「……これ、何だろう」
部室の机の上にキャンディーが詰められたビンが置いてある。
「ムギ先輩が持ってきたのかな」
ビンには自由にどうぞと書かれた張り紙がある。
「しかし、これ何味なんだろう?」
中には赤いのと青いのが二つ入っている。ビンに何味かまったく書かれていない。
「まぁ、これでいいか」
私は赤いキャンディーを1個取り出し口に入れた。
「……甘い」
何とも言えない味が口に広がる。
「あ、あれ……?」
しかし、しばらく舐めていると異変に気付いた。
「な、何だろう。目線が低く……」
それに、服も何だかぶかぶかになっていく。
「お、あずにゃ……。!?」
そこに、唯先輩がやってきた。
しかし、入り口で何故か固まる。
「どうしたんですか? 唯ちぇんぱい」
と、私も自分の喋った言葉に固まった。
……今、私”唯ちぇんぱい”って言った!?
私は小さい時に舌っ足らずだったので、よくからかわれたりした。
でも、小学4年生ぐらいになったら治って、自然と話せるようになっていた。
……なのに、なんで今頃?
軽くショックを受けていると、唯先輩が歩み寄ってくる。
……けど、
「お、大きい……」
私に歩み寄る唯先輩は、とても大きく見えた。
いや、実際に大きかった。
あずにゃん、だよね?」
すごく戸惑っている唯先輩。一体どうしたんだろう?
「は、はい。そうですけど?」
「本当にあずにゃん?」
「しつこいです!」
もう、唯先輩はだめだめですね。
「か、かわいいぃ!」
「にゃぁ!」
何だか何だかよくわからない……。
「ちょ、ちょっと離してください!」
「あずにゃん、ちっちゃくてかわいい~」
抱きつかれているというより、もはや抱っこされている。
「……!?」
抱っこされながら視界に鏡が入った時に自分が見えた。
「う、うそ……。ちっちゃくなってる!?」
しかし、どうみても幼稚園か小学低学年ぐらいにしか見えない私が映っていた。
「そ、そんなああぁ!」

「……落ち着いた?」
「……うん。ぐすっ……」
いや、部室に入った瞬間我が目を疑ったよ。
だって、部室に天使がいるんだもん。
それに、いきなり泣き出しちゃうから、焦ったよ。
何とか落ち着かせて話を聞いてみると、どうやらこの子はちっちゃくなったあずにゃんのようだ。
まぁ、天使に変わりないけどね。
「わ、私、元にもどれなかったら……ぐすっ」
「ああぁ! ほら、泣かないで? 私が何とかしてあげるから、ね?」
「うううぅ、唯ちぇんぱぁい!」
そう言ってあずにゃんが泣き出してしまった。
「お~、よしよし」
「ううぅ、ぐすっ……」
でも、どうしたら元に戻れるのかな。
「……」
「どうしたんですか?」
それにしてもかわいいなぁ……。
ぷにぷにのほっぺに、大きな目、綺麗な黒髪……。
「もう……、人がこんなに……ぐすっ」
「わ、ごめんね!? ちゃんと考えるから!」
「……ぐすっ」
「あずにゃん、どうして小さくなったのかわからない?」
「わかんないよぅ……」
「う~ん、原因がわからないと何ともなぁ……」
ガチャ
「お、唯いるじゃん」
「ごめん、遅くなった」
「早速、お茶の準備するわね」
「あ、みんなぁ!」

私はこれまでのことをみんなに話した。
「このちっこいのが、梓だっていうのか?」
「にわかに信じがたいな」
「本当に梓ちゃんなの?
「はい、本物です」
「で、どうやったらあずにゃんが元に戻るかわかんないんだよ……」
「原因が何か分かれば、それなりに考えれるんだけどな」
「そうだな~。あ、このキャンディーも~らい!」
うぅ、こういうの、万事休すっていうんだろうね。
「そういえば、それ唯ちゃんが持ってきたの?」
ムギちゃんが机の上にあるキャンディーのビンを指差した。
「え? 私こんなキャンディー知らないよ?」
「ああぁ! 律ぅ!」
澪ちゃんの驚く声を聞いて見てみると、りっちゃんがちっちゃくなっていた。
「あ、あたしどうなったの?」
「り、律が……」
「み、澪ちゃん!」
澪ちゃんが気絶しちゃった……。
「ムギ、あたしどうなったの!?」
「りっちゃん、鏡をどうぞ……」
「……まじかよ」
鏡をまじまじと見つめて、固まるりっちゃん。
「これで、このキャンディーが原因だってわかったわね」
「そうだね……」
犠牲者が2名、被害者1名ほどでましたけど。

「とりあえず、これを舐めると子どもになってしまうのね?」
「多分……」
「これを調べれば何かわかるかも……」
ムギちゃんがビンを取ってみたり、中のキャンディーの匂いを嗅いでみたりして調べる。
「どう、何かわかった?」
「……どこが作ったとか、何キャンディーなのかとか全然書いてないわね」
「それじゃあ……」
「うちのほうで調べさせましょう」
そう言うと、ムギちゃんは携帯でどこかに連絡を入れた。
「あ、もしもし? すぐに鑑識をまわしてください。非常事態です」
ど、どこに電話しているんだろう……。
それから5分ぐらいして、部室に3人の男の人が現れた。
「どうも、ご苦労様です」
「連絡のあったのはこれですか?」
「はい。この中身を調べていただきたいのです」
「わかりました。結果は追って連絡いたします」
「よろしくお願いします」
そういってビンからいくつかキャンディーを取り出すと持って帰っていった。
「あの人たち誰?」
「あぁ、うちの捜査班よ?」
「捜査班……!?」
そんなすごいのがいるんだ……。
「とにかく、今はあの人たちに任せましょう?」
「そうだね」
これで、2人とも元に戻れるといいなぁ。
「うぅ……」
「あ、澪ちゃん気がついた」
「私、律が小さくなる変な夢を見た……」
「残念ながら、夢じゃないわ」
澪ちゃんが小さくなったりっちゃんを見て、固まった。
「……」
「み、澪ちゃん……?」
また、澪ちゃんが気絶してしまった。

「大丈夫?」
「何とか現実を受け入れることはできた……」
澪ちゃんは何とか正気を保ってりっちゃんを見つめる。
「まぁ、見た目以外は何も変わってないからましかな……」
その頃、あずにゃんとりっちゃんは2人で遊んでいた。
「しかし、あずさもきれいなかみだねぇ!」
「そうですか? ありがとうございます」
「さらさらだぁ~」
「ちょ、ちょっとあんまりさわらないでください」
「かわいいなあぁ~」
「や、やだぁ……」
「ちょっと律、梓が嫌がってるだろ?」
澪ちゃんがりっちゃんを引き離した。
「えぇ~? だって梓のかみきれいなんだもん!」
「でも、嫌がってただろ?」
あずにゃんも少し泣きそうな顔をしている。
「あずにゃん、大丈夫?」
「……唯しぇんぱぁい」
ちょこちょこと私に寄ってきて、抱きついてきた。
「よしよし……」
「うぅ……、やめてって言ったのに……」
「ほら、律、謝れ」
「ごめんなさい……」
りっちゃんが沈んだ表情であずにゃんに言う。
「……うん、いいよ」
何とか仲直りできたようだ。よかった。
「しかし、これじゃこっちが持たないな……」
「そうだね。小さい子を相手にするのは好きだけど、ずっとこうだと疲れるよ……」
2人ともあんまり気にしてないようだけどね。
「2人とも、お菓子持ってきたから休憩にしましょう?」
「おぉ、待ってました!」
ムギちゃんがお茶を入れてくれた。
「こっちの2人もどうぞ?」
「わあぁい!」
「いただきます」

「お菓子を食べている間はおとなしくしていてくれるから、楽だなぁ」
澪ちゃんが心底疲れた声を出した。
「でも、いつまでもこういう訳にはいかないわね」
「そうだな。ムギのところで何かわかればいいんだけど……」
「それまでは待つしかないわね」
はぁ、このまま元に戻らなかったらどうしようかな……。
「唯しぇんぱい。私、元に戻れますよね?」
「うん。何とかして見せるよ」
「うぅ……、元に戻りたいよぅ」
あぁ、また泣き出しちゃった。
「よしよい。もし元に戻らなくても、私が面倒みてあげるからね?」
「……じゃあ、けっこんとかしてくれるんですか?」
「もう結婚でも何でもしてあげるから元気出してよ」
「……じゃあ、私唯しぇんぱいと結婚する……」
「はいはい……」
それからしばらく、あずにゃんは私の胸の中に収まっていた。
「あ、メールだわ」
ムギちゃんの携帯が鳴った。
「あ、元に戻る方法がわかったって!」
「本当か!?」
「えっと、ビンの中の青いキャンディーを食べると成長するらしいわ」
「じゃあ、早速食べさせよう!」
あずにゃんとりっちゃんに青いキャンディーを食べさせると、体が大きくなり元に戻った。
「や、やったぁ!」
「元に戻ったああぁ!」
「よかったな2人とも」
「うん。ムギ、サンキュー!」
「いいえ。当然のことよ」
「唯先輩、色々ご迷惑をおかけしました」
「ううん、気にしないで。元に戻ってよかったね」
「はい」
いやぁ、今日は本当に疲れた……。

数日後。
「最近不景気ですね」
「お、あずにゃん難しい言葉知ってるね」
「こんなの当たり前ですよ」
「まぁ、いくら不景気でもあずにゃんのこと頑張って養うよ」
「唯先輩が? まさか……。もっと定職に就きそうな人と結婚して、安定した生活をします」
「あ、あずにゃんは私と結婚するんじゃなかったの!?」
「あ、あれは……」
「はぁ~ぁ、あの時は”私、唯ちぇんぱいのお嫁さんになる~”とか言ってたのになぁ」
「そ、そんなの小さい時の話じゃないですか」
「そんなに経ってないけどね」
「それ、私がまだこどもってことですか!?」
「そんなこと言ってないよ」
「言っているようなものです! これだから唯先輩とはけっ……」
「私とは、何?」
「な、何でもないです!///」
「……あずにゃん」
「何ですか?」
「私、こんな人だけどあずにゃんのこと大事にするよ」
「……///」
「だから、ね?」
「……もうちょっとちゃんとしたら、考えてやってもいいです」
「うん。だから、その薬指空けておいてね?」
「……///」

END


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最終更新:2010年12月19日 14:42