いつものように教室で昼ごはんを食べていた時のことだった。
今日は、なぜか純の機嫌が良い。
「ふふふ~ん♪」
「どうしたの? ご機嫌じゃん」
そうやって聞いたら、純は満面の笑みで言った。
「それがさぁ……、この前、梓が用事で来れなかったカラオケでさ……」
「あぁ、あれね。行けなくてごめん」
「それは別にいいんだけど、そこで澪先輩がさ、”渚にひとり”って曲を歌ったんだけど」
「何? その曲」
「魔境伝説アクロバンチのエンディングなんだけど、知らない?」
憂が当たり前のように答えた。
「いや、知らないし……」
「あれ……?」
何歳ですか? あなた……。それと、何故その曲を知っているんですか! 澪先輩!
「それは置いといて、その曲の“振り向いてジュン~”ってフレーズがすごく響いちゃって……」
「へぇ~、そうなんだ~」
「あぁ……、何だか告白されているみたいだった……」
うっとりと純は、ため息をついた。
「いいなぁ。私も告白されてみたいなぁ」
「じゃあ、憂と梓はどんな風に告白されたい?」
告白かぁ……。そう言われてなぜか唯先輩が頭に浮かんだ。
”ゆ、唯先輩とはそんな関係じゃないし! ……でも、ちょっと憧れるなぁ”
「私は別に気持ちがこもっていれば何でもいいかなぁ」
「おぉ! 憂さん寛大ですなぁ」
「そうかな? 梓ちゃんは?」
「そうだねぇ……。やっぱりストレートに”好きだ!”みたいにしてほしいかな」
「梓ちゃんは自分からしそうだけどね」
「そういう風に見える?」
「確かに梓はそういうタイプかもね?」
「もう……。そういう純はどんなのがいいの?」
「私はもう澪先輩に告白されたようなものだからいいの~♪」
「純ちゃん……、あまりそういうのは大きな声で言わない方が……」
憂が忠告したが遅かった。
「なんですってぇ!?」、「この泥棒猫がぁ!!」、「おのれぇ!」、「あなたの仕業ね!」
一斉に叫ぶ声がしたので見てみると、教室の外から澪ファンクラブの人たちが鬼の形相で睨んでいた。
「え……、いや、本当にされた訳じゃn……」
「「「「ゆ”る”さ”ん”!!」」」」
「ご、ごめんなさあああぁい!」
狂気の軍団に追われて純はあっという間に見えなくなった。哀れ……。
「だから言ったのに……」
「あ~ぁ……」
こうして今日の昼休みは過ぎていったのでした。

しかし、この時の私の言動が後にあんなことを引き起こすとは……。

それは、もうすぐ卒業式という頃。
その時私は、少し広く感じる部室で、私は憂と純と一緒に新歓ライブの練習をしていた。
「ふぅ……、こんなものかな」
「ジャズ研のほうもあるのに、純、悪いね……」
「気にしないで。私が好きでやっているだけだから」
2人とも練習に付き合ってくれて、新歓ライブまで手伝うと言ってくれた。
本当にうれしい……。
「さて、もう1回合わせようか!」
もう1度演奏しようと、私がピックを振りおろした瞬間───
ピギイイィン!
「うわっ!」
「何!?」
「放送?」
校内のスピーカーからあの独特のハウリングの音が聞こえた。
そして、私のよく知っている人の声が聞こえた。
あずにゃん、好きだ!』
一瞬の沈黙。私は状況の理解が追い付いていなくて、ただ唖然とした。
そして、頭でもう一回反芻してみた。
”この声は、唯先輩……!?”
そこまで頭が回って、ようやく顔に熱が宿り始めた。
”今、あずにゃん、好きだって言ったよね……?”
「お、お姉ちゃん!?」
「いきなり何!?」
そして、まだ放送は続いていた。
『ど、どうしよう! なんかの電源いれちゃった!』
『落ち着け、唯! とりあえず電源を落とそう!』
『いや、ここのマイクが入っただけじゃないの? 丁度いいからこのまましちゃえ!』
『律!? お前何言って……!』
『そっちの方が練習になるんじゃないの?』
『何だかおもしろそう』
『ムギも何言って……』
『さぁ、迷ったら負けだぞ、唯!』
『うぅ~! どうせ聞こえるなら、聞かせてやるさぁ!』
『話を聞けぇ!』
「何か始まったみたいだけど……」
「お姉ちゃん……」
私は唖然を過ぎて、呆然としていた。
そして、追い打ちをかけるように恐ろしいほどの音量で唯先輩が叫び出した。
『あずにゃん!! 好きだー!! あずにゃん! 愛しているんだ! あずにゃーん!』
「!?」
おそらく校内全員の頭に同じようなものが浮いたはずだ。
”何?”って声が外から5回は確実に聞こえてきた。
 『ゆいあずを結成する前から好きだったんだ! 好きなんてもんじゃない!』
『あずにゃんの事はもっと知りたいんだ! あずにゃんの事はみんな、ぜーんぶ知っておきたい!』
「何ですか!? この放送は! 私たちは今仕事してるんですよ!?」
その頃、さわ子先生の(個人的)怒りが爆発していた。
『あずにゃんを抱き締めたいんだ! 潰しちゃうくらい抱き締めたい! 世間の声は心の叫びでかき消してやる! あずにゃんっ! 好きだあああぁ!』
『いつも抱きしめているじゃん!』
『まぁまぁ、それは言わないであげて、澪ちゃん』
「突っ込みすら放送されているよ……」
純がぼそり呟いたが、私はそんなことを気にしている余裕はなかった。
 『あずにゃん! 愛しているんだよ! 私のこの心のうちの叫びをきいてくれー! あずにゃーーーん!」
『軽音部で出会ってから、あずにゃんを知ってから、私は君の虜になってしまったんだ! 愛してるってこと! 好きだってこと!』
『私に振り向いて! あずにゃんが私に振り向いてくれれば、私はこんなに苦しまなくって済むの』
『ホントは優しい君なら、私の心のうちを知ってくれて、私に応えてくれるでしょう』
その頃、生徒会室で。
「この声、平沢さん?」
「えぇ、ようやく告白しているようね」
和先輩が少し寂しげに笑っていた。
「わああぁ……。お姉ちゃん、立派じゃない!」
憂は私の隣でうっとりと声を漏らしていた。
『私は君を私のものにしたいんだ! その美しい心と美しいすべてを! 誰が邪魔をしようとも奪ってみせる!』
『恋敵がいるなら、今すぐ出てこい! 相手になってやる!』
「奪ってみせるって、よく言えるよねぇ……」
純はもう呆れかえっている。
ここまで来て、ようやく私の脳は通常のリアクションができるまでに起動した。
「にゃあああぁ! 唯先輩のバカ! なんてこと怒鳴ってるんです!」
早くやめさせないと、とんでもないことになる! ……もうなってるけど!
『でもあずにゃんが私の愛に応えてくれれば戦わない。私はあずにゃんを抱きしめるだけです!』
『君の心の奥底にまでキスをする! 力一杯のキスをどこにもここにもしてみせる!』
『キスだけじゃない! 心からあずにゃんに尽くす! それが私の喜びなんだから!』
「あれがあずにゃんでしょ?」
「幸せになってー!」
「いっぱいキスしてもらいなよー!」
「あんたもちゃんとやるんだよー!」
放送室に向かう途中でいろんな人に声をかけられた。
もう顔が真っ赤で、熱くてしょうがなかった。
 『喜びを分かち合えるのなら、もっと深いキスを、どこまでも、どこまでも、させてもらう! あずにゃん、君がおでこを出せというのなら、やってもみせる!』
「うううううぅ! 青春だからって大概にしなさい! ……そうか、放送の電源をカットすればいいんだわ!」
急いで放送室に向かう私。しかし、さわ子先生があっという間に抜いていった。
「は、速っ!」
そして───
『あ、さわちゃn……』
『お ま え ら ぁ ! か く ご は で き て る ん だ ろ う な ぁ !』
『ひいいいいいぃ!』
先輩達の悲鳴を最後に、放送は切られた。
「いや~、これでシリアスに仕事ができる」
そう言いながら放送室から帰ってきた先生。
「……」
結局私は惨状を見るのが怖くて、放送室に行くのをやめた……。

その後、白くなった先輩達が部室に帰ってきた。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「あ……、憂……」
「みんな聞いてたんですよ? 唯先輩」
純が消えかかっている唯先輩を気遣いながら言った。
「え? 何を……?」
「あれですよ。”ゆいあずを結成する前から好きだったの~。あずにゃんのことを抱きしめていっぱいキスをする~”って」
「ええぇ!? あ、あずにゃん……」
「全校放送でいっぱい叫んじゃったんだよ? お姉ちゃん」
四人が口をぽかんとあけて、“どうしよう……”という顔をしていた。
「あ、あれ……、全校放送だったのか……?」
「だからさわ子先生があんなに……」
「ご、ごめん、唯! 私が続けろっていったばかりに……」
「そ、それが本当なら……、あずにゃんがここにいる訳ないよね……、普通」
恥ずかしさが頂点に達した私は、怒涛のごとく唯先輩に詰め寄った。
「唯先輩なら私がいなかったら、校内を走り回って“あずにゃんはどこ? あずにゃんはどこ行ったの?”」
「“キスさせて、キスしようよ! 抱きしめてあげるから”って、探し回るんでしょ!?」
「そういう恥ずかしいことをさせたくなかったから恥を忍んで待っていたんです!」
「ご、ごめんなさい!」
唯先輩が勢いよく頭を下げた。
「もう、どうしてあんなこと言っていたんですか?」
「だって、あずにゃんが”告白はストレートな方がいい”って言ってたから……練習をしようとわざわざ……」
指をつんつんしながら、唯先輩が言った。
これってもしかして……、いや、もしかしなくても、唯先輩が私のためにあんな告白をしたの……?
顔がみるみるうちに赤くなるのを感じた。
「き、聞いていたんですか? あれ」
「……移動教室で丁度通ったら聞こえちゃったんだよ」
唯先輩は本当に申し訳なさそうな顔をして、沈んでいる。
「本当にごめんね……」
「ま、まったく! 本当に恥ずかしかったんですからね!?」
本当に予測不能な人だ。勝手にあんなに叫ばれて……。
「で、返事はどうするんだ?」
律先輩が言う。
「そ、それは……」
唯先輩が真剣な表情で私の答えを待っている。
私も、ちゃんと答えなくちゃ!
「……あそこまでされて、うれしくない訳ないじゃないですか」
「じゃあ……」
「もう……、特別ですよ?」
もう恥ずかしくて唯先輩の顔、まともに見れない……!
「あずにゃ~ん! ありがとう!」
声のトーンが数段上がった唯先輩が、私に抱きつく。
何だか、すごく幸せだ……。
「純ちゃん、私達はそろそろ退散したほうがよさそうね」
「そうだね」
「じゃあこっそりと……」

「じゃあ、あずにゃん。キスしよう!」
「いきなり何言ってるんですか!」
「だって私の気持ちに答えてくれたらいっぱいキスするって言ったんだけど……」
そういえばそんなこと言っていた……!
「だめ?」
「う……」
そんな上目づかいで……、瞳を潤ませながら言うなんて、卑怯です!
「……もう、特別ですよ?」
そういって私は目を瞑った。
肩に手が乗るのを感じた。
「あずにゃん……」
あぁ……、唯先輩……。
「いやぁ、疲れた~。ムギちゃん、今日のお菓子はなn……」
「「あっ……」」
今にもキスをしようとしている時に、さわ子先生が部室に入ってきた。
「あ、いや、これはその……」
「あ、あれ!? みんなは!?」
いつの間にか部室は私達2人だけになっていた。
「あ、あなた達……!」
「「は、はい!」」
さわ子先生から何か黒いオーラが……!
「青春だからって大概にしなさあああぁい!」
「「ごめんなさあああぁい!」」
この日、2度目のさわ子先生の叫びが響いた。
END



  • まさかのキングゲイナーとはw -- (名無しさん) 2011-02-02 23:29:57
  • さわちゃんwwww -- (名無しさん) 2012-12-03 19:09:55
  • 良かったわW
さわちゃんW -- (あずにゃんラブ) 2014-01-01 17:19:25
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最終更新:2010年11月26日 06:41