いつもの部活。
「ねぇ、ここの意味がわからないんだけど……」
「唯先輩、それは前教えたじゃないですか」
「えへへ……、ごめんね?」
「もう、真面目にしてくださいよ」
……ごめんね、あずにゃん。
「これは強くって意味です。で、これがここまで戻るっていう意味で……」
「ほうほう……」
私、ずっと嘘をついているんだ……。
「まったく、唯先輩はダメ過ぎですよ」
「面目ないです……」
始めは初心者だったけど、さすがにギターをやっていると音楽について少しはわかるようになった。
でもね、あずにゃんと一緒にいたいから、こうやってわからないと嘘をつく。
こんな私のことを呆れちゃうかもしれないけど、それでもいいんだ。
ずっと、私のことを考えてくれていれば。
ずっと、私と一緒にいてくれれば。
私が頼りなくて、いつまで経っても音楽用語を覚えていなければ、ずっと見ていてくれるでしょ?
ギターのメンテナンスだって何だってあずにゃんと一緒にいられる材料になる。
それで、私が情けない先輩に見られているのもわかる。
でも、私が真面目に音楽をしたら、君は今と同じようにそばにいてくれるのかな。
ただの先輩と後輩っていう関係になっちゃうのかな。
そんな堅苦しい関係なんて、私は嫌だ。
例え頼りないって思われても、あずにゃんとはそういう壁は作りたくない。
あずにゃんは馴れ合った関係のほうが好きじゃないみたいだけどね……。
「唯先輩、どうしたんですか?」
「ううん、何でもないよ」
本当は君を独り占めしたい。私のものだって叫びたい。
でも、私は臆病だからみんなの前で抱きついて見せたり、嘘までついて2人だけの時間をつくることしかできない。
お互いの関係を壊さないように、そっと近寄る程度しかできない。
もっと親密な関係に踏み込めない。
いつものじゃれあいとしてじゃないと、君のことを好きだって言えない。
本当に打ち明けたら君はどんな顔をするのかな。
君は受け入れてくれるのかな……。
そんなこともできないから、こうやって嘘をつく。
こんなずるい方法でしか、あずにゃんを引き止めておけない。
私の物だって言えない。
……私って、我儘でずるいね。
END
最終更新:2010年12月10日 13:52