梓「ゆ、唯ちゃん……」
唯「ほえ?」
そう呼べばかつる!というまるで根拠の無い神託が下ったので、
意を決してそう口にした私に対して、意中の人物はきょとんとした表情を浮かべる。
梓「い、いやその……、照れたりしないんですか?」
唯「照れる?なんで?」
梓「……」
ダメじゃん。
ダメじゃん神託。
寧ろ、照れているのは私の方であって、これじゃあいつもと全く同じ展開じゃないですかこのやろう!
ありもしない脳内の神託に罪をなすりつけて、私はやさぐれた。
唯「あずにゃん、顔赤いよ?」
梓「誰のせいだと思ってるんですか」
唯「ぎゅってしてあげようか」
梓「な、なんでそうなるんでs」 唯「ぎゅー」
梓「ふにゃぁぁ……」
あぁぁぁ。ダメになる、ダメになるうぅぅ。
どうして、この人に抱きしめられるとこんなに落ち着いてしまうんだろう。
もう、いいですよ。
ええ、負けですよ。今日も私の負けでいいですよー。
でも……。
次こそは照れさせてみせますから!
覚悟しておいてください、唯先輩!!
紬「え?唯ちゃんを照れさせたい?」
梓「はい」
紬「どうしたの、突然?」
私が勝利を収めるために、百合のかみs――もとい、ムギ先輩に相談を持ちかけた。
どうしたの、と聞かれても返答に困るところではあるが、
ここでこの人に嘘をついても、どうせ見抜かれるに決まっている。
ならばいっその事、本当のことを話してしまったほうが話が早い。
本当のこと、と言っても大したことじゃない。
唯先輩の過剰とも言えるスキンシップ。
いつも私ばっかり顔を赤くして照れているというのに、彼女は微塵もそういう素振りを見せない。
だから、たまには私の方から、唯先輩をそういう目にあわせてみたい―。
たったそれだけのことなのだ。
紬「なるほど、つまり……梓ちゃんは左側になりたいということね」
梓「ひ、ひだり?」
これは、私の読解力、或いは語彙が足りないのだろうか。
左ってどういうこと?
……教えて偉い人!!
紬「……」
困惑する私の表情を見てか、ムギ先輩が更に言葉を繋げる。
紬「分かりやすく言えば、攻めにまわりたいのよね」
梓「攻め?」
攻めるから攻め?
むぅ。こちらの方が幾分わかりやすいか。
梓「えっと、多分、そういうことだと思います」
紬「そうね……、唯ちゃんは甘えたり甘えられたり、そういうスキンシップにはまるで抵抗がない」
だから、唯ちゃんと同じ方向性で梓ちゃんが攻めたとしても、貴女が望む結果は得られない。
ムギ先輩は、何故だかやたらと嬉しそうに、そう説明を続ける。
紬「だけど、こと恋愛に関しては、まるで耐性が無い」
勿論、私の憶測だけれどね、と可愛らしく片目を瞑る。
紬「だから、私が梓ちゃんに授けられる方法はこれしかないと思うわ」
ムギ先輩から授かった、唯先輩を照れさせる方法。
その台詞を忘れぬよう、何度も心の中で反芻する。
冷静に考えていれば、これが如何に恥ずかしいことか分かりそうなモノなのだが、
悲しいかな、この時私の脳内はアドレナリンで満ち溢れていた。
部活の時間が終わり、先輩たちと揃って下校する。
律「んじゃ、唯、梓、また明日なー」
澪「またな」
唯「りっちゃん、澪ちゃんばいばーい」
梓「お疲れさまでした」
そして律先輩たちと別れ、唯先輩と二人きりの時間が訪れた。
唯「あっずにゃぁぁん」
ふたりきり~、等と口にしながらいつものように抱きついてくる唯先輩。
梓「ええ、この時を待っていました」
至って真面目な顔で、私はそう口にした。既に戦いは始まっている。
おふざけの雰囲気は、不要だ。
唯「え……、ど、どうしたの?」
梓「……唯」
唯「は、はい!?」
梓「唯は、私のこと、好き?」
唯「う、うん……、好きだよ、あずにゃん」
梓「……そう、それじゃあキスしようか」
唯「っ!?ど、どうしたのかな……あずにゃん、急に、そんな……」
梓「好きなんでしょ? 私も唯のことが好き。
愛してるの」
抱きついてきた状態で硬直する唯先輩の背中に、そっと手をまわす。
唯「あ、わわわ、あずにゃ……、だ、ダメ……だよぅ……」
……勝った。危うく敬語を使いそうになったが、問題ないレベルだ。
ふふふ、さすがですムギ先輩。ほら、見てください、この唯先輩の表情!
顔を真っ赤にして、目尻に涙を浮かべて――
……あれ?
なにやってんだ私。
ガチ告白みたいになってるじゃん。
どうやって収拾つけるつもりだよ?
まぁ、いいか。
……割と本心だったりするし、ね。
その日から、唯先輩のスキンシップが更に激しくなったのは言うまでも無い。
- 百合の神様www -- (名無しさん) 2012-11-12 01:00:54
- やはりムギ先輩は百合の神様でしたか! -- (あずにゃんラブ) 2013-01-22 00:35:39
最終更新:2010年12月19日 13:53