平凡 - yariba @ ウィキ

平凡【へいぼん】

公輝、加藤

「何見てんだお前」

いきなりの声に驚いて停止ボタンを押して振り返ると、そこには私服姿の加藤さんが居た

「わっびっくりした。加藤さんかー」
「俺の家に俺が居て何が悪いんだ」
「悪くは無いけど…」

そう、俺が今いるこの家は、加藤さんの家
加藤さんから合鍵を渡されているので加藤さんが居ようが居まいが自由に出入りが出来る
そしてそれを許可されている

「っていうか、加藤さん、仕事は？」
「今日は昼で終わったんだ。やる事が無くて寝てたんだが、お前が帰ってきた音が聞こえて目が覚めた」

加藤さんが欠伸を１つした
久々に、加藤さんがスーツじゃない私服を着ているのを見た気がした
…まぁ、加藤さん自体を見たのも久しぶりなんだけど

「あ、ごめん。起こしちゃった？静かにするから寝てていいよ」
「いや、大丈夫だ。どうせ明日も休みだから」
「えっ明日休みなんだ。じゃあゆっくり寝てられるな！俺、学校行くし、静かになると思うし」
「あ？何言ってんだ、お前も休みだろ？」

加藤さんがまるで当然だとでも言うように言った

「え？俺学校あるけど」
「休め」
「え？」
「俺が折角の休みをお前のために使ってやるって言ってんの。だから休め」
「え！？」
「嫌ならいいんだぜ別に。お前が学校行きたいなら行けばいい。俺は家でゆっくり寝てるから」
「えっダメ！休む！学校休むから！…一緒に居ていいの？」
「いいに決まってんだろ。何遠慮してんだ。ずっと仕事でお前の事ほったらかしだっただろ？」

加藤さんがそう言って俺の隣に座る
さり気なく体を引き寄せられて、頭を撫でられる
撫でられるのは、苦手だ
だけど、加藤さんにされるんだったら、嬉しいし、珍しいから大人しくしておく

「早くお前に会いたくて仕方無かったんだ」
「だったら連絡してくれたら早退したのに」
「だろうと思ったから連絡しなかったんだよ。お前には真面目に授業出て貰わなきゃ、卒業出来ないってなったら困るだろ？」
「明日学校休めって言ったくせに」
「…明日サボるんだからその分今日はちゃんと出て欲しかったんだよ」
「えー？」
「うるせぇな。さっさと寝るぞ」
「え、寝てたんじゃねーの？」
「………」
「ん？」
「…お前がいつ帰ってくるか分かんなかったから寝れなかったんだよ」

加藤さんが黙ったので加藤さんを見ると、加藤さんは視線を逸らしてそう言った
もー…何で今日はこんなに珍しく素直なんだよ…
思わずこっちも恥ずかしくなってしまう

「…何で加藤さん今日そんな素直なの？」
「うるせぇ。お前がこんなの毎回録画してんのが悪い」

どうやら加藤さんは俺が帰ってくる前に一度テレビを点けたらしい
そして録画されているこの番組とその数に気付いてしまった

「こんなのって…自分の番組なのに」
「リアルタイムで全部見れないって前に言ってたから見てないと思ってたんだよ。だから、録画してまで見てくれてるとか知らなかった。しかも帰ってからちゃんと見てるとかそりゃ嬉しいでしょうよ、司会者としても」

ちゃんとこのコーナーのポーズしてるし、と付け足されて思わず赤面してしまう
加藤さんに気付いた時に止めたその画面に映し出されているのはちょうど司会者二人がポーズして喋っている途中だった

「あ、や、たまたま！たまたまだから！毎回やってないから！今日たまたまやりたくなってこのポーズしてただけだから！」
「何焦ってんだよ」

加藤さんが笑った

「…俺、このコーナー好きだけど、好きじゃない」
「あ？」
「かっこいい外人さんとかいっぱい出るから、好きだけど。…加藤さん、瑛士と仲良しなんだもん」
「お前妬いてんのか？可愛い奴だな」
「…だって」
「お前がどれだけ妬こうが俺がどれだけ番組で誰かと共演しようがこうやって一緒に居たいと思うのはお前だけだ」

加藤さんが俺の顔を真剣に見て言う
…あーもう…だから、何で今日はそんなに素直なんだよ…

「ばーか」
「お前がだろうが。っつーかもう見なくていいのか」
「見る」
「そんじゃ早く見終わっちまえ。そんで俺は寝る」
「そんなに眠いならベッド行って寝てればいいのに」
「あ？お前が傍に居ないのに寝れるわけねーだろ」
「…もー…またそういう事言うー。普段一人で寝てるくせに」
「折角お前と一緒に居るのに一人で寝れるかっつーの」
「分かった！もう分かったから！もう何も言うなよ照れるから！」
「…ガキだな」
「うるさいなーおっさん」
「ほら早く再生しろよ」

もー誰が中断させてんだよ…
そう思いながら再生ボタンを押す
聞きなれた声がテレビから聞こえてくる
隣から、その声の主に抱き寄せられる
チラリとそちらを見ると、その人は真剣に見ていた

ああ、やっぱりその顔が好きだ

(俺、割と真面目にふざけてんな)
(え、今更？)