よんた藩国には魔法使いに憧れる一人の手品師がいる。今回はそんな彼の休日のお話・・・
歌劇『奇術師』より、雷羅 来の謝肉祭?
彼の朝は早い。とくに休みの日の朝が・・・
ベッドの上で来は目を覚ました。時計を見ると午前6時、仕事がある日であれば二度寝としゃれ込むところだが、今日は待ちに待った休日である。ベッドから飛び起き、ペンギンの
ペンコフスキーに餌をやりながらシャワーを浴びるために浴室へと向かう。
「えっと、今日は誰を連れてこかな・・・・・」
と考えながらシャワーをすませ普段着に着替える。そして、持ち物と今日の相棒たちを決めたのち、朝ごはんに取り掛かる・・・いままで何回も繰り返した休日の朝の行動だった。
「さてと・・・」
時計を見ると、午前7時30分これまたいつもどおりだった。
「ええ朝やなぁ。なぁペンフ?」
「クワッ!」
と答えながらペンコフスキーは来を軽くつついた。ペンフなりの愛情表現だった。
「おぉ、ペンフもやっぱそう思うか。よっしゃ、ほんならそろそろ出かけよか。」
「クワッ!」
一人と一匹はマントをはおり、手にはスーツケースをたずさえ扉をあけて部屋から出た。
「ええ天気やなぁ・・・さてと、今日の開園先は、と・・・」
手をひらめかせ、メモ帳を取り出すとペラペラとめくりだした。とあるページで手が止まる。そこに書いてあるのは・・・
「あった。えーと、今日は・・・国立よんた小学校(本校)やな・・・」
国立よんた小学校(本校)・・・藩国民のほとんどが卒業生のいわずと知れた小学校である。今回の舞台でもある。
「約束の時間は8時30分やったな。こっからやったら歩いて30分ぐらいやし余裕で間に合うな。」
といいつつ来とペンフは歩き始めた。
10分後・・・
「なんか、静かやなぁ・・周りにだっれもおらへん・・・」
普通ならば、多少の人通りがあってもよさそうだが、なぜか来の周りにはペンフ以外誰もいなかった。
「なんでだれもおらへんのか知らんけど、休みの朝がこんなに静かなんわいややなぁ・・・ちゅうことで。ホイ!」
来はかけ声とともにマントをひるがえした。するとどこからともなく一羽のウサギがあらわれた。
来は「もういっちょホイッ!さらにホイッ!」とかけ声を重ねながらマントをひるがえす。マントがひるがえるたびにタヌキやアライグマなどが現れる。
「まぁ、これぐらいおったらにぎやかやしええやろ。ほなしゅっぱーつ!」
来とペンフたちは歩き始めた。
来の周囲にはペンフをいれて7匹ほど動物がいる。その集団が道の真ん中を歩いている。周りには人がいないが、もしこの光景を見た人がいたらこう言ったはずだ、『あっ、ムツゴr・・・』ではなく、『おや、まるで小さな動物園みたいだな』と・・・そう彼、雷羅 来の大半の休日は色々なところへ出向いて、動物とのふれあいの場を提供する、出張動物園屋さんなのである。
人は彼のことをこう呼ぶ『歩く動物園』と
彼になぜこんなことをするのかとたずねる人も多い。そのとき彼は必ずこう答えた『動物のストレス解消の一環や。あと、人が集まれば手品を披露できるやろ。ええ修行になんねん。』と
そうこうしているうちに場面は学校にかわる。
「とうちゃーく!えーと今の時間は・・8時15分か・・・まぁ、こいつらおるしこんなもんやろ。さてと、校長先生は・・・と」
来たちは学校内に足を踏み入れる・・と、どたどたどたどたと何人、いや何十人の子供たちが走ってきた。
そして、「きゃー、きゃー」言いながら、ウサギを抱っこしたり、ペンフをなでたりし始めた。
「おーおー、みんな元気やなぁ。ええこっちゃ、ええこっちゃ」
来は常日頃から子供は元気がないとな、と考えているので、元気いっぱいの子供たちを見ながら上機嫌につぶやいた。とそこに怒声が響き渡る。
「こらっ!あなたたち!さきに雷羅さんにご挨拶でしょ!?ほらならんで」
一人の女性が子供たちを整列させる。
この女性の名前はシェイナ、教師になって2年目の新米の先生で、眼鏡と腰まで伸びたストレートな髪が特徴的な女性である。身長は来と同じぐらいだが、ヒールの高い靴を履いているので実際はもう少し小さい。顔立ちも童顔気味でそれを隠すための眼鏡とヒール、そしてピンクのスーツを着ているが、見た感じは無理して大人ぶってる高校生みたいな感じだ。
「まぁまぁ、シェイナ先生・・・元気があっていいじゃないですか。ねぇ来さん?」
「そうそう、こどもっちゅうのは元気があってこそやで!」
と、一人の男性が来に話しかけた。
来と打ち解けているこの男性の名前はダール、この小学校の校長先生でいかつい顔とスキンヘッドが特徴的な男性で、体格も良く声も渋いため一見するととても怖い。しかしそれは見た目だけで、性格はとても優しく子供が大好きで、どんなときでも子供たちの前では笑顔を絶やさない。一年生は怖がるが、二年生以上は怖がらずになついてくる。そんな先生である。
「もう、校長先生も雷羅さんもこの子達を甘やかせ過ぎです。」
「まぁまぁ、今日は月に一度の特別な日ですから、そんなに目くじらを立てなくても・・・」
「そうそう、子供たちもわくわくしてることやし・・・」
「ダメです!最低限あいさつはきちんとしないといけません! ではみんな、雷羅さんにごあいさつするわよ? せーの・・・」
『雷羅さんおはようございます。今日は来てくれてありがとうございます。』
シェイナの合図で子供たちがいっせいに挨拶をする。
「おう、今日も楽しんだってや?」
「はい、良く出来ました。では、みんな、自由にしていいわよ。」
シェイナが言うのが早いか、子供たちがかけだすのが早いか、みんな思い思いの動物のところへ走っていった。
「ねぇねぇ、来おにいちゃん。僕、お馬さんに会いたい!」
「私は、ヤギさん!」
「俺は、ライオンがいい!」
子供たちは来の周囲に集まって、リクエストをはじめた。
「ちょっと待ってな、あっホイッ!ホイッ!のホイッと」
来がかけ声とともにマントをひるがえすと、ハトや馬、ヤギにブタ、ライオンと様々な動物が飛び出した。
『おにいちゃん、ありがとう!わーい』
子供たちは思い思いの動物に走っていった。
と、子供がペンフをなでながら来に話しかけた。
「ねえ、ペンフってなんでいつも機嫌が悪いの?」
確かにペンフはなでられているのを意に介さず、明後日の方向を見ている。
「あぁ、ペンフか。別に機嫌が悪いわけやないで、それどころかなでてもらって上機嫌ちゅう感じやな。」
「でも、ぜんぜん僕たちのほうを向いてくれないよ?」
「ペンフはちょっと変わっとてな、気に入ってる相手ほど邪険に扱うんや。とくに周りに人が多いとな。そやから今度ペンフと二人っきりになってみ?めちゃめちゃなついっ!痛たっ!」
ペンフがトコトコと来に近づき「グワッ!」となきながらスネを思いっきりつついた。あまりの痛さに来はスネをさすりながら飛び回っている。さらに軽く涙ぐんでる。
「なにすんねん!」
ペンフはいつの間にかもとの場所に戻っていて、子供たちになでられている。
ペンフの気持ちを代弁するなら、いらんことを言うな。であろうか・・・いささかの愛情表現も含まれていたりする。
「おにいちゃん、大丈夫?」
「大丈夫や。まぁ日常茶飯事やからな。」
「そ、そう・・・」
「さてと・・・おっ、ちょうど昼どきやん。みんな飯食うで!」
時計はちょうど12時をさしていた。
『はーい!』
「さぁ、みんなお昼ごはんを食べる前にしっかりと手を洗いましょうね。」
「はい、それじゃあみんな、手を合わせて、いただきます。」
『いただきます!』
「給食なんて食うの久しぶりやわ。うまそー!っとと、いただきます!」
給食のメニューは、炊き込みご飯にお味噌汁、各種てんぷらにお刺身、筑前煮、デザートにはきな粉よんた饅の黒みつがけとさすがは食の国といった内容である。
「来おにいちゃん、お昼ご飯食べ終わったら、いつもの手品を見せてよ。」
「あー、私も見たい!」
「僕も僕も!」
「おぅ、かまわへんで、そやから、早いこと食べてしまおか!」
『うん!』
「みんな、楽しそうですね。」
「はい、校長先生。ほんとにみんな楽しそう。」
「よし、来兄ちゃんより早く食べるぞ!」
「ふははは、この自分に勝てると思ってんのか?早食いは鍛えられとるわい!」
「こらっ!しっかりかんで食べなさい。来さんもですよ?」
『はい!』
『ごちそうさまでした!』
「来兄ちゃん、約束の手品!手品!」
「よっしゃ、みんな、外に集合や!」
『うん!』
来を先頭にして、全員が校庭へと走っていった。
(文:言 成)
最終更新:2008年07月03日 18:28