「これは一体……」
私、中野梓はただいま大混乱中です。
何故なら、部室に入った途端に目の前に唯先輩が2人いたから。
「「あ! あずにゃん!」」
同時に名前を呼ばれるけど、凄まじい違和感しかない。
「う、憂の仕業でしょ!? 騙されないんだから!」
部活でまた私をからかおうとしているんだ! 絶対そうだ!
「そうじゃないんだよ、梓ちゃん……」
「う、憂!?」
私の後ろに困った顔をした憂がいた。
と、言うことは……。
「ほ、本当に……、唯先輩ですか?」
「「そうだよ?」」
うわ、リアルでステレオ音声が聞こえる!
「わはぁ! なんだかおもしろ~い。もっと言って!」
「律、もっと危機感持て!」
本当にそう思いますよ、澪先輩。
「でも、何で急に唯ちゃんが2人になっちゃったのかしら?」
「「ムギちゃん、私もよくわからないんだよ……。朝起きたら隣に私がいたんだよ」」
2人の唯先輩が同時に話し始めた。さっきの律先輩じゃないけど、何だか面白いと思ってしまった。
「とりあえず、どうしようか。この状況」
困った顔をした澪先輩が言った。
「う~ん、私達で何とかできる問題なのかな」
「それはそうだけど……」
律先輩の言う通り、私達で何とかなるとは到底思えなかった。
「唯ちゃんが2人になった原因を突き止めれば、何とか出来るんじゃないかしら?」
「おぉ! ムギ、ナイス!」
「そうだな。まずは唯が2人になった原因を考えよう」
「そうですね」
とりあえずみんなで唯先輩を観察してみることになった。
しかし、見れば見るほど不思議な光景だ。双子というか、何というか……。
「でも、私はみんなと練習がしたいな」
「私はお菓子が食べた~い!」
でも、考えていることはまるで違う。どちらも唯先輩がするであろう行動だけど、対照的だ。
「しかし、同じ唯でもこうも違うものかね?」
「対照的だよなぁ」
「あ、こっちのお姉ちゃんのヘアピン。よく見たら逆だ」
「あ、本当だ」
「憂ちゃん、よく気づいたわね」
「えへへ……」
練習をしようと言う唯先輩のヘアピンが向かって左の方。いつもの位置だ。
お菓子を食べたいと駄々をこねる唯先輩のヘアピンが向かって右の方。逆の位置だ。
「これしかわからないとは……」
「同じ唯、でも考え方が違う……」
「ますますわからないわ……」
「お姉ちゃん……」
「どうしましょうか……」
とりあえず、ヘアピンの位置でR唯先輩とL唯先輩と名付けて区別してみることに。
「R唯はいつもの唯に近いよな」
「L唯は真面目にやっている時の唯みたいだな」
「でも、これ以上何も分からないわね……」
「どっちもお姉ちゃんなんだけど……」

結局、わかったのはそれだけで、誰も原因が浮かばなかったのでいつも通りに練習をすることになった。
でも……。
「R唯先輩、離れてくださいよ!」
「やだぁ! あずにゃん取られるのやだぁ!」
……R唯先輩に抱きつかれて演奏どころじゃないです。
「もう、あずにゃんは私と練習するんだからあっちいっててよ」
「やだぁ~! あずにゃんと一緒にいたいよぉ」
L唯先輩がR唯先輩と口論をしている……。自分で言っていてなんだけど、とてもややこしい!
「ほら、お姉ちゃん。練習の邪魔しちゃだめだよ?」
「うううぅ……」
お菓子を持った憂に連れられて、R唯先輩がやっと離れてくれた。
「さ、練習しよう?」
「は、はい……」
にこやかに笑うL唯先輩。確かにこれが私が望んでいた部活の光景だ。唯先輩が……まぁ、R唯先輩だけど。練習を真面目にやってくれて嬉しい。
けど、R唯先輩のすごく寂しそうな顔が気になる。
……ちょっとかわいそうだったかな。

練習もひと段落して、みんなでティータイム。
R唯先輩がここぞとばかりに私に抱きつく。
「あずにゃん分補給~」
「もう、ちょっとしつこいですよ!」
「えぇ~? ずっと我慢してたからいいでしょ?」
いつもの唯先輩より、強力に抱きつかれて私は少し苦しかった。
でも、さっきの寂しそうな顔を思い出してしまって、私はもう何も言えなかった。
「……もう、あと少しだけですよ?」
「わ~い!」
「ごめんね、梓ちゃん」
「憂、気にしないで」
私も少し寂しかったし……。
と思っていたら、急にL唯先輩が立ちあがった。
「……さぁ、休憩もここまでにして練習しよう!」
「ちょっと、L唯。張り切りすぎじゃないのか?」
澪先輩がいつもと違う雰囲気で戸惑っている。
「そんなことないよ。新入生を獲得するためにも練習しないと。ね?」
「まぁ、そうだけど……」
「さぁ、練習、練習!」
私も立ち上がろうとしたら、R唯先輩に腕を引かれた。
「ちょっと、R唯先輩……。放してください」
「……やだ」
また寂しそうな顔をして、私の腕に抱きついている。
無理に振りほどくのも少し後ろめたいぐらいに。
「……もう、怒りますよ?」
「……!」
少し声を強めに言ったら、しぶしぶ放してくれた。練習に加わろうとしたら、後ろからR唯先輩が悲しそうに言った。
「……あずにゃんは、やっぱり練習をしてくれる私の方がいいの?」
「え……?」
「やっぱり、こんな私じゃ……だめなの?」
もう目に涙をいっぱいにためて、R唯先輩が必死に言う。
「……っ!」
「唯先輩!」
R唯先輩が泣きながら部室から出て行ってしまった。
「あずにゃん!」
R唯先輩を追おうと思ったら、L唯先輩に呼び止められた。
「別に追わなくていいよ。練習しよう?」
「で、でも……」
「練習しない人なんて、軽音部にいらないでしょ?」
「う……」
確かに部活にやる気のない人なんて、いても仕方が無い。でも、あんな唯先輩放っておけない!
「……ごめんなさい!」
「あずにゃん、行っちゃうの……?」
「え……?」
L唯先輩が同じように寂しそうな顔をして言う。
「あずにゃんがしっかりしている先輩でいて欲しいって言うから、私はこうやって……」
もう、どうしたらいいの!? R唯先輩も心配だけど、L唯先輩もなんでこんな目するのよぉ!
「……L唯先輩、私は唯先輩が大事なんです。だから、どっちか大事というわけではないんです」
「……あずにゃん」
「だから、行きます。必ず戻ってきますから」
L唯先輩が俯いてしばらく黙りこくってしまった。
「……本当に戻ってきてくれる?」
「当たり前ですよ。だから、待っていてください」
「梓ちゃん、お姉ちゃんのことお願いね?」
「わかってる。じゃ行ってきます!」
私はR唯先輩を追って、部室を出て行った。

「R唯先輩、どこ行ったんだろう?」
学校にも見当たらないし、下駄箱を見に行ったら靴が無かった。
「携帯……、L唯先輩が持っていたから無理か」
どうしよう……。家には帰っていなかったし、あとは……。
「……あ」
あそこかも……。
私は走って向かった。
「……いた!」
あの河川敷で小さく丸まっている背中を見つけた。
「唯先輩!」
「うっ……あずにゃん……」
涙で顔がぐしゃぐしゃの唯先輩。私を見つけて立ち上がろうとしたけど、やめて座ってしまった。
「もう、探しましたよ?」
「……」
隣に座るけど、目を合わせてくれない。
「さ、唯先輩。戻りましょう?」
「……やだ」
はぁ……。子供ですか。
「みんな心配してますよ?」
「……だって、あずにゃんは部活をやる私がいいんでしょ?」
「それは……まぁそうですけど……」
「じゃあ放っておいてよ……」
R唯先輩も、唯先輩であって本当の姿なんだ。例え部活にやる気が無くたって……。
「……でも、あなたも唯先輩でしょ?」
「でも、あずにゃんに嫌われる私なんて……やだ」
私、唯先輩のこと嫌っているって思われていたのか……。
「……別に嫌っていませんよ」
「……本当?」
「本当です」
唯先輩が少し顔を向けてくれた。
「じゃあ……私のこと好き?」
「え!?」
「どうなの……?」
改めてそんなこと聞かれると、どうなんだろう?
私は唯先輩のこういうだらしのない所は好きじゃない。でもこれが無いと唯先輩じゃないし……。
今日はこれが無くてなんていうか、寂しかった……。
「……す、す……」
「……やっぱり、私は……」
「あああぁ! もう、好きですよ! 大好きです!」
あぁ、言ってしまった……。
「じゃあ、抱きしめて」
な、何ぃ!?
「不安なの……。こんな私をあずにゃんは受け入れてくれるのか……」
「受け入れるも何も……唯先輩なんだから、それは……」
「でも……、不安なの」
「……もう、しょうがないですね」
ぎゅっ……。
抱きつくのって何だか恥ずかしいです……///。
「あずにゃん……」
「もう、泣かないでくださいよ」
「ごめんね、嬉しくってつい……」
本当に世話が焼ける人ですね……。
そういうところも、唯先輩らしいですけど。
「さぁ、戻りましょう?」
「うん!」

「うぅ……あずにゃん……」
「こっちはこっちで泣いてるし……」
部室に戻ると出迎えてくれたのは泣き腫らした顔のL唯先輩だった。
「もう、戻ってくるって言ったじゃないですか」
「だって……だってぇ……」
「もう……」
ぎゅっ……。
こっちの唯先輩にも抱きついてあげた。
べ、別に変な意味は無いですよ!?
「あ、あずにゃん///」
LとR、正反対な唯先輩だけど、やっぱりどっちも唯先輩だな。
「……ありがとう、あずにゃん」
「私もぎゅってしてよぉ」
横で見ていたR唯先輩が耐えきれずに加わって、3人で抱き合う形に……。何だか暑苦しい。というか恥ずかしい///。
すると、唯先輩に異変が起きた。
「ゆ、唯の体が……!」
「光ってる!?」
「おおおぉ……!」
眩しくてそれからはよく見えなかった……。

どれくらい経ったのかよくわからないけど、唯先輩を抱いている感触が変わった。
「ゆ、唯先輩……?」
「わ、私どうなったの……?」
目の前には一人になった唯先輩がいる。
「も、元に戻ってますよ!」
「え? 本当!?」
目の前でくるくる回る唯先輩。確かに一人しかいない。
「やったよあずにゃん!」
「い、いきなり抱きつかないでください!」
もう、本当に世話が焼ける人ですね……。
「いやぁ、一時はどうなる事かと思ったよ」
澪先輩が安堵のため息をついた。
「元に戻ってよかったな、唯」
「いやぁ、りっちゃん。ご心配をおかけしました」
「でも、何で唯ちゃんは2人になったのかしら?」
ムギ先輩がみんなの疑問を代弁してくれた。
「あ、それはなんとなくわかったよ」
「本当? お姉ちゃん」
「うん」
唯先輩が2人になった理由ってなんだろう?
「多分ね、私が色々悩んでいたせいだよ」
「何悩んでいたんだ?」
澪先輩に聞かれて、少し頬を染めて唯先輩は言った。
「あずにゃんって私のことどう思っているのかなって」
「な……///」
「キマシタワー!!」
「お、お姉ちゃん///」
「それが知りたくてしょうがなかったんだ。だから、あんなことに……」
「いや、それだけじゃ人間は2人になったりしないぞ……」
「澪、世の中には都合のいい言葉があってだな……」
「何だよ?」
「そのとき、ふしぎなことが起こった! ってね」
「太陽の子ね!」
「2人とも何の話をしてるんだ……」
先輩達で何か話しているようだけど、そんなことはどうでもいんです。
問題は唯先輩が言っていたこと。私が唯先輩をどう思っているか悩んでいたって……。まさか!
「ゆ、唯先輩。2人の記憶ってありますか……?」
「うん。どっちの私の記憶もあるよ」
ということは……、私が言ったあれも覚えているってことだよね……。
「いやぁ、あずにゃんがあんなことを言ってくれるなんて……///」
「なぁ、唯。梓はなんて言ったんだ?」
「あのね……s」
「あああああぁ! 言っちゃだめです!」
「なんだよぅ、教えてくれたっていいじゃないか」
律先輩が顔を輝かせて聞いてくる。
「絶対教えてあげません!」
あんなことばらされたら後で何言われるか……!
「なぁ、いいじゃないか梓~」
「断固拒否します!」
「まぁ、こういうことだけどね」
「唯先輩、何を……、!?」
顎をすくわれたと思ったら、そのまま唯先輩の顔が近づいて……。
「!!///」
周りから息をのむ音がたくさん聞こえた。
「こういうことだよ、りっちゃん」
「そ、そういうことか。梓ぁ///」
律先輩にからかわれているけど、そんなことに頭は回っていなかった。
キスされた。唯先輩にキスされた!!
それだけが頭をぐるぐる回る。
「はああぁ……///」
私はもう呆けてしまって、怒る気にもならなかった。
「あずにゃ~ん。愛しているよ~」
そして、愛のホールド……。
もう、ゴールしてもいいよね……?
「……はっ! そういうの、軽々しく言わないでください!」
何とか現実に戻ってきた私は唯先輩に文句を言えた。
「じゃあ、態度で示すよ!」
「え……?」
キスまでしたのに、さらにいくとなると……。
「だ、だめです! ここでなんて……」
「ここじゃなければいいの?」
「そういう問題じゃないです! もう、唯先輩のばかああぁ///!!」

END


  • どっちの唯も可愛い・・・ -- (名無しさん) 2010-12-05 01:19:01
  • 別のSSでは梓が分裂したなwww まあ唯だから危害はなさそう -- (名無し) 2012-08-06 12:12:05
  • 良かったな、戻って。しかしみんなの前でキスとはな -- (あずにゃんラブ) 2013-01-12 05:55:55
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最終更新:2010年12月03日 03:20