「ねぇ、
あずにゃん」
放課後、二人きりの音楽室。隣で私と同じようにギターの調整をしているあずにゃんに声をかける。
う~ん、私よりも手付きとかが優しい……。それだけ愛されてるってことなんだろうなぁって思って、ちょっとだけギターさんに嫉妬。
「なんですか?」
顔を上げずに、口だけを動かして答えるあずにゃん。手は相変わらずギターを撫でたりしてる。
うぅ、私にはそんな風に撫でてくれたりしないのに……。
「好きだよ、あずにゃん」
「なんですか藪から棒に」
突然の告白にも落ち着いて対処するあずにゃん。クールなあずにゃんもかっこよくていい感じだけど、昔みたいに顔を真っ赤にしてくれないのかなぁ。
昔は私のほうが優位だったような気がするんだけど、今じゃこんなに立派になっちゃって……。先輩は悲しいよ。
「用が無いのなら話しかけないでください、気が散ります」
「ごめんなさい」
うぅ……あんまりクール過ぎるのもどうかと思うよ、あずにゃん。もしかして、私って愛されてないのかなぁ。
そんなことを思ったけど、口には出さないでおく。またあずにゃんに怒られそうだし、もしそれを肯定されたらと思うと言葉が出せなかった。
どうしてこんなに臆病になっちゃったのかなぁ。あの頃はむしろあずにゃんがびくびくしてた気がするんだけど。やっぱり、私の独り相撲なのかなぁ……。
そう考えると、急に寂しくなってきちゃった。あずにゃんはすぐそこにいるのに、手を伸ばしても届かない気がしてくる。それどころか、私の声がもう届かないんじゃないかな――
「……ッ!」
自然と涙が出てくる。泣き声も出そうになったけど、その前に口元を押さえたからそれが漏れることは無かった。
慌てて俯く、あずにゃんにバレないように。こんなところを見られたら、何の脈絡も無く急に泣き出す変な人として認識されてしまう。それだけは絶対に嫌だ。
ただでさえ好感度が下がっているのに、これ以上下げるようなことをしたら今度こそ破局。あずにゃんが私のそばを離れてしまう。
……もっとも、今も状況としては大して変わってないと思うけど。
自嘲するように笑みを零す。本当に、いつから私はこんなに弱くなったのだろう。昔はもっと簡単に考えられたのにな。
そう、昔ならあずにゃんが本気で嫌がっていることも平気でできた。どれだけあずにゃんが嫌がっても、私のことを嫌いになるなんて考えなかった。
それが、今では嫌われることを恐れて、びくびくとあずにゃんの機嫌を損ねないように縮こまっているだけ。一体私たちの間に何があったのだろう。
そんなに大した変化は無かった、と思う。少しあずにゃんが大人になって、私も少しおとなしくなったぐらい。それだけで、ここまで変わるの?
「ねぇ、あずにゃん」
「なんですか、くだらない話ならまた後にしてください」
「私たちの関係って、一体どうなっちゃったんだろうね?」
ぴくりと。
ぴくりと、あずにゃんの動きが止まった。
「どういう意味ですか、それは」
「私たちの関係が解らなくなってきちゃったよ」
なんとなく。なんとなくだけどあずにゃんが怒っているような気がする。それはもう勘とかじゃなくて声色からも想像できて。
だから、慎重に言葉を選ばないといけないのに、なぜか私は思ったことをそのまま口に出してしまった。
「私はあずにゃんのことをどう思ってるの? あずにゃんは私のことをどう思ってるの?」
「……」
私の問いかけに、あずにゃんは答えてくれない。それがひどく――辛かった。
ねぇ、すぐに答えてよ。私はあなたのことが好きなんですって、あのときみたいに言ってよ。そうじゃないと、私……。
「――あなたが私のことをどう思っているのかは知りませんけど」
もう少しで泣きそうなタイミングで、あずにゃんが口を開いた。
声に宿るのは怒りではなくて、悲しみ? それとも戸惑い? そのどれよりも呆れの色が強かったと思う。
あずにゃんはその呆れた声そのままの表情で、恐らく悲痛な表情をしている私をぎゅっと優しく抱きしめた。
……あぁ、あずにゃんから抱きしめられるなんて、久しぶりだなぁ。
「私が好きなのは、後にも先にも唯先輩だけです。今だってそれに変わりは無く、あなたのことが大好きです。あなたのことを愛しています」
その言葉に。
「――うわああああああああああああああぁぁぁああああああああああああん!!!!!!」
耳元で囁かれたその言葉に、心の中で何かが決壊し、愛しい人の胸の中で私はわんわんと泣きじゃくった。