんの事だって気づいて思わず口にしてしまう
「…あーごめん、この話聞かなかった事にして。俺がしといて何なんだよって感じだけど」
聞かなかった事になんて、出来ねーよ
前田は、瑛ちゃんが気になってんだろ?
好きって、言われたから?
それとも相手が瑛ちゃんだから?
前田は、瑛ちゃんが気になってんだろ?
好きって、言われたから?
それとも相手が瑛ちゃんだから?
なぁ前田
俺だって、前田の事好きだよ
好きな理由なんていくつも見つけられたよ
好きになる理由なんていくつも見つけられたよ
あのときの俺はただ言えなかっただけで
俺だって、前田の事好きだよ
好きな理由なんていくつも見つけられたよ
好きになる理由なんていくつも見つけられたよ
あのときの俺はただ言えなかっただけで
強がって前田の言葉にうなづくだけの俺に、前田も強がって笑ってみせた
「もうすぐ卒業シーズンだな」
「…そうだな」
「…そうだな」
それで笑ったつもりだったの?
そんな寂しそうな顔して、笑ったつもりだったの?
そんな寂しそうな顔して、笑ったつもりだったの?
『俺は何も思ってません、前田のことが嫌いってのも思ってませーん』
『そっかそっかー熊木俺の事嫌いなんだー…俺は好きだよ、熊木の事』
『そっかそっかー熊木俺の事嫌いなんだー…俺は好きだよ、熊木の事』
あの時からずっと前田が好きで
その想いは今でも前田に届かなくて
その想いは今でも前田に届かなくて
あの時の前田の嫌われたくないっていう想いは痛いほど聞こえてたのに
あのときの気付いた想いを 伝えられたら何て伝えただろう
あのときの気付いた想いを 伝えられたら何て伝えただろう
前田が好きで
理由を何度も探して
諦める理由を何度も探して
諦める理由よりも好きな理由ばかりが見つかった
理由を何度も探して
諦める理由を何度も探して
諦める理由よりも好きな理由ばかりが見つかった
「寂しい?」
「そりゃあ。長い付き合いだし?」
「そりゃあ。長い付き合いだし?」
名前を出しては無いけど、俺は瑛ちゃんの事言っていて
前田もまた瑛ちゃんの事だと思っていた
前田もまた瑛ちゃんの事だと思っていた
バカだな、聞かなかった事にしてって言った理由が瑛ちゃんにあるって丸わかりじゃないか
瑛ちゃんに言われたんだろ?好きって
バカだな、多分俺がその事知らなかったとしても、わかっちゃっただろ
瑛ちゃんに言われたんだろ?好きって
バカだな、多分俺がその事知らなかったとしても、わかっちゃっただろ
「俺が居るからいいじゃん」
「何だよそれ。熊木ホント俺の事好きだな」
「うわ自惚れんな」
「ははっ」
「何だよそれ。熊木ホント俺の事好きだな」
「うわ自惚れんな」
「ははっ」
全部認めるさ 君へのやきもちも 君がいた幸福な日々も 僕の強がりも認めるよ
君が好きで いくつも言葉を見つけたんだけど 「きみがすき」 想いはたった一つだけだった
君が好きで いくつも言葉を見つけたんだけど 「きみがすき」 想いはたった一つだけだった
「…ま、口になんて出せないんだけど」
「ん?何か言った?」
「何でもなーい」
「ん?何か言った?」
「何でもなーい」
おわり
(誰にも渡したくないくらい、きみがすきだよ)