スピンオフ読書会10「フレンチ警視最初の事件」

日時 2013年5月4日(土)
場所 みなとみらい・臨港パーク
参加人数 11人

課題書

「フレンチ警視最初の事件」F・W・クロフツ/霧島義明訳 創元推理文庫



レポート

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読書会参加者のレポートを紹介します。未読の方はご注意ください。

・岡本のレポート
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10回目を迎えたスピンオフ読書会は、初の試みとなる「ピクニック読書会」として開催しました。
場所は横浜みなとみらいエリアにある「臨港パーク」。
海がすぐそこ、芝生の上から船が行き来する様子をのんびり眺められる、横浜市民憩いの場です。

最大の心配は、もちろん天気のことでした。雨など降ろうものなら目も当てられません。
しかしフタを開けてみれば見事なほどの快晴!
これも皆さんの日頃の行いのたまものですね。

当日はまず、先発部隊の4人が集合。
飲み物やおつまみをしこたま買い込み、一足先に臨港パークに向かいました。
我々が目を付けたのは、「みなとみらい駅」から徒歩5分ほどのエリア。場所を確保したり、ビニールシートを敷いたりしながら準備を進めます。
先発の方々、お疲れさまでした。

その後、14時に後発の皆さんが集合して会場に移動。
まずは持ち込みフードの披露タイムから(これをアテにしていたのです)!
自家製のピクルスやお酒をはじめ、デザートには鎌倉カスターなど美味しい飲み物や肴が盛りだくさん。それらをつまみながら話が弾みます。

(食べ物がたくさん集まりました。UNOは非常時の保険です)

読書会の話に移る前に、ここで少し課題書『フレンチ警視最初の事件』を選んだいきさつを。
今回のテーマは古典ということで、クロフツの作品を選びました。カー、バークリー、クリスティーときたら、やはりクロフツさんの出番です。

あらすじはこんな感じ(Amazon.co.jpより)。
リデル弁護士はダルシー・ヒースの奇妙な依頼を反芻していた。裕福な老紳士が亡くなり自殺と評決された後に他殺と判明し真相が解明される。
そんな推理小説を書きたい。犯人が仕掛けたトリックを考えてくれという依頼だ。
何だかおかしい、本当に小説を書くのが目的なのか。リデルはミス・ヒースを調べさせ、ついにはスコットランドヤードのフレンチ警視に自分の憂慮を打ち明ける。

詐欺に手を染めてしまう男女と、やがて起きる殺人事件にフレンチ警視が挑むというお話です。

(長らく入手困難となっていた『フレンチ警視最初の事件』。旧訳版はここまで値段が高騰しています。画像は2013年5月時点のもの)

クロフツ未読の方がほとんどの横浜読書会。
かねてからクロフツの名前が出るたびに、
「地味」
「時刻表が出てきたり、複雑で読みにくそう」
という声が聞こえていました。
そこで読みやすさを重視して、新訳版が刊行された『フレンチ警視最初の事件』に白羽の矢を立てました(事実、霧村さんの訳は非常に読みやすかった)。
さらに、後期クロフツの特徴が出ていることも加味しました。
クロフツといえば初期の『』や『ポンスン事件』といったアリバイ崩しもののイメージが強いですが、『フレンチ警視最初の事件』が書かれた後期には犯罪心理を扱った作品を数多く輩出していて、
犯罪に関わる人間の心理の移り変わりをドラマティックに描いています。
「アリバイ崩しだけでなく、クロフツはこういう作品も書いていますよー」という紹介も兼ねたというわけです。

さて話が脇に逸れましたが、肝心の読書会がスタート。まずは皆さんの感想を順番に発表していただきました。
後ろでは、ポータブルのスピーカーからフランク・シナトラなんかが流れています。

――懐かしのミステリーという雰囲気で良かった。時代を感じる。
――姑息な詐欺師の話だったので、嫌だった。全然進まなかった。
――サクサク読めたけれど、ミスリードに関しては見え見えだった。
――謎解き、トリックに無理があった。
――ラストが駆け足過ぎてびっくりした。
――意外と楽しめたが、「いつフレンチ警視が出てくるの?」と思いながら読んだ。
――当時からサイレンサーってあったのかな?
――「半倒叙(※)」という感じで良かった。造りが凝ってる。
――現実にもありそうな詐欺の話で、想像していたより面白かった。

※「倒叙」とは、最初に犯人が明かされる形式。ドラマ『刑事コロンボ』『古畑任三郎』もこれにあたる。

という感じです(賛否両論とは言っても、賛3:否7くらいの割合でしょうか……)。

(和やかに見えますが、詐欺と人殺しの話をしています)

その他の主な話題は、主人公である詐欺師フランクを取り巻く、2人の女性・ダルシーとジュリエットについて。

フランクとの結婚を夢見ながら、その詐欺の片棒を担いでしまうダルシーに対しては、
――疑問を抱きながらも詐欺を手伝ってしまうのは、愛した男性とつながっていたい気持ちの表れだと思う。
という感想が多く、かたや両家の娘で、フランクの本性を知らずに恋に落ちてしまうジュリエットに対しては、
――貴族の出だから世の中を知らなすぎる。可哀想な子。
という意見が目立ちました。
このように「犯罪に嵌っていく女性の心理が上手く描けていた」という感想が多かったのが印象的です。
ただし件のフランクについては「小物感がすごい」「ラストで改心したようだけど、コイツはまた詐欺をやる!」など散々な人物評でした。

さらにクロフツ好きのFさんからは「この作品でクロフツを判断してほしくない!」という悲痛な叫びが。
当日はオススメ作品リストも配布しましたが、そのほとんどが手に入りにくいのも事実(東京創元社さん、今後も復刊をよろしくお願いします)。
そこで「現在でも入手可能」という条件付きでFさんから名前が挙がったのが『クロイドン発12時30分』でした。
この作品も倒叙形式のミステリー。主人公が殺人を決意するところからフレンチ警部との攻防戦まで、読み応えがある名作です
(アイルズ『殺意』、ハル『伯母殺人事件』と併せて「世界三大倒叙」とされる。決めたのは江戸川乱歩)。
Fさんによると「『樽』も面白いからぜひ読んでみて!」とのことでした。
クロフツ作品はまだまだあります。今回の読書会が、クロフツとの良き(?)出会いの場になれば幸いです。

こうして日が暮れ始めた時間に後片付けをして終了。
いつもより脱線が多めでしたが、青空の下でお酒を飲みながら本のことを語れる時間になりました。
またやりましょう!




話題

読書会で上がった本の紹介。
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  • 『パーフェクト・ハンター』トム・ウッド/熊谷千寿訳 ハヤカワ文庫NV(上下巻)
  • 『コリーニ事件』フェルディナント・フォン・シーラッハ/酒寄進一訳 東京創元社
  • 『特捜部Q―檻の中の女―』ユッシ・エーズラ・オールスン/吉田奈保子訳 ハヤカワミステリ文庫
  • 『沈黙の殺人者』ダンディ・デイリー マコール/武富博子訳 評論社・海外ミステリーBOX
  • 『アクロイド殺し』アガサ・クリスティー/羽田詩津子訳 ハヤカワクリスティー文庫
  • 『湿地』アーナルデュル・インドリダソン/柳沢由実子訳 東京創元社
  • 『推定無罪』スコット・トゥロー/上田公子訳 文春文庫(上下巻)
  • 『模倣の殺意』中町信 創元推理文庫
  • 『ベヒモス―クラーケンと潜水艦―』スコット・ウエスターフェルド/小林美幸訳 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
  • 『樽』F・W・クロフツ/加賀山卓朗訳 ハヤカワミステリ文庫
  • 『クロイドン発12時30分』F・W・クロフツ/加賀山卓朗訳 ハヤカワミステリ文庫
  • 『殺意』フランシス・アイルズ/大久保康雄訳 創元推理文庫
  • 『伯母殺人事件』リチャード・ハル/大久保康雄訳 創元推理文庫


最終更新:2013年06月19日 20:28